「枕を濡らす」の意味や使い方!古典でも登場する古い慣用句なの?
「枕を濡らす」とはどんな言葉か、どんな意味を持っているのかご存知ですか。この記事では「枕を濡らす」の意味はもちろん、使い方も例文を交えてご紹介していきます。これを読めば、あなたの表現力・読解力がアップすること間違いなしです。
目次
「枕を濡らす」の意味とは?
まず初めに知っておきたいのは「枕を濡らす」という言葉の意味でしょう。これは慣用句(二つ以上の言葉を繋げ、その全体で意味を成すもの)と呼ばれるものです。「枕を濡らす」は「寝ながらもとても深く悲しみ、涙する」という意味を持つ慣用句です。
枕を濡らしてしまうほどの悲しみには、できるだけ見舞われたくものでしょう。しかし、それほどの悲しみに襲われてしまったという時には、この慣用句を使うことで「どれだけ悲しんでいるのか」を人に伝えやすいですね。
「枕を濡らす」の語源は?
「枕を濡らす」という慣用句の語源は、平安時代にまで遡ります。平安時代は現代の結婚とは異なり、通常は通い婚でした。そのため、女性は夫が訪れるのを待つというのが当たり前でした。そして、いくら待っても夫が訪れないというのも珍しいことではありません。当時は一夫多妻制でもあったので、妻の立場にある人は一人だけではなかったからです。
そのため、来るか来ないかも分からない夫を思い「枕を濡らす」ほどの涙を流した、という表現が生まれたと考えられます。この後にご紹介しますが、百人一首に撰出されるような作品でも、こうした表現はよく使われています。
「枕を濡らす」のはどんな時?
「枕を濡らす」のは一体どんな状況において使う慣用句なのか?具体的には、深く悲しみに溢れる出来事に直面した時や、涙せずにはいられないほどの悔しさを感じた時などに使います。自分ではどうすることもできない辛い出来事に見舞われた時にも「枕を濡らす」という慣用句で、その感情を表現することができます。
「枕を濡らす」の使い方と例文
「枕を濡らす」について、ある程度の知識を得ることができたら、次は正しい使い方を知りたいと思うはずです。この項目では「枕を濡らす」という慣用句の使い方を例文と共に解説していきます。ぜひこれを参考に、使い方をマスターしてくださいね。
例文①「彼のことをいくら思っても、この恋は叶わない。毎夜、枕を濡らすばかりだ」
この例文における「枕を濡らす」の使い方では、深い悲しみを表しています。叶わぬ恋に身を焦がしつつも、どうにもならない現実に堪えきれず、一人泣いているという意味です。
例文②「静まり返る真夜中は孤独だ。枕を濡らし、夜明けを待つ」
この例文における「枕を濡らす」の使い方では、孤独から感じる悲しみ、辛さを表しています。孤独に負けてしまう状況に陥ってしまった時には、こんなこともあるでしょう。
例文③「猛勉強をして挑んだ試験だったのに、結果は不合格だった。あまりの悔しさに、枕を濡らす」
この例文における「枕を濡らす」の使い方では、堪えきれない悔しさを表しています。結果は覆らないので、自分ではどうしようもないと分かっていながらも、やはり悔しさは拭えないという意味ですね。
例文から分かるように「枕を濡らす」という慣用句の使い方は、激しい感情を表すのではなく、心を押し殺しつつも堪えきれない状況にある際の表現です。
「枕を濡らす」の類語とは?
慣用句の一つである「枕を濡らす」には、同じ意味を表す類語が存在します。この項目では「枕を濡らす」という状況を、別の言葉で表したい場合に活躍する類語をご紹介します。類語までを押さえておけば、表現の幅が広がるだけではなく、読書などでもスムーズに内容を理解できるようになりますの。ぜひ覚えておきましょう。
浮枕
「枕を濡らす」の類語の一つに「浮枕」という言葉があります。この言葉は「枕に涙が浮く」の浮くを、憂鬱を表す「憂き」をかけています。辛さを堪えられない、孤独な一人の夜(独り寝)を意味しています。
滝枕
「枕を濡らす」と同じ意味を持つ類語として「滝枕」が挙げられます。泣いて枕に注がれてしまう涙を、水が流れ落ちていく滝になぞらえて表現しています。
袖を濡らす
「枕を濡らす」の類語の三つ目は「袖を濡らす」です。語源の項目でご紹介したように、平安時代の考え方を表しているのがこの言葉です。当時は「袖を濡らす」と言えば「涙」のことを指したため、袖を濡らす=涙が溢れているという意味を持ち「枕を濡らす」の類語として挙げられます。
「枕を濡らす」は古典に登場する?
「枕を濡らす」という言葉は、和歌を代表とする古典においても使われています。和歌(百人一首など)ではどんなふうに登場しているのか?こちらでは使用されている作品を、意味も併せてご紹介していきます。
和歌
「枕を濡らす」の類語「袖を濡らす」を使用した和歌には、以下のものがあります。
見せばやな 雄島の海人の 袖だにも ぬれにぞぬれし 色はかはらず
これは千載集にある和歌で、殷富門院大輔という人物が詠んだものです。
「この袖を見せたいものだ。雄島の海女の袖も濡れるだろうが、色が変わることはないだろう。けれど、私の袖は涙で濡れて、血の色にまで変わってしまった」という意味の和歌です。血の涙とは悲しみのあまりに出る涙のことを指しますので、抱いている感情の強さを感じられる和歌ですね。
百人一首
「枕を濡らす」という言葉の類語である「袖を濡らす」は、百人一首に撰ばれた和歌にも登場しています。
音に聞く 高師の浜の あだなみは かけじや袖の ぬれもこそすれ
祐内親王家紀伊が詠み、百人一首にも撰出されたこの和歌は「有名な高師の浜で立ち騒ぐ波のように浮ついたあなたに、私は関わりたくない。そうでなければ、袖が濡れるほどに涙するでしょうから」という意味の和歌です。
袖が濡れる=それほどの涙を流している、という表現なので「浮気な人との恋は辛く、泣くはめになるでしょう」という意味となります。さすが、百人一首に撰出された和歌です。真に迫る迫力がありますね。
「枕を濡らす」の英語表現
時代と語源を追えば、百人一首にまで遡る慣用句が「枕を濡らす」です。百人一首のような、現代にまで伝わる素晴らしい作品とも関係する「枕を濡らす」という言葉は、日本語ならではの表現に思えますよね。しかし、英語でも表現することは可能です。
夜な夜な枕を涙で濡らしました
I was crying every single night.
英語表現も知っておくと、語彙の幅はますます広がりますね。
「枕を濡らす」以外の『枕』を使った慣用句
「枕を濡らす」という表現以外にも『枕』を使った慣用句があります。類語を知っておくことは、読書を始めとして文章を読む際には非常に役に立ちますが、語彙力を高めるには関連する慣用句まで押さえておくといいでしょう。
「枕を交わす」
「枕を交わす」という慣用句は「男女が同じ寝床で共に眠る」という意味を持ち、一つの布団に入っているその二人が男女関係にあることを指します。
「枕をそばだてる」
「枕をそばだてる」という表現は「注意深く聞く」という意味の言葉です。斜めに高く枕を傾け、耳を澄ましてよく聞くという様子を表す慣用句です。
「枕を高くする」
「枕を高くする」という言葉は「安心して眠ることができる」という状態のことを指しています。使い方としては「安心だ」という感情を表す時ですね。
枕を濡らしたい時に読みたい本3選!
無意識のうち、思わず枕を濡らしてしまう。そんな思いを味わってみたいという際に、これこそ読むべき!という本があります。この項目では、オススメの本を三冊ご紹介します。
忘れ雪/新堂冬樹
オススメ一冊目は、2003年に発表された新堂冬樹さんの『忘れ雪』という作品です。こちらの作品は2009年には宝塚で舞台化し、2015年には韓国アイドル・2PMのチャンソンさんを主演とし、映画化もされました。
世界から猫が消えたなら/川村元気
二冊目のオススメは、川村元気さんの『世界から猫が消えたなら』という作品です。2013年の本屋大賞にノミネートされ、2016年には佐藤健さん、宮崎あおいさんといったスターを迎えて映画化もされました。
手紙/東野圭吾
オススメ三冊目は東野圭吾さんの『手紙』という作品です。こちらは第129回直木賞候補作品で、2006年には映画化、2008年には舞台化されました。その後も2016年・2017年にはミュージカル化、2018年にはドラマ化もされたロングセラーです。
「枕を濡らす」は描写に使われる慣用句
「枕を濡らす」という慣用句は、古くから伝わる感情表現のための言葉です。「袖を濡らす」のような、遠回しであるからこその深い趣と繊細を感じさせる描写として、百人一首に撰出されるような作品にまで使われています。
直接的な表現は伝わりやすいです。しかし、あえて「枕を濡らす」のような慣用句を使うことは、文章の繊細さを与えます。さらに言えば、技巧の一種としても素晴らしく活躍してくれることでしょう。情緒的なものに触れる際には、ぜひとも覚えておきたいですね。