【津山事件の真実】30人殺しの都井睦雄と生き残り寺井ゆり子【夜這い】

津山事件とは1938年(昭和13)5月21日に岡山県津山市加茂町行重(当時の貝尾坂元両集落)で起きた大量殺人事件です。殺傷された被害者は30人と日本における大量殺人で最も多くの犠牲者を出しました。津山事件は津山30人殺し事件､犯人の名前から都井睦雄事件と呼ばれることもあります。

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都井睦雄

1917年(大正6年)3月5日生まれ
父・振一郎と母・君代との長男として誕生しました。3歳年の離れた姉・みな子がいます。

都井家は倉見地区の由緒ある名家で、多くの山林や田畑を所有していた資産家であり、都井睦雄の祖父菊次郎、父の振一郎は都井家本家の長男で跡継ぎでした。
都井睦雄の祖母いねは振一郎が生まれたあとに嫁いできたため、都井睦雄との血縁関係はありませんでした。

1918年に都井家の当主であった祖父・菊次郎が結核のため他界。そのわずか5ヶ月後には父・振一郎が肺結核で他界しました。
周囲では名家であった都井家の当主が立て続けに亡くなったことにより、何かの祟りではないかと噂されていました。
さらにどちらも結核で亡くなったために、都井家は労咳筋(ろうがいすじ)であるため、周囲から忌み嫌われるようになりました。
短いうちに2人の当主を失った都井家の家督はわずか1歳だった都井睦雄に相続され、母・君代が家督の管理を行っていましたが、彼女もまた夫・振一郎の死から半年経った1919(大正8年)に結核により26歳の若さで亡くなりました。

母・君代の死をきっかけに都井家では当主の相続問題以下の理由によりが勃発しました。
労咳筋に由緒ある都井家を継がせてよいのか？
家を継がせるのに都井睦雄は若すぎるのではないか？
都井睦雄の面倒をみることになる祖母いねは睦雄と血縁関係はなく、都井家と血縁関係のない者が財産管理させたくない

都井家の資産の大半は祖父・菊次郎の弟一族が継承することになり、睦雄には小さな田畑と山林を継がせることになりました。一生食べるには困らない程度の財産にはなりますが、都井家全体の資産からするとほんの一部であったと言われています。
1920年(大正9年)に睦雄と姉といねは倉見区から追い払われ、いねの故郷であった貝尾地区で暮らすことになりました。

都井家には、畑を耕せば生活には困らない程度の資産がありました。都井の祖母いねの体調を理由に都井は尋常小学校の入学が一年遅れました。さらに、いねの体調を理由に小学校も休みがちになっていましたが、成績はかなり優秀でした。教師からは、上の学校への進学を勧められましたが祖母の意向により進学を諦めました。

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労咳筋の家庭だったこともあり、尋常高等小学校卒業直後に肋膜炎を患いました。医師からは農作業を禁止させられており、病状はすぐ良くなりました。その後都井は実業補習学校に進学しましたが、徐々に家に引きこもりがちになっていき同世代と関わらなくなっていきました。
さらに1937年(昭和12年)に徴兵の検査受けたものの、結核を理由に不合格となりました。この頃から夜這いにて関係を持っていた女性たちから拒絶されるようになりました。

徴兵検査の直後から都井は、奇行に走ります。若い女性や人妻に肉体関係を執拗に迫ったり、無理矢理襲うなどしてしまったため都井は村八分にされ孤立状態に陥りました。

同世代との関わりがなくなった都井は、村の子供たちに自作の推理ものの紙芝居を読み聞かせており人気を博していました。

都井は自分と関係を持ちながらも別の男性と結婚し、自分を拒絶した西川良子と寺井ゆり子という2人の女性に特に恨みを持っていました。
さらに都井は遺書の中で2人に対する怨恨を名指しで綴っています。

寺井ゆり子は都井とは幼なじみの関係であり、お互いに結婚を意識する間柄でありました。しかし、都井の結核と徴兵検査の不合格により寺井ゆり子は都井を拒絶し、別の男性との結婚を選びました。都井は、寺井ゆり子に対して一番怨恨を持っていました。

都井は犯行の一年前から、自身の田畑を担保に銀行から多額の借り入れをします。借りたお金で、日本刀や猟銃を集めるようになります。一度は通報され集めた武器を没収されたものの、またすぐに武器を調達し直します。

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都井は、野山に入って切る練習や銃を撃つ練習をしていたことが捜査で分かりました。

都井睦雄は1938年(昭和13年)5月20日の夕方に村の送電線と電話線を遮断しました。過疎化が進んだ田舎であったことや当時の送電線が未発達であったために突然の停電を怪しむ者はいませんでした。
さらに都井睦雄は実姉など数名に対してあらかじめ遺書を用意していたことや、住民が助けを求めるであろう警察官のいる駐在所までの道のりや所要時間を綿密に計算していたことが捜査で分かりました。

1930年(昭和13年)5月21日午前1時40分頃から犯行を初め、当時都井は詰襟の学生服(所謂学ラン)に脚絆に足袋を履き、さらに額にはちまきを巻き、頭の左右に小型懐中電灯を差し込み、腰に日本刀、手には改造銃を持っていました。

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都井はわずか2時間足らずで近隣の住人を、日本刀と改造銃で殺傷していきました。
死者は30人(即死28人、重傷の後死亡2人)で、怪我人は3人と日本における一番被害者が出た大量殺人となります。
さらに殺傷された30人の被害者の内5人が16歳未満であり、最年少の被害者は5歳でした。

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都井は初めに自宅で寝ていた祖母いねの首を斧ではねて殺傷。
一軒目：隣近所の自宅に侵入し、夜這いの関係があり、都井の悪い噂を流した50歳の妻と子供3人を日本刀で殺傷。
二軒目：家主と妻、娘2人を銃で殺傷。都井は妻と長女良子と夜這いの関係があった。
三件目：家主と妊娠中の妻を銃で殺傷。さらに偶然泊まりに来ていた親戚も銃で殺傷。主人の母親も撃たれるが、一命を取り留めた。
四軒目：家主と長男夫婦、五女、六女を銃で殺傷。四女(寺井ゆり子)は隣に逃げ込む。
五軒目：家主が銃で殺傷。この家の四女と隣から逃げ込んできた四女(寺井ゆり子)が負傷する。
六軒目：家主と母親を銃で殺傷。
七軒目：家主の都井と夜這いの関係にあった妻と娘2人を銃で殺傷。家主は都井の悪口を言わなかったため、見逃された。
八軒目：家主と妹、母親を銃で殺傷。
九軒目：家主の妻、両親、子供を銃で殺傷。
十軒目：家主と妻を銃で殺傷。
都井は合計11軒の家を襲い、3軒は一家全員が殺傷されました。

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被害者の顔写真

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津山事件報告書の写真

都井は各所帯に遺書を書くための紙と鉛筆を要求しました。都井の紙と鉛筆を渡した少年は、都井の紙芝居で顔見知りであった。都井は少年から紙と鉛筆を受けとると、少年に「勉強を頑張って偉い人になるじゃぞ」と言い残しました。
犯行を終えると都井は村を一望できる高台に向かい、紙と鉛筆で遺書を書き銃を自らに撃ち自殺しました。

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遺書の現物

都井は、犯行を終え自殺する直前に鉛筆で遺書を遺します。遺書からは、結核と徴兵検査に落ちたことのより村八分にされた恨み、寺井ゆり子と夫を殺せなかった悔しさが伺えます。

遺書中の愈愈死するは「いよいよしする」と読みます。

都井の婚約者であった寺井ゆり子さんは村でも評判の美人で都井を振った後に一度結婚されましたが、都井から夜這いをかけられたため離婚されています。しかし寺井ゆり子さんは2ヶ月後に再婚し、事件が起きました。
都井にとって一番殺傷したい相手であった寺井ゆり子さんは、襲撃時に隣の家に逃げ込んだため生存者になりました。しかし、逃げ込んだ家は元々都井の襲撃リストにはありませんでした。

津山事件における生き残りとなった寺井ゆり子さんは事件直前に再婚した相手との間に子供がいらっしゃるそうですが、家族5人殺されて非常に辛い思いをされたことでしょう。

夜這いとは男性が女性の寝床へ行くことで求婚する行為のことです。
夜這いをする際、男性は女性に前もって夜這いをすることを知らせる必要がありました。また、男性を部屋に入れるか否かは女性に選択権がありました。

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夜這いの語源は諸説ありますが「呼ばう」が訛ったものであり、平安時代の「妻訪い婚」における相手の元に夜中訪ね求婚する行為を指していました。
その後夜這いは村の若者の結婚と出産を促し、農村での働き手を生むための重要なシステムとして日本各地に広まりました。

農村における夜這いは徐々に、成人通過儀礼としての性教育の役目と農作業のストレス発散の役割へとシフトしていきました。

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さらに時代が妻訪い婚から嫁入り婚に移り変わるにつれ、夜這いは非道徳的で不純なイメージになっていきました。夜這いにおける求婚の意味合いも無くなっていき、やがては単に寝ている女性の寝室に訪れることを指すようになりました。

津山事件では、都井睦雄が夜這い相手に拒絶されたことや独身人妻に関わらず、不特定多数との肉体関係がセンセーショナルに報道され、当時の人びとに衝撃を与えました。

横溝正史原作の『八つ墓村』は1949年3月から1950年3月まで、『新青年』という雑誌で連載された金田一耕助シリーズ中の長編推理小説です。
『八つ墓村』は映画が3本、ドラマ6作品、漫画が5作品、舞台が1作品で映像化された横溝正史の作品中では『八つ墓村』は最多で、小説版の『八つ墓村』と映画版の『八つ墓村』ではストーリーが少し違います。

横溝正史（1902年5月24日～1981年12月28日）は金田一耕助を探偵とする推理小説シリーズの作者で有名です。

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時は戦国時代、毛利元就との戦に負けた尼子義孝が8人の落武者を引き連れてとある村に辿り着きました。
初めは落武者を警戒していた村人たちも次第に、落武者たちと打ち解けました。しかし村に毛利一族がやって来て、逃げ込んだ落武者を差し出せば褒美を出すと言いました。
褒美と落武者の財宝に目が眩んだ村人たちは、落武者殺しを企てます。しかし村人からすると落武者は戦のプロであるため、村人たちは夏祭りを開催し8人の落武者たちの酒に毒を持って殺します。尼子義孝が死に際に末代まで呪うと言い残します。この8人の落武者たちの首塚が八つ墓村の由来になりました。
その後、落武者殺しの首謀者が加担者とその家族を殺し、自らの首を切り自殺した一連を「八つ墓村の祟り」と呼ぶようになりました。
月日がたち、今度は首謀者の息子が村人32人を殺し姿を消します。この家には膨大な資産があり、遺産相続の殺人ミステリーになっていきます。

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横溝正史原作の『八つ墓村』が1977年に映画化された際、「祟りじゃ～八つ墓の祟りじゃ～！」という映画中の登場人物の台詞が流行しました。

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最初の映画『八つ墓村』

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横溝正史の作品には岡山県を舞台にしたものが多くみられます。岡山県は横溝正史の父親の故郷で、横溝正史自身も幼少期疎開していたといます。横溝正史は『八つ墓村』の構想の際、津山30人殺しをモデルにして作品を書き上げました。

横溝正史原作の『八つ墓村』には村人による32人殺し、怨恨による祟りや遺産相続の問題など、実際に起きた津山30人殺しをモデルしたことが分かります。

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漫画『八つ墓村』でも津山30人殺し当時の都井の格好をモデルにし､によく似せて描かれています。

『丑三つの村』は西村望原作の小説および映画で、津山事件をモデルにした作品です。

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映画『丑三つの村』では、夜這いの文化に焦点を当てているため少しエロティックな映画になっています。

都井睦雄をモデルにした都井睦雄フィギュアなるものが存在し、マニアの中では人気だそうです。
殺人鬼をモデルにしたフィギュアは都井睦雄以外にもあるそうです。

この私、完全に都井睦雄のフィギアじゃないですか？ pic.twitter.com/9xQMmVZylX
— ⚪️☁️田島ハルコ☁️⚪️ (@dokusya_model) October 30, 2015

都井睦雄の姉みな子は隣の町に嫁ぎ、事件後はとある場所でうどん屋さんを経営していたそうです。
1996年頃に亡くなったそうで、一人息子がおり都井睦雄の甥にあたります。
甥家族が都井睦雄の唯一の子孫となります。

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姉が営んでいたうどん屋

都井睦雄の生家は事件後から現在まで空き家で、親戚たちは戸籍を変え引っ越ししてしまったそうです。

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都井睦雄の生家

現在の貝尾集落は､極わずかですが住人がいます｡
一方で津山事件をモデルにした作品も多く出回っていることもあり、事件現場は今では肝試しに来る人もいます。

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都井睦雄の墓は自殺した場所にひっそりとあります。

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被害者宅

都井睦雄の動機は怨恨であり、遺書からも分かるように結核という不治の病と徴兵検査の不合格により村八分にされたことであるとされていますが、被疑者死亡により真相はうやむやです。
さらに津山事件をモデルにした映画などでは、夜這いに焦点を当てている作品も多いため不純な印象が強いですが、血の繋がらない祖母との生活や生家からの放逐、仲の良かった姉が嫁いで家を出てしまったことなど、様々な要因が絡みあってしまったように考えられます。