ニーバーの祈りに込められた意味とは?心に響くお祈りの言葉を解説!
辛い出来事や悩みがあった時、苦しくてどうしようもないですよね。「ニーバーの祈り」はそんな困難を乗り越える勇気や知恵を与えてくれるかもしれません。ここでは「ニーバーの祈り」の言葉の意味や使い方について詳しくご紹介していきます。
目次
ニーバーの祈りについて知ろう!
人生で大きな困難にぶつかった時、悲しみ、怒り、後悔の念で心が動かなくなってしまうことがあると思います。大きな困難と呼べるものでなくても、人間関係や仕事で悩んでいる方も多いのではないでしょうか。「ニーバーの祈り」は私たちの壁となる困難を解消し、未来を変えていくためのヒントを与えてくれます。ニーバーの祈りは道徳的に価値ある言葉として世界中に広まっており、文学作品や歌詞に引用されたり、著名人の座右の銘として使われたりしています。
それでは、ニーバーの祈りは私たちにどのような恩恵をもたらしてくれるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
そもそもニーバーの祈りの意味とは?
ニーバーの祈り(英語: Serenity Prayer)はアメリカの神学者、倫理学者のラインホルド・ニーバー(1892-1971)が作者であるとされる、祈りの言葉の通称です。「平静の祈り」、「静穏の祈り」とも呼ばれます。ニーバーの祈りの日本語訳は以下になります。
神よ、
変えることのできるものについて、それを変えるだけの勇気をわれらに与えたまえ。
変えることのできないものについては、それを受けいれるだけの冷静さを与えたまえ。
そして、変えることのできるものと、変えることのできないものとを、
識別する知恵を与えたまえ。
ラインホルド・ニーバー(大木英夫 訳)
ニーバーの祈りの始まりは?
ニーバーの祈りは、1943年、ラインホルド・ニーバーがマサチューセッツ州西部の山村の小さな教会で説教した時の祈りが始まりとされています。当時、祈りを集めた小冊子を編集発行している人物の手に原稿がわたり、ニーバーの祈りが集められた祈りの中のひとつとして出版されました。
第二次世界大戦の中、この祈りの言葉が兵士たちに広まり、戦後にはアルコール依存症克服のための組織のモットーとして採用され、世界中で広く知られるようになりました。
ニーバーの祈りの作者ラインホルド・ニーバーとは?
ニーバーの祈りの作者、ラインホルド・ニーバーとはどのような人物だったのでしょうか。ラインホルド・ニーバー(Reinhold Niebuhr)は、1892年6月21日アメリカ・ミズーリ州ライトシティに生まれ、ドイツ福音派の牧師であった父のもとでキリスト教を学びました。イェール大学神学大学院で修士号(神学)を取得後、1915年にミシガン州デトロイトにて牧師として赴任し、宗教的・社会的奉仕に努めました。1928年からユニオン神学大学院(ニューヨーク)の教授陣に加わり、1960年に引退するまでキリスト教倫理学を講じると同時に、宗教学的・政治的活動を繰り広げました。
ニーバーは宗教家としての視点から、近代社会の倫理や道徳に関する著書を数多く出版しています。「道徳的人間と非道徳的社会」では道徳主義とリアリズムの結合を提案し、人間個人の限界を冷静に見極めたうえで正義のためになすべきことは何かということを説いています。「光の子と闇の子」では人間に潜む善と悪を現実の社会情勢に基づいて語っています。
心に響くニーバーの祈りの言葉3選!
ニーバーの祈りの本質である、人間が神から与えられるべき力は以下の3つです。
①変えられないものを受け入れる冷静さ
②変えることのできるものを変える勇気
③変えることのできるものとできないものを識別する知恵
それぞれの力の意味について解説していきます。
①変えられないものを受け入れる冷静さ
ニーバーの祈りで最初に考えるべきは「変えられないものを受け入れる冷静さ」についてです。「変えられないもの」とは何を意味しているのでしょうか。それは過去や世界、他人など「自分以外のすべての物事」です。起きてしまった出来事をなかったことにはできません。人間はいつか死ぬというしくみを変えることはできません。他人に影響を与えることはできても、コントロールすることはできないのです。
このような自分にはどうしようもない物事を変えようとすると、深い苦しみにつながります。ニーバーの祈りにある「変えられないものを受け入れる冷静さ」とは、変えられない物事に対して、抗うのではなく冷静に受け入れることで、苦しみから解放されることを示しているのです。
②変えることのできるものを変える勇気
続いて、「変えることのできるものを変える勇気」です。「変えることのできるもの」とはとは何を意味しているのでしょうか?もうお分かりかと思います、それは「自分」です。もっと言えば「これからの自分」です。自分の身の回りで起きる出来事は、自分の考えや行動が反映された結果です。また、その出来事をどう捉えるかも自分の思考が判断します。つまり、人間が経験する人生の出来事も評価も、その人自身によって決まるのです。
しかし、長年身についた考え方を変えるためには自身を客観的に判断し、変えようと決めなければなりません。今までの自分を変えていくのは勇気のいることです。「変えることのできるものを変える勇気」という言葉は、少しずつでも自分を変える勇気を持つことで、未来が好転していくことを示しているのです。
③変えることのできるものとできないものを識別する知恵
ニーバーの祈りの最後の文章は「変えることのできるものとできないものを識別する知恵」です。「変えることのできないもの」と「変えられるもの」は上記の通り、はっきりと区別できるように思います。しかし、自分で解決すべき問題を他人に委ねてしまったり、自分にはどうすることもできないことに対して責任を感じてしまうなど、両者の識別が曖昧になってしまうことも少なくありません。実際の出来事の中で両者を線引きしていくのは、実は困難なものなのです。
ニーバーの祈りは、知恵を持ってしっかりと「変えることのできないもの」と「変えられるもの」を識別していくことの大切さを説いています。
ニーバーの祈りを取り入れたい時【パターン別】5選
ニーバーの祈りの意味についてご理解いただけたと思います。では、ニーバーの祈りは具体的にどのように人生の悩みを解消してくれるのでしょうか。多くの人が経験するであろう悩み別に、一例としてご紹介します。
①友人関係で悩んでいる時
人間関係の悩みで、特に多いのが友人関係の悩みです。ニーバーの祈りでいう「変えられないもの」は「友人の思考」です。友人に嫌われないよう、過度に気を使っていませんか。友人の何気ない一言に振り回されていませんか。この世にはあなたと気が合わない人が必ず一定数います。あなたが自分に正直に行動し、それでも否定する人がいるならば、それはそういうものなのだとありのまま受け入れましょう。
大切な友人との間に亀裂が入ってしまった場合、あなたが相手に言った言葉は「変えられない」ことですが、次に自分がどう行動するかは「変えられる」ことです。ニーバーの祈りを胸に、勇気をもって一歩踏み出してみましょう。
②仕事で悩んでいる時
ニーバーの祈りは仕事にも適用できます。仕事がうまくいかない時、上司の教えが悪いとか、やりたくない仕事をやらされたと考えて腹を立てたりしていないでしょうか。「上司の判断」や「会社の状況」は「変えられないもの」なので、いくら考えてもうまくいきません。しっかりメモをとっているか、分からないところは質問しているか、100%の力が出せる生活を送っているかなど、自分の行動にフォーカスしてみてください。
仕事で大きな失敗をしてしまった時、自分はダメな人間じゃないかと自信を失ってしまうことがあります。そんな時も、ニーバーの祈りが助けてくれます。失敗した「過去」は「変えられない」ことですので、いつまでも後悔に苦しむ必要はありません。失敗を汚点とみるか成長へのステップとみるかという「思考の切り替え」や、その失敗をどう活かすかという「行動」は「変えられる」ものですので、こちらにエネルギーを割きましょう。
③ママ友で悩んでいる時
ママ友の悩みはなかなか相談できる人がいなかったり、理解されにくいものです。ニーバーの祈りはそんな一人で抱え込みがちな悩みも解消してくれます。ママ友をつくらなきゃ、仲良くしなきゃと気を張ってストレスをため込んでしまう方もいるかもしれません。子供のためにと責任を感じているかもしれません。しかし、ここでニーバーの祈りに出てくる「知恵」によって冷静に考えると、あなたの子供は「他人」であって、「変えられないもの」だということに気付くはずです。
つまりあなたがママ友とどう付き合おうが、子供の人間関係に直接の影響はないのです。あなたはあなたの価値観でママ友と付き合えば良いのです。逆に言えば、子供の喧嘩に親が口を出し、ママ友との関係を悪くしてしまうことも、おかしなことだと気付くでしょう。
④将来について漠然と悩んでる時
平均年齢が増加し、生活スタイルの変化が激しい今の時代、将来に対する漠然とした悩みや不安を持つ方は多いと思われます。そんな時も、ニーバーの祈りを思い出してください。「自分が生きている時代」は「変えられない」ですから、今の時代に自分にできることは何か?という視点を持ってみてください。
例えば、低賃金の会社に就職してしまい老後が不安だ、親やパートナーが入院してしまい今後どうなるのだろうか、今まで恋愛がうまくいっていないのでもう結婚できないのではないか、などの考えは、変えられない「過去」に囚われてしまっています。ニーバーの祈りは「自分」を変えれば未来が変わることを示唆しています。「過去」を冷静に受け入れ、「今後の自分の行動」が未来や幸せをつくるのだと意識すれば、いつでもチャンスがあり、やり直せるのだと気付くでしょう。
⑤大切な人の死を受け入れられない時
家族や恋人、友人など大切な人を失う悲しみは壮絶なものです。簡単に受け入れられるものではないでしょう。苦しみから解放されるために特定の宗教にすがる方もいるかもしれません。もちろん、楽になれるのならそれでも良いのです。ですが、ニーバーの祈りは壮絶な悲しみすらも乗り越える助けとなります。
ニーバーの祈りによれば「死」や「過去」は冷静に受け入れるべきことです。しかしすぐには無理でしょう。ニーバーの祈りのポイントは、神から受け入れる力を授かりたいという「祈り」である点です。つまり、冷静に受け入れたいと願い、努力をしていくこと自体が大切なのです。本当は、大切な人の死を受け入れるべきだと誰もが本心では気付いているのかもしれません。ニーバーの祈りを唱えることで、その気付きを自分の中で明確にすることができるでしょう。
ニーバーの祈りとキリスト教の関係性は?
ニーバーの祈りと宗教にはどのような関連があるのでしょうか。ニーバーの祈りはニーバーが提唱した、「キリスト教的リアリズム」という哲学的な考え方が深く関わっていると考えられます。ニーバーは牧師・神学者として人々にキリスト教を説いていた傍ら、様々な社会活動にも関わっていました。その一例として、当時アメリカで成長著しかった自動車産業の労働者たちが、非道徳的な環境で働かされていることに心を痛め、労働組合の支援を行いました。
こうした活動の中で、彼は現実を直視しない理想主義(ユートピアニズム)ではなく、現実社会に実用的な解決策をもたらす、現実主義(リアリズム)的な考えを持つようになったと考えられます。ニーバーの祈りは、彼の神への信仰という宗教観と、人の本質と可能性を見つめ、現実的な解決をもたらそうとする哲学観・社会観を含む意味を持つといえます。
ニーバーの祈りを宇多田ヒカルも引用?
ニーバーの祈りは多くの著名人に影響を与えています。宇多田ヒカルも歌詞の中に引用しているといわれています。歌詞を一部抜粋したものが以下になります。
変えられないものを受け入れる力
そして受け入れられないものを変える力をちょうだいよ
(宇多田ヒカル「Wait & See ~リスク~」)
アメリカ育ちの宇多田さんの心の中にも自然に受け入れられた考えなのかもしれません。
ニーバーの祈りは医療の現場でも使われている?
ニーバーの祈りは医療を通して人々の健康に影響を与えることもあります。アルコール依存症克服のための組織「アルコホーリクス・アノニマス」の創設者やスタッフはニーバーの祈りを気に入り、アルコール依存症からの回復手法として示された12ステップのプログラムに採用しています。このプログラムは患者の自己中心的な心理状態を宗教観を持って克服し、道徳的意識や建設的視点を高めていく効果があります。
また、ニーバーの祈りがギャンブル依存症の治療に利用されたケースもあります。作家・精神科医の帚木蓬生(ははきぎ・ほうせい)さんは自らのがん闘病を通して、ニーバーの祈りの意義を再発見し、ギャンブル依存症患者のために立ち上げた自助会、GA(Gamblers Anonymous)にニーバーの祈りを取り入れ、ギャンブル依存に苦しむ人たちが体験と治療の決意を語り合った後に、皆で必ず唱和するようにしているようです。
ニーバーの祈りは、困難を乗り越えるヒントだった!
いかがでしたか。人間には、生きていれば必ず困難が立ちふさがります。しかし、困難の壁を見ないふりをしたり、逃げてしまっていては未来は切り開けません。ニーバーの祈りは、「他人や過去を冷静に受け入れ、勇気を持って自分を変え、それを行うための知恵をつける」ことが人生において大切なのだと教えてくれます。これは、宗教の垣根を越えて私たちの未来に希望をもたらしてくれる道徳的な考え方です。皆さんも、ニーバーの祈りを参考に、未来を変える一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。