【地域別】方言『なして』の意味や使い方を徹底解説!発音が違う?
「なして」という方言は北海道から九州まで広く使われている面白い方言です。しかも意味もほぼ同じですが、地域によって使い方が少し異なるところもあります。そもそも「なして」の意味とは?「なして」という方言について、地域別に例文を挙げながら詳しく解説していきます。
目次
『なして』はどんな方言?
「なして」という方言を聞いたことはありますか?「なして」とはどういう意味の方言で、どの地域・地方で、どのような使い方がされているのでしょうか?
ここでは方言の「なして」について、その意味や使い方を徹底的に解説していきます。「なして」は全国的にも面白い方言のひとつですので、ぜひ参考にしてみてください!
『なして』という方言の特徴とは?
「なして」という方言は、実は全国的に使われている方言です。北海道から九州まで聞かれる方言ですが、地域によって使い方が多少異なるところがあります。また、「なして」から派生する方言も全国に多数あります。地域別に「なして」の使い方を比べてみると面白い方言といえるでしょう。
『なして』は標準語だとどんなイメージになる?
標準語の観点から見ると、「なして」は「為す、生す、成す」という3つの動詞から派生しています。これらの助動詞の連用形「為し、生し、成し」に、助動詞の「て」を付けた形が「為して、生して、成して」になります。
以下に「為して、生して、成して」の意味と使い方をご紹介しましょう。
「為す」の意味と使い方
「する」「行う」という意味。例文として「善を為す」や「為せば成る」といった使い方があります。
「生す」の意味と使い方
「子を産む」「出産する」という意味。例文として「子まで生した仲」といった使い方があります。
「成す」の意味と使い方
「新たに作る」「作り上げる」という意味。例文として「成すすべもなく敗れる」や「一代にして財を成す」といった使い方があります。
「為して、生して、成して」の意味を総体的に考えると、「なして」は物事を達成したり形成したりすることだとわかります。標準語では「なして」はあまり日常会話で使うことはありませんが、基本的に「作り上げる」というような意味になるのです。
方言『なして』の基本的な意味や由来とは?
一方、方言で「なして」の意味を考えるとまた異なってきます。また、冒頭でもお話ししたように、「なして」は地域・地方によっても使い方が多少異なってきます。方言の「なして」について、まずは基本的な意味や由来を解説しましょう。
『なして』の基本的な意味
方言で「なして」と言えば、基本的には「どうして?」とか「なぜ?」という意味になります。標準語圏に住んでいる人でも、同じ日本人なら「なして」は何となくでも意味が通じるでしょう。たとえば、「なぜそうなるの?」は方言では「なしてそうなる?」と言い換えることができます。
『なして』の由来はあるの?
日本人なら広く理解できる「なして」という言葉は、どのような由来があるのでしょうか?実は「なして」の由来を調べてみると、有力な説というのは存在しません。「なして」という方言がどういう経緯で生まれたのか、どこでどのように使われ始めたのか、明確なところは不明なのです。
日本語には、古い時代に何らかの言葉が変形するなどして生まれたものもあります。ただ、「なして」は元となる言葉を特定することもできません。これは「なして」という言葉が日本全国で広く使われているため、由来を断定することが難しいという理由もあります。ほかの日本語の多くもそうですが、「なして」は自然発生的に生まれた方言と考えられます。
方言『なして』の意味と使い方一覧!【地域別】
全国的に使われている方言「なして」は、地域によって意味や使い方が違う場合があります。地域別に「なして」の意味や使い方を例文をまじえてご紹介しましょう。
北海道の場合
北海道では全ての地域で「なして」という方言が使われています。「なぜ?」「どうして?」という疑問の意味になります。
北海道で「なして」を使う例文としては、「なしてそったらごと言った?(なぜそのようなことを言ったの?)」などがあります。
東北の場合
東北地方でも「なして」は「なぜ?」「どうして?」という疑問の意味になります。東北地方も広いですが、東北地方全域で「なして」は同じ意味・使い方の方言です。
東北地方での方言「なして」の例文としては、「なしてほだごどなった(なぜそんなことになったの)」という使い方などがあります。
新潟の場合
新潟県でも「なして」という方言を使います。意味はやはり北海道や東北地方と同じく「どうして」ですが、言い方が少し異なります。新潟の場合は「なーして」とか「なーした」と伸ばした感じで使います。また、イントネーションも北海道や東北地方とは異なり、「な」の部分が強調されます。
例文として「なーしてそんなことなったん?(どうしてそんなことになったの?)」などがあります。
長野の場合
長野県でも「なして」という方言は使われますが、意味が北海道や東北地方、新潟県とは異なります。長野の「なして」は「なさって」という丁寧語、つまり「~してください」という意味の使い方になります。
長野での方言「なして」の例文としては、「召し上がってなして(召し上がってください)」などがあります。
茨城の場合
茨城県の「なして」はほかの地方以上にバラエティーに富んでいます。茨城で「どうして」という意味の方言には「なじして」「なして」「なじょして」「なちて」などがあります。
「どうして」に近い表現の「どうした」の意味の方言だと、「なしたー」「なじったー」「なじょったー」「なちたー」となります。茨城では「なして」の種類も豊富ですが、最後の1音が変わることで、意味も少し変わってくるのです。
茨城の方言「なして」を使った例文としては、「なしてあおなじみになっちった?(どうして青あざになってしまったの?)」などがあります。
広島の場合
広島県の「なして」は県内でも北部地方や西部地方でよく使われる方言です。「どうして?」とか「なぜ?」の意味で使われます。
広島の「なして」の使い方の例文としては「なしてそがぁなことをしたん?(どうしてそんなことしたの?)」なとがあります。
尚、広島には「なんして」という方言もあります。似た方言ですが、「なして」の意味とは異なり、「何をして」という意味になります。たとえば、「なんしてええかわからん(なにをしていいのかわからない)」というように使います。
福岡の場合
面白いことに、北海道などの北の地方でも使われる「なして」という方言は、九州地方の福岡県でも使われます。しかも福岡の「なして」も「なぜ」「どうして」という意味で共通しています。
福岡での「なして」の使い方例としては「なしてそけんなことすっと(どうしてそんなことをするの?)」などがあります。
九州の場合
実は「なして」は九州地方では福岡県以外にも、多くの県で使われている方言です。九州の中でも大分県では「なして」は頻繁に使われ、福岡と同じく「なぜ」「どうして」の意味です。大分での「なして」の使い方の例文としては「なしていさるっちゃ(どうして威張るの)」などがあります。
また、同じ九州地方の長崎県でも「なしてね?」という使い方があります。熊本県も九州ですが、やはり「なして」という方言があります。熊本には同義の方言でほかにも「なし」「なーし」といった言葉もあります。たとえば「なーしせんとや?(どうしてしないの?)」などです。
九州地方は各県で方言が全く異なる中、「なして」という方言は多くの県で共通しています。九州なら大抵の地域で「なして」は通じる方言といっても良いでしょう。それだけ「なして」は九州地方では広く親しまれている方言なのです。
関西の場合
関西地方でも「なして」という方言は使われます。意味もやはり「なぜ?」「どうして?」といった疑問符になります。関西の疑問形といえば「なんでやねん」や「なんでや」を思い浮かべる人も多いでしょうが、確かに「なして」が使われる頻度は低いようです。
『なして』から派生した方言の意味と使い方一覧!
「なして」という方言は一部の地域に限らず、全国的に使われていることがおわかりいただけたでしょうか?しかも長野県以外では「なして」は「なぜ?」「どうして?」という共通の意味になるのです。さらに興味深いことに、「なして」には様々な派生語があります。具体的にご紹介していきましょう。
なしてや
「なして」の派生語のひとつに、「なしてや」という方言があります。語尾に「や」を付けることで、「なして」という疑問を強調する形となります。つまり、相手の言ったことに対して、疑問を感じつつも、否定する気持ちを込めるときなどに使われます。
例文として、「自分で持って行きなさいよ」と言われたときに、「なしてや」と返したら、「どうして私が持って行かなくてはいけないの?」という気持ちを表現しています。
なしたの
「なしたの」というのも、「なして」の派生語として挙げられます。「なしたの」は「どうしたの?」といった意味になります。北海道でよく使われる方言ですが、もとは東北から北海道に移ってきた人々が使い始めたという説もあります。
なしてよ
「なして」から派生した方言に「なしてよ」という言葉もあります。意味は「なして」とほぼ同じで「どうしてよ」という疑問を表現しています。語尾に「よ」を付けることで女性らしい感じもしますが、男性でも使う方言です。「なしてよ」は北海道で広く使われる方言ですが、全国的にも様々な地域で聞かれます。
なしてさ
「なしてさ」も「なして」からの派生語のひとつです。これも「なして」の語尾に「さ」を加えることで、「どうしてさ」と相手に問いかける意味になる方言です。沖縄の「うちなーぐち」のようにも聞こえますが、沖縄には関係なく、「なしてさ」は北海道でよく聞かれる方言です。また、北海道に限らず全国の広い地域で使われる方言でもあります。
なしても
「なして」の派生語には他にも「なしても」という方言もあります。「なしても」は北海道の方言で、「どうしても」という意味です。責任感を表現する場合もありますし、絶対的な要求をあらわす場合もあります。
北海道弁の面白い会話として、たとえば「なして?(どうして?)」と聞かれて、「なしても(どうしても)」とキッパリと答えた後に、「なしてもってことないべさ(そんな、どうしてもということはないでしょう)」と返され、「なしてもって言ったらなしてもさ(どうしてもと言うのは、どうしてもと言うことですよ)」というようなものがあります。
なした
「なした」も「なして」から派生した方言で、「どうしたの」とか「何があったの」と状況をたずねたりするときに使われます。主に北海道や東北地方の一部でも聞かれます。
なしたん
「なしたん」も方言独特の優しい響きがありますが、「なして」の派生語のひとつです。先ほどの北海道や東北地方で使われる「なした」と同じく、物事の状況に対して「どうしたの」と問う意味があります。
「なしたん」は北海道や東北の方言「なした」に似ていますが、遠く離れた広島の方言です。語尾に「ん」を付けて相手に問いかける方言は他の地域にもあり、たとえば関西でも「どないしたん」「なんなん」などがあります。
なしてか
「なして」の語尾に「か」を付けるという方言もあります。やはり同じく疑問を投げかけるときに使われ、「どうしてか」という意味があります。他にも「なぜだかわからないけど」というような曖昧な気持ちを表現する使い方もあります。「なしてか」は特に地域が限定された方言ではなく、様々な地域で聞かれます。
おいでなして
「おいでなして」も「なして」から派生した面白い方言です。「ようこそ」とか「いらっしゃいませ」を意味します。「おいでなして」は信州地方でよく聞かれる方言で、旅館などでのお迎え時にも「おいでなして」と言われます。「おいでなして」は信州地方に限らず、徳島にも同じ方言があり、意味も同じです。
~なして
「~なして」は「~なさって」を意味する方言です。先ほどの信州地方や徳島の方言「おいでなして」もそのひとつになります。三重県四日市市あたりの地域でも聞かれる方言とされています。
『なして』は全国で使われている方言!
「なして」という方言についてご紹介してきました。北海道から九州まで、日本各地で幅広く聞かれる方言であることがおわかりいただけたでしょうか?
「なして」は長野県以外では「なぜ」「どうして」を意味しており、共通しています。日本には各地域で様々な方言がある中で、「なして」は特殊で面白い方言といえるでしょう。
また、「なして」は方言独特の温かみが感じられる言葉です。ストレートに「なんで?」とたずねられるより、「なして?」のほうが柔らかく聞こえるのではないでしょうか?「なして」は全国的にも意味が通じやすく、親しみやすい方言として覚えておくと良いでしょう。