よく見る『之』の意味とは?読み方や名付けについても徹底解説!
『之』という漢字は普段あまり見かけません。学生の時に勉強した「漢文」で多く出てきましたが、意味を覚えていない方が多いのではないでしょうか。なのにどうして私たちの名前によく使われているのでしょう。ここで意味や成り立ち、そして『之』を使った名前を説明、紹介します。
目次
そもそも『之』の意味とは?
私たちの生活の中で『之』の字を見ることは多くありません。名前や古文で見かけますが、読み書きを勉強した記憶はないのではありませんか?実は『之』は人名漢字ですが、常用外漢字なので習うことはないのです。では、この『之』という字はどんな意味があるのか説明していきます。
『之』の意味
最初の説明です。『之』には①ゆ-く。でる。②いたる。の意味があります。『之』の「ゆく」の意味は、目的地がはっきりと示され他動詞のように用いられることが「往」等の同じ読みの字と異なります。他動詞とは、動作・作用をほかに対する働きかけとして表す動詞のことです。
漢文にも使われる漢字
助詞として使う場合の読み方は「の」、①「~が」(主語の下に置かれる)②「~の」(修飾語と被修飾語の間に置かれる)③「~で」(同格関係の語の間に置かれる)の意味で使われています。また、このほかにも指示語「これ」「この」として使われています。
為政第二 17 子曰由誨女知之乎章
033(02-17)
子曰。由。誨女知之乎。知之爲知之。不知爲不知。是知也。
子し曰いわく、由ゆう、女なんじに之これを知しることを誨おしえんか。之これを知しるを之これを知しると為なし、知しらざるを知しらずと為なす。是これ知しるなり。
高校生の時に、漢文の授業で勉強しましたね。孔子の「論語」からの引用で紹介します。懐かしいですね。
『之』の漢字について徹底解説!
では、『之』の漢字について紹介しましょう!ひらがなの「え」に似ている漢字として覚えられていそうな『之』ですが、ここで説明していきます。
『之』の漢字の成り立ち
まず成り立ちを説明しましょう。『之』は指事文字です。指事文字とは「絵として描きにくい物事の状態を点や線で表した文字のことです。「止」で立ち止まる足の象形を表し、その下の「一」は出発線の横線を表しており、一歩を踏み出していく事を示しています。そこから「ゆく」「出る」という意味の『之』という漢字になったと言われています。
甲骨文字金文篆文
(象形)趾(あしあと)の形
『之』の画数は二画?三画?
次に画数です。『之』を上の点とそれ以外で二筆書きしていませんか?答えは「三画」です。一番最初に書き始める「点」が一画目、カタカナの「フ」のような形が二画目、最後の「辶(しんにょう)」のような形が三画目です。部首は下記で説明します。
『之』の部首は?
『之』の部首は「丶(てん・ちょぼ)」といいます。一番最初に書き始める「点」のことです。書き方は上記で説明しましたね。
『之』の読み方は?
では、『之』の読み方はいくつあるのか、ここで紹介します。
音読み
「シ」と読みます。音読みとは昔の中国の発音を元にした読みで、そのままでは意味が分からない場合があります。
訓読み
「こ(れ)」「ゆ(く)」「の」と読みます。訓読みとは漢字の意味を表す日本の読み方で、聞いて意味の分かるものが多いです。( )の中は送り仮名です。漢文では日本語で読めるようにしましたから、「これ」「の」と読むことが多かったですよね。
名前での読み方
「ゆき」「の」「これ」「いたる」「くに」「よし」「より」「やす」「ひで」「ひさ」「のぶ」「つな」と読みます。実は名前でよく見る「ゆき」「の」だけではないのです。
『之』の使い方は?熟語4つで紹介!
『之』は熟語ではよく使われています。たくさんあるのですが、ここでは代表して4つの読み方や意味を紹介しましょう。
①加之(しかのみならず)
接続詞で「そればかりではなく」「その上」という意味です。副詞<しか>+副助詞<のみ>+断定の助動詞<なり>の未然形+打消しの助動詞<ず>からできています。これだけではどんなところで使われているのかわかりませんね。作家の芥川龍之介をはじめ、多くの作品で使われているんです。
加之(しかのみならず)先生の識見、直ちに本来の性情より出で、夙(つと)に泰西輓近(ばんきん)の思想を道破せるもの勘(すくな)からず。
「鏡花全集」目録開口(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
②阿吽之息(あうんのいき)
四字熟語で「お互いの息がぴったり合う事」を意味します。「阿吽の呼吸」ともいうので知っている方も多いのではないでしょうか?「阿」は吐く息を、「吽」は吸う息のことで、互いの呼吸がぴったり揃ったことを表します。
③一言以て之を蔽う(いちげんもってこれをおおう)
これは孔子の論語為政第二の中の一説で、「一言で全体の意味を言い表すこと」です。子曰。詩三百。一言以蔽之。曰思無邪。先生がおっしゃった。多くの詩全体にある精神を一言で表せば邪な思いはないのです、ということでしょうか。良いものを残すときには良いものを作りたいという余計な気持ちはないのでしょう。
018(02-02)
子曰。詩三百。一言以蔽之。曰思無邪。
子し曰いわく、詩し三百さんびゃく、一言いちげん以もって之これを蔽おおえば、曰いわく、思おもい邪よこしま無なし。
④合点承知之助(がってんしょうちのすけ)
「合点」「承知」ともに「心得ました」「任せてください」という意味の江戸っ子言葉です。「合点承知」のみでも使われることもありますが、「承知」を人名らしく洒落て調子よくしたものが「承知之助」です。捕り物の時代劇を見ていると「おっと!合点承知之助でぇ!」と江戸っ子が気前よく言っています。
名付けに『之』を使う時に込められる願いとは?
『之』という字の意味に「行く」「出る」があります。線を踏み出した後広がる無限の可能性の中を進むイメージから「成長」「可能性」「前進」などのポジティブで明るい未来が感じられます。名付けにこの字を使うのは、「困難に負けず、前向きに可能性を求めてほしい」という思いが感じられます。
『之』を使った人気の名前10選 ①男の子編
『之』は男の子に良くつけられる字の一つです。名付けに込められた思いを『之』と合わせた名前別に説明してみましょう。ここでは10の名前を選んで紹介します。
①智之(ともゆき)
「智之」の「智」は「知恵」「賢い人」や「悟る」等が代表的な意味です。これに『之』を合わせることで「知恵を持ち成長を続ける人」となり「知的で賢い」名前になります。確かに。智将の「智」ですから切れ者のイメージになりますね!
②孝之(たかゆき)
「孝之」の「孝」は「親や先祖を大事にする」という意味から「思いやり」や「優しい」というイメージがあります。ここに『之』と合わせることで「目上の人に感謝の気持ちを忘れず、思いやりを持ち人々から尊敬される人」という願いの名前になります。優しい人が多そうですね。
③和之(かずゆき)
「和之」の「和」は日本風である事を表す漢字であることは良く知られています。諸説ある成り立ちですが、偏の「禾」は軍門の標識を表しつくりの「口」は祝詞を上げるものであることから「神へ誓い和解をする」と考え、そこから「なごむ」「やわらげる」「のどか」などの意味が生まれたとされています。『之』と合わせると「穏やかに人と調和し成長する人」という願いが見えてきます。「和」は平和の和でもあり、男女を問わず人気の高い字です。
④信之(のぶゆき)
「信之」の「信」の字は昔から多くの戦国武将の名前にも使われてきた字です。「真実」「証明」から「人を裏切らない誠実な態度」を表す字として使われてきました。『之』と合わせることで「誠実さを重んじ、何事にも屈せず前進してもらいたい」という思いを感じることが出来ます。また、「信用」「信心」等にも使われている漢字ですから「人と人の絆を大切にする人」に育ってほしいという気持ちもあるでしょう。
⑤章之(あきのぶ)
「章之」の「章」は元々は美しい模様やしるしという意味を表していましたが、これは文字の成り立ちが「墨だまりのついた大きな入れ墨用の針」からきており、それは社会儀礼に使われていたことからこのようになったものです。そこから「物事の順序や秩序を重んじる」「真面目で勤勉」「規則正しい」などの意味が生まれました。『之』と合わせて「真面目に規律を守って努力を続ける人」という願いが込められています。
⑥愛之介(あいのすけ)
「愛之介」の「愛」は「価値あるものを大切にしたいと思う人間本来の温かい心」のことで、「人を想う気持ち」「いつくしむ気持ち」を指します。女の子の名前には常に人気の字ですが、男の子にも「愛し、愛される」ように付けられます。「介」は元々は国司の役人の高い位で、制度が無くなってからも『之』と併せて名前に使われ残ったのです。
⑦之臣(ゆきおみ)
「之臣」の「臣」は「君主に使える人」ということから「誰かのために尽くす」「人を支える」という意味になります。『之』の「ゆく」という意味と合わせることで「陰日向なく人を支え尽くしていける人」になるように、という思いを託す名前になります。
⑧一之介(いちのすけ)
「一之介」の「一」は「一番」「最上の」という意味があります。一番最初に生まれた男の子によく使われてきました。「之介」と合わせて「トップを目指し、リーダーシップを発揮出来る男の子」に育ってほしいという願いが込められた名前です。
⑨悦之(えつし)
「悦之」の「悦」は「よろこび」という意味です。『之』と合わせて「人をよろこばせ、人によろこばせてもらう」から「心の豊かさを持ち、幸運が訪れる」ように願いを込めて付けられます。
⑩龍之介(りゅうのすけ)
「龍之介」の「龍」は日本では水神であり人々から敬われる対象で、「力強さ」「畏怖」だけではなく人々を「愛しむ」存在です。その字を子供に付けるときは「健康で力強く上昇志向をもち世界を愛する」ことが出来るように考えているに違いありません。
『之』を使った人気の名前10選 ②女の子編
どちらかといえば男の子に使うことが多い『之』ですが、昨今は我が子には特別な名前を与えたい、人と違う名前を付けたい、と考えるご両親も多いことから女の子にも使われています。ここからは10の名前を読み方と意味を一緒に説明していきましょう。
①碧之(あおの)
「碧之」の「碧」は青味がかった緑色で、高級な玉(宝石)の色として人々に愛されてきました。宝石のように「キラキラと輝く」「人々から愛される」という意味と、碧色からくる「安心感」「信頼性」を併せ持つ名前になります。「宝石のように輝き人々から愛され安心感を与えられるように」という思いを込めて名付けられるでしょう。
学生時代に勉強した漢文の杜甫の絶句にも「江碧鳥愈白(こうあおくしてとりいよいよしろく)」と使われていましたね。
②郁之(いくの)
「郁之」の「郁」の意味は「良い香りが漂う様子」や「文化が盛んな様子」です。このことから「芸術を愛し気品を備える人」に成長してもらいたい気持ちが見えます。「乃」と比べ『之』には成長の意味がありますから、より強くその成長を願うと説明できるのではないでしょうか。
③花之(かの)
「花之」は「花」の字を使うので春の大地に咲く色とりどりの花とその匂い、また四季折々の美しい花をイメージすることでしょう。日本では花は桜ですが、漢文の世界では花といえば牡丹。より華やかなイメージなのです。これに漢文でもよく使われる『之』を合わせると益々詩的になり「牡丹のように華やかで美しく成長するように」との思いを感じられる名付けの字ですね。
④琴之(ことの)
「琴之」の「琴」は古くはギリシャ神話にも出てくる楽器の名前です。美しい音色を持つこの一字でも日本では女の子の名前として使われてきました。『之』と合わせ「益々美しく心に響くように」と、人を引き付ける魅力的な女の子に育ってほしいと名付けられますね。
⑤菜之葉(なのは)
「なのは」という名前はとても可愛い響きを持っているのですが漢字選びが少し大変です。なぜなら音が可愛いので、キレイすぎる漢字を当てるとDQNネームになってしまいそう。そんな時『之』という字を挟ませるだけでグッと渋く落ち着いた感じになります。菜の花の「菜」は明るく活発なイメージ、「葉」も太陽を浴びて健やかに育ち茂るイメージから、「いつも明るく活発で健康的な女の子」と名付けられるでしょう。
⑥之愛(のあ)
「のあ」は世界共通の名前です。日本では女の子の名前のイメージが強いですが海外では男の子の名前でもあります。旧約聖書ではノアの箱舟のノアが「神と歩んだ人」として有名ですし、日本人に人気が高いハワイの言葉では「自由」という意味なのです。そこに『之』と「愛」で名付けたなら「神に守られ愛される人」に感じられますね。
⑦之々香(ののか)
「ののか」という名前はとてもかわいい響きで人気が高い名前です。いろいろな漢字を使うことが出来ますが、ここでは『之』の字を使って「香」と合わせたものを紹介します。「香」は「かぐわしい」「香り」の意味があります。香りは紀元前3000年頃のメソポタミアでスギを炊き匂いを神へささげたと言われています。古くからある香りは近代に至るまで人々を魅了してきました。『之』と合わせ「常に人のそばで愛され続ける」意味で名付けてみてはいかがでしょうか。
⑧雪之(ゆきの)
「雪之」の「雪」は冬に空から降る雪で、その白さや温度から「穢れがなく無垢」「クール」というイメージがあります。「の」に他の字を当てず『之』にした場合は「穢れなく清らかでクールに常に成長する人」という意味で名付けられます。
⑨梨之(りの)
「梨之」の「梨」は果物の梨です。この字は女の子の名前に「り」と読ませて大変よく使われる字です。梨の花言葉は「愛情」。花は白く可憐で秋になる実は柔らかな甘みが古くから好まれています。この名前は「可憐で愛情を受け与えられる人」となるように名付けられるものです。
⑩由之(よしの)
「由之」の「由」は基づく、任せる、従うなどの意味を持ちますが、代表的な熟語の「自由」から「のびのびとした」イメージや「由緒」から長く続く「歴史や趣」を感じ取れる字で、女の子の名前として長く人気のある字です。『之』を使う事と合わせてより強く「自由にのびのびとした人生を歩んでほしい」と願って名付けるでしょう。
【番外編】『之』の上手な書き方を伝授!
『之』を書くとき、平仮名の「え」みたい!と思って書いていませんでしたか?今まで読み進めていただいたので意味も使い方もご存知でしょう。ここで、きれいに『之』を書く方法をYouTubeで見つけましたので一緒に練習してみてください!折角ですから、意味も使い方も書き方もしっかり覚えてください。
『之』の意味を知って知識を高めよう!
いかがでしたか?普段何気なく目にしていた『之』にはこのようにいろいろな意味がありました。漢文でも和文でも名前でも幅広く使われていることもわかりました。現在では使い方によっては漢字で書かずかな書きが普通になっていますが、元々の字がわかっていますから知識が高くなったはずです!漢字に興味を持った方は、この機会に他の字も知ってより知識を高めてくださいね。