ロボトミー手術とは?前頭葉切除実験の現在…史上最悪ノーベル賞 [精神外科]

ロボトミー手術。それは、精神の殺人といわれる外科手術の一種だ。昔、精神病患者へ実験的に行われていた。しかし、ロボトミー手術をきっかけに殺人事件が起きた事もある。今回は、実験と事件についての詳細、現在にせまっていきましょう。

ロボトミー手術とは?前頭葉切除実験の現在…史上最悪ノーベル賞 [精神外科]のイメージ

目次

  1. 1史上最悪ノーベル賞と言われており、殺人事件の引き金ともなったロボトミー手術とは。
  2. 2ロボトミー手術。実験の始まりとノーベル賞受賞まで
  3. 3ノーベル賞受賞 エガス・モニス
  4. 4ロボトミー手術を発展させたウォルター・フリーマン
  5. 5現在では行われてないがアメリカの精神病院では人体実験やロボトミー手術が頻繁に行われていた。
  6. 6日本におけるロボトミー手術
  7. 7魂の殺人とも言われていた手術の後遺症と精神に対する副作用とは
  8. 8日本では、ロボトミー手術(チンブレクトミー手術)が原因で殺人事件も起こっている
  9. 9現在でも精神病患者向けに行われているロボトミー手術

史上最悪ノーベル賞と言われており、殺人事件の引き金ともなったロボトミー手術とは。

精神疾患者に絶大な効果があったと言われ、実験的に行われてた


出典: https://ameblo.jp


出典: http://karapaia.com

ロボトミー手術は、頭の両側に穴をあけ、その穴にロボトームという長いメスをいれて前頭用を切除するという外科手術の一種である。
前頭葉は、意志や言語の理解、計画性、怒りや悲しみという衝動の抑制等、ヒトの社会性を司る器官であり、そこを切る事で凶暴な精神疾患者や自殺癖のある鬱病患者に絶大な効果があったと言われている。

また「人間の精神を奪いロボットのような状態にしてしまうのでロボトミー」という説が囁かれているが、これは誤解である。

ロボトミーという言葉は、肺や脳などで臓器を構成する大きな単位である「葉」を一塊に切除することを意味している。いわゆる外科の術語だ。

また、日本では別名、チングレクトミー手術ともいう。

今回の記事で言うのロボトミーでは「前頭葉切除」を意味する。癌のため、肺の一部分を葉ごと切除する事も、ロボトミー手術のひとつであるとも言える。

また、この手術がきっかけで殺人事件がおきた過去もある。

ロボトミー手術。実験の始まりとノーベル賞受賞まで

世界初のロボトミー手術の実験台は、チンパンジーだった。


出典: https://news.infoseek.co.jp

世界初のロボトミー手術は、1935年に、ヒトではなくチンパンジーに行われた。

チンパンジーの前頭葉切断を行ったところ、普段とても凶暴だったチンパンジーの性格がとても穏やかになったとの報告があったのだ。

この報告をうけ、同年にポルトガルの神経科医であるエガス・モニスと、外科医であるペドロ・アルメイダ・リマがタッグを組み、初めてヒトを利用し前頭葉の切除を実行した。

さらに1936年には、ジョージ・ワシントン大学でも、ウォルター・フリーマン博士の下、アメリカで初めてのロボトミー手術が行われた。

対象者は、63歳の激越性うつ病患者の女性だったという。

1930年台当時は、精神疾患は治療が不可能と思われたが、ウォルター・フリーマンの手術によって、ある程度は抑制できるという結果がでた。後遺症や副作用には目もくれず、世界的に注目されることとなる。

しかし蓋をあけてみると、現在と違いレントゲンもない時代である。

現在のように脳の中をカメラや写真で見ることもできない状態で、ウォルター・フリーマンたちは無理矢理頭蓋骨に穴を開け、前頭葉を切除するという非常に乱暴で実験的な手術を行っていた。

また、それによりモニスは世界で広く知られた。その名声はノーベル賞受賞という形で最高潮に達する。

ノーベル賞受賞 エガス・モニス

ノーベル賞を受賞したエガス・モニスの患者は、彼へ復讐するために殺人未遂事件を起こしている


出典: https://ja.wikipedia.org

ノーベル賞を受賞したエガス・モニス

なんと65歳のとき、ロボトミー手術を行った自分の患者に銃撃されて脊髄を損傷し、それが後遺症となってしまい身体障害者になった。

現在でもロボトミー手術の被害で精神が蝕まれた当事者と、その家族たちが、エガス・モニスのノーベル賞取り消しのための運動を行っている。

ロボトミー手術を発展させたウォルター・フリーマン

ウォルター・フリーマンは、実験からひとつの術式にまで発展させた。


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エガス・モニスの前頭葉の一部分を切除する治療法(発案された当時はロイコトミーと呼ばれていた)を、知ったウォルター・フリーマンは、エガス・モニスを師匠と仰ぐようになった。

そしてそれを「ロボトミー」と呼ぶ術式に発展させた。

また、ロボトミーを開始して10年後、ウォルター・フリーマンは、イタリアの精神科医アマロ・フィアンベルティの論文より、眼窩(眼球を収める頭蓋骨のくぼみ)を経由して脳に到達する技法を知った。

それを使えば、頭蓋骨を砕く事なく脳にメスを入れる事ができるのである。

この新しい技法について実験を行った後、ウォルター・フリーマンは「経眼窩ロボトミー」を完成させる。

本人いわく、ウォルター・フリーマンは3500件のロボトミー手術に携わったという。


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現在では行われてないがアメリカの精神病院では人体実験やロボトミー手術が頻繁に行われていた。

実験場だった言われている、マンテノ州立病院。

出典: http://onikowa.com


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出典: http://onikowa.com

日本におけるロボトミー手術

日本で初めてロボトミー手術を行った中田 瑞穂氏


出典: http://www.bri.niigata-u.ac.jp

例外なく日本でも、総合失調症患者を中心にロボトミー手術(日本では別名:チングレクトミー手術とも言われている)は行われた。

第二次世界大戦中から戦後まで行われていたが、「精神外科を否定する決議」が可決されて以降は、行われなくなった。

日本でロボトミー手術を行った患者の解剖を行ったところ、前頭葉全体が何も入っていなく、空洞になっていたという。

魂の殺人とも言われていた手術の後遺症と精神に対する副作用とは


出典: http://karapaia.com

前頭葉の切除はあまりにも負担が大きく、手術を受けたうつ病患者の6%は、手術から生還することはなかった。

生還したとしても、そこには後遺症や副作用が残る地獄の世界が待っていた。

自分たちの面倒も見られないような、子供同然になってしまのだ。引きつけ、記憶喪失、運動技能の喪失などのような後遺症や副作用に悩む患者も多く、手術から生還後も、自殺という形で命を落とす人もいた。

衝動的ではなくなったのかもしれないが、無気力、抑制の欠如などの副作用や後遺症が残る以上、不可逆的だが根本的に治療ができたとは言えない事態となっていた。

日本では、ロボトミー手術(チンブレクトミー手術)が原因で殺人事件も起こっている

日本で起こったロボトミー殺人事件

1979年、9月の出来事である。

元スポーツライターだった桜庭章司(当時50歳)が、ロボトミー手術(チングレクトミー手術)を受けたことで自身の人間性を奪われたとして、執刀医の殺害を目論み医師の自宅に押し入った。

執刀医の妻と母親を拘束し、執刀医本人の帰宅を待つが、帰宅しなかったことから妻と母親をナイフで殺害。金品を奪って逃走する。

偶然、池袋駅で職務質問した警察官に、銃刀法違反の現行犯で逮捕され事実が明らかとなった。

1993年、東京地裁で無期懲役の判決が下る。
しかし検察側・桜庭章司側双方が控訴、1995年に東京高裁が控訴を棄却したため、桜庭章司側が上告するも1996年に最高裁で無期懲役となった。

殺人事件を起こした桜庭章司の生い立ち


出典: https://news.infoseek.co.jp

チングレクトミー手術は、患者の攻撃性や爆発性を選択的に除去する効果があるという大義名分のもとに手術が行なわれてきた。

ロボトミー手術と同様、患者の頭皮を開いてから頭蓋骨を切り取って脳硬膜を開き、大脳間裂を広げて外科的な傷を加える手術をチングレクトミー手術という。

犯人である桜庭章司が、何故この手術を受ける事となったのか、筆者は背景を追ってみる事にした。

彼は、1992年1月1日、長野県松本市で次男として生まれた。

子供の頃から神経質なところがあったが、気が強く明るい子だったという。

小学校卒業後、東京高等工学校(現・芝浦工業大学)付属工科学校に進学したが、家庭の生活を支えるため、1年で退学して就職することとなる。

1945年(終戦の頃)、松本市に戻り、町のジムでボクシングの練習をやり始めた。

19歳の時点で、社会人ボクシング選手権大会出場して優勝する程の腕前があったという。

その後彼は、20歳のときから、独学で英語を勉強しはじめた。

「これからは英語の時代」を確信して通訳の資格を取得したという。

すぐに彼の英語力は評価され、占領軍基地のある電話局に通訳として就職した。
その後、米軍のOSI(諜報機関)にスカウトされ、さらに英語力に磨きをかけたという。

これもすべて、貧困に苦しむ家庭を救うためだったのだ。猛勉強したのだろう。

だが、病躯の母親の面倒を見るため、松本に帰ることになった。

松本には英語を生かす職場がなかったため、体力に自信のある桜庭は日銭稼ぎに土木作業員として働くことになった。

桜庭は土木作業を続けているとき、路肩工事の手抜きを発見した。
生真面目な精神をもつ彼は、それを班長に注意すると、その夜、桜庭は社長に呼ばれ小料理屋に連れて行かれて、5万円を握らされた(当時では大金である)。

なんとその後、桜庭は警察に逮捕されたという。

路肩工事の手抜きを不正とし抗議した際、口止め料の5万円を受け取り、これを会社は恐喝行為として訴えたのだ。
この事件がきっかけで、一度彼は刑務所に収監される。


出所後は翻訳の仕事から、海外スポーツライターとして活動を始め、事務所を開いて実績を積んでいった。

1964年、妹と母親の介護について口論になり、家具を壊すという事件を起こした。駆けつけた警官により逮捕される。 彼はその際、精神鑑定にかける。


出典: http://www.excite.co.jp

精神病質と鑑定された桜庭章司は精神科病院に入院となった。

病院内で知り合った女性がロボトミー手術の副作用により人格が変わってしまい、その後自殺したことに正義感の強い彼は激怒した。

執刀医を問い詰めた際、彼は危険だとしてロボトミーの一種、チングレクトミー手術を強行される。

この医師は、桜庭章司の母親に詳しく説明せずに手術の承諾書にサインをさせたといわれている。

退院後、彼はスポーツライターに戻ったが、感受性の鈍化や意欲減退などの副作用でまともな記事を書けなくなった。

精神を蝕まれながらも後遺症に悩まされ強盗事件を起こす。

出所後も彼は後遺症と副作用に悩み続け「ロボトミー手術(チングレクトミー手術)の問題点を世間に知らしめる」という意思の下、犯行に及んだ。

裁判で再び精神鑑定を受け責任能力有りと判定された。

しかし検査の際、脳内に手術用器具が残留していたという。当然、脳波に異常がある事も明らかとなった。

桜庭章司は「無罪か死刑でなければロボトミー手術(チングレクトミー手術)を理解していない」として無罪か死刑のどちらかを望んでいた。
しかし、1996年に最高裁で無期懲役が確定となった。

現在でも精神病患者向けに行われているロボトミー手術

精神治療に利用されるECT療法


出典: https://senogawa.jp


出典: http://science.howstuffworks.com


出典: http://natashatracy.com

精神疾患と前頭葉に深い関わりがあるという理論は、現在でも支持されている理論である。

実際に、脳に電気刺激を与えるという電気けいれん療法(ECT)は、重いうつ病や躁病あるいは緊張病(統合失調症のあるタイプ)の患者に対して、実際に行われている。

抗うつ薬が効かない。あるいは副作用がでてやめてしまったりした人。ほかの治療法でも効果がない人。
食べることや飲むこと等、当たり前の事もできなくなってしまい、生命を維持するため事が困難となり危険にさらされている場合に行われる。

治療の内容としては、こめかみにつけた電極を通して電流が脳に流れ、発作(けいれん)を起こさせるもので、当たり前だが慎重に行う。患者が怪我をすることはまずないと言っていいだろう。

また、電流を流すので、麻酔薬や筋弛緩薬(筋肉の緊張をゆるめる薬)を使い、治療中は麻酔薬で眠った状態のままだという。
 
普通、ほかの治療法ですべて効果が見られなかった場合や、以前にこの治療法でよくなった方に対して行っている。

「電気を脳に通す」というだけで一歩のけぞってしまうが、筆者が前章で紹介した、直接前頭葉をグリグリ切り取るようなロボトミー手術よりはかなり進歩したのではないだろうか。

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