『いずれも』と『いづれも』正しいのはどっち?違い/意味/使い方

『いずれも』と『いづれも』はどちらもよく見る表記ですが、どちらが正しい日本語か知っていますか?『いずれも』と『いづれも』はどうして表記が違うのか、『いずれも』と『いづれも』で意味の違いはあるのか、その正しい使い方を、日本語の歴史とともに解説します。

『いずれも』と『いづれも』正しいのはどっち?違い/意味/使い方のイメージ

目次

  1. 1『いずれも』と『いづれも』はどちらが正解?
  2. 2『いずれも』と『いづれも』の辞書的な意味は?
  3. 3『いずれも』と『いづれも』の違いとは?
  4. 4『いずれも』の漢字表記と使い方は?
  5. 5『いずれも』と『いづれも』の使い方を例文で学ぼう!
  6. 6『いずれも』は現代仮名遣い、『いづれも』は歴史的仮名遣い!

『いずれも』と『いづれも』はどちらが正解?

疑問

日本語は不思議な言語です。同じ字なのに読み方が違い、同じ読み方なのに字が違うことがよくあります。英語などを母語とする外国人が日本語を学ぼうとしたときに、まずつまづくのがここだと言われています。ここまでの文章でもすでに使われていますね。『言』という字は『言語』なら『げん』、『言われ』なら『い』と違う読み方になります。『まず』の『ず』と、『つまづく』の『づ』は、字が違いますが読んだときは同じ音になります。

さらに難しいのが、まったく同じ言葉に見えるのに、表記が違う言葉があることです。例えば、『いずれも』と『いづれも』という言葉。どちらも目にしたことがあるはずです。あなたは『いずれも』と『いづれも』のどちらの表記が正解か分かりますか?どちらも正しく思えますが、『いずれも』が正しい表記で、『いづれも』は誤った表記です。

でも実は、昔は違いました。『いずれも』が誤りで、『いづれも』が正しいとされていた時代があるのです。どうして『いずれも』と『いづれも』は逆転してしまったのか?そこに日本語の面白さが隠されています。

この記事では、『いずれも』と『いづれも』の意味とその違い、使い方を、日本語の変遷の歴史も絡めながらお伝えします。

歴史

『いずれも』と『いづれも』の辞書的な意味は?

『いずれも』と『いづれも』に意味の違いはあるのでしょうか?『いずれも』と『いづれも』の辞書的な意味を確認しておきましょう。実用日本語表現辞典で『いずれも』と『いづれも』の意味を調べると、以下のように説明されていました。

辞書をひく

『いずれも』の意味

『いずれも』の意味を辞書で引くと、このように説明されています。『いづれも』は『いずれも』の別表記として紹介されています。

不定称の代名詞に「も」のついた連語で、複数ある中のどれを選んでも同じことが言える、同じことが当てはまるさまを示す表現。どれも。

辞書

『いづれも』の意味

『いづれも』の意味は、このように説明されています。『いずれも』と違いはなく、『いずれも』と『いづれも』は同じ意味であることが分かります。読み方は『いずれも』と表記され、ここでも『いづれも』は別表記とされていました。

不定称の代名詞に「も」のついた連語で、複数ある中のどれを選んでも同じことが言える、同じことが当てはまるさまを示す表現。どれも。

辞書

『いずれも』と『いづれも』の違いとは?

辞書で調べてみるとまったく同じ意味の『いずれも』と『いづれも』。しかし、現代において『いづれも』は誤りであり、『いずれも』が正しい表記であることは公に決められています。意味が同じで読み方も同じなのに、『いづれも』が誤りとされ、『いずれも』が正しいとされている理由は何か。

端的にいえば、『いづれも』は歴史的仮名遣いだから現代では誤りとされ、『いずれも』は現代仮名遣いだから現代では正しいとされているのです。

驚き

『いづれも』は古い表現

『いづれも』は歴史的仮名遣いだから、現代では誤りです。歴史的仮名遣いとは、日本語の古い表現のことです。では、どうして古い表現と新しい表現が生まれ、古い表現が誤りと決められたのでしょうか。日本の文字の成り立ちの歴史から変遷を辿ると、その理由が分かります。

歴史

①日本の文字は漢字から生まれた

英語にはアルファベットしかありませんが、日本語には英語と違ってたくさんの文字が使われています。小学校で習う順番は、ひらがな、カタカナ、漢字です。しかし、日本語の文字の成り立ちはこの逆です。漢字がまず作られ、漢字からカタカナが作られ、ひらがなはその後に作られました。

大昔、奈良時代頃までの日本人は、文字をすべて漢字で表記していました。想像するだけで面倒臭いですね。よく文章を扱っていたお坊さんたちも面倒臭かったのでしょう。漢字を省略した文字としてカタカナを考案したのです。それも全国各地で好き勝手に考案しました。そのため、一つの音に複数の文字があるという状況が生まれてしまいました。

ひらがなも似たような理由で平安時代に作られました。ひらがなにも昔はたくさんの文字があったのです。

これらの名残は現代にも少しだけ残っています。うなぎやののぼりに書かれている『ふ』に見える字は、昔の『な』というひらがなの一つです。

②文字が一つに整理された

一つの音にいくつも文字の表記があるというややこしい状態は、平安時代からしばらく続いていました。途中、えらいお坊さんたちが何度か文字の整理を行ったものの、『じ』や『ぢ』、『づ』や『ず』、『い』や『ゐ』などは依然として使われていました。この頃『いずれも』は『いづれも』と表記されていました。

それを完全に整理したのは、昭和21年(1946年)のことです。第二次世界大戦が終わり、いろいろなことを新しく決めていく中で、文字を一つに定めた『現代仮名遣い』を使うよう政府が命令を出したのです。この『現代仮名遣い』が、今私たちが使っている表現です。そして古い表現は『歴史的仮名遣い』とされ、これ以降は誤りであると決められました。

まとめる

③『づ』は『ず』と書くよう決められた

現代仮名遣いの中で、『づ』と『ず』は同じ音であるから、『づ』と書いていたものはできるだけ『ず』に統一するよう決められました。それまでは正しい表記だった『いづれも』は、こうして誤った古い表現へと変化したのです。

『いずれも』は現代の表現

『づ』は『ず』と書くよう決められたので、『いづれも』は『いずれも』と表記されるようになりました。現代では正しいとされている『いずれも』は、生まれて100年も経っていない新しい表現だったというわけです。

言葉の誕生

『いずれも』の漢字表記と使い方は?

漢字表記は?

『いずれも』は漢字で表記すると『何れも』『孰れも』となります。現代でよく使われているのは『何れも』の方で、『孰れも』は主に中国史などで使われる漢字表記です。『孰れも(いずれも)』はあまり一般的ではありませんので、漢字表記をする際は『何れも(いずれも)』を使う方がいいでしょう。

英語表現は?

『いずれも』は、文脈によって少しずつ意味が変わります。英語で『いずれも』を表現するとしたら、以下のような英語が当てはまります。

both(どちらも)、either(どちらか一方の)、any(どんな~でも)、all(すべての)、every(どの~もすべて)、none(まったく~ない)

英語で『いずれも』を表現するときは、文章の意味によって英語を使い分けましょう。

英語

類語や言い換え表現

『いずれも』の意味は大きく分けて3つです。それぞれの意味で類語や言い換え表現をまとめると、次のようになります。

①どちらでも同じという意味…いずれにしても、どちらにしても、どの道、どう転んでも

②二つ以上の物が同じ性質をもっているという意味…どれも、どちらも、いずれのものも

③二つをまとめて扱うという意味…どちらとも、両方とも、互いに

似たもの

『いずれも』と『いづれも』の使い方を例文で学ぼう!

『いずれも』が正しい表記とされる一方、あえて『いづれも』が使われることもあります。『いずれも』と『いづれも』の正しい使い方を例文で学びましょう。

学ぶ

『いずれも』の正しい使い方

一般的には『いずれも』を使用するのが、正しい使い方です。『いずれも』の3つの意味にわけて例文を紹介します。

①どちらでも同じという意味の例文

・AでもBでも、いずれも料金は変わりませんので、お好きな方をお選び下さい。

・交渉がまとまるか決裂するか、いずれも君には関係のない話だ。

②二つ以上の物が同じ性質をもっているという意味の例文

・このテーマパークのアトラクションはいずれもすばらしいものばかりだ。

・あの家も向こうの家も、いずれも豪邸だ。

③二つをまとめて扱うという意味の例文

・この二人はいずれも愛し合っているのだろう。

・コーチと選手はいずれも労いの言葉をかけ合った。
 

『いづれも』の正しい使い方

『いづれも』が正しい使い方になるのは、古文の中や、詩文などで独特の趣を出すために古い表現をする場合です。一般的な現代文で『いづれも』を使うと誤りになるので、『いづれも』の使い方には注意してください。

古い

①古文で使われている例

『源氏物語 夕顔』より

「いづれもいづれも若きどちにて~」の『いづれも』は、どちらもという意味で使われています。

さいへど、年うちねび、世の中のとあることと、しほじみぬる人こそ、もののをりふしは頼もしかりけれ、いづれもいづれも若きどちにて、言はむ方もなけれど、 

『とりかへばや物語』より

「いづれもすぐれ給へる~」の『いづれも』は、両者ともという意味で使われています。

君達の御容貌の、いづれもすぐれ給へるさま。ただ同じものとのみ見えて、取りも違へつべうものし給ふ。同じ所ならましかば不用ならましを、所々にて生ひ出で給ふぞ、いとよかりける。

②あえて古い表現をする例

(江戸時代を舞台にした小説などで)

・看板にこう書いてあった。「金、銀、いづれも隠すべからず」と。

いづれも甲乙つけ難し。

時代

『いずれも』は現代仮名遣い、『いづれも』は歴史的仮名遣い!

『いずれも』と『いづれも』についてご理解いただけたでしょうか。『いずれも』と『いづれも』は、意味は同じでも、時代によって正しいとされたり誤りとされたりした面白い言葉の一つでした。『いずれも』は現代では正しいとされており、『いづれも』は歴史的仮名遣いとして現代では誤った表記とされています。しかし、言葉は移り変わっていくもの。『いずれも』と『いづれも』も、またいつ正誤が逆転するか分かりません。

『いずれも』と『いづれも』の変遷のように、現代の私たちが使っている言葉の中にも、将来は誤った言葉とされるものがあるかもしれませんね。

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