【大口病院事件とは】点滴で大量殺人…犯人「久保木愛弓」の動機は?

終末期医療の現場で起きた、20名以上にものぼる戦慄の大量殺人事件――。「大口病院・連続点滴中毒死事件」で逮捕された一人の女性看護師の実像と、供述された不可解な犯行動機、さらには日本社会に突き付けられた今後の課題について、詳しくまとめました。

【大口病院事件とは】点滴で大量殺人…犯人「久保木愛弓」の動機は?のイメージ

目次

  1. 1大口病院事件とは?
  2. 2無実を装い続けた久保木愛弓容疑者
  3. 3久保木愛弓容疑者の生い立ちと人物像
  4. 4ナースの現実と大口病院事件の遠因
  5. 5注目される裁判のゆくえ
  6. 6他人事じゃない! 大口病院事件から見えてくる課題
  7. 7大口病院事件を「終わりの始まり」にしてはいけない

大口病院事件とは?

twitter

平成28年(2016年)7月から9月にかけての約3か月間に、実に48名もの不審死が発覚した「大口病院・連続点滴中毒死事件」をご記憶のかたも多いことでしょう。

事件発覚から2年経ってようやく逮捕されたのは、事件当時、大口病院の看護師として勤務していた久保木愛弓容疑者(逮捕当時31)。不審死が疑われる48名全員の命を奪ったとすれば、一人の殺人犯が殺害した人数では日本史上最悪の事件となる可能性があります。

平成31年(2019年)2月現在、いまだ事件の全貌が明らかになっていない「大口病院連続点滴中毒死事件」について、これまでに判明している事実やネットの反応などを、順を追って詳しく見ていきましょう。

事件発覚のきっかけは、落下した点滴袋の「泡」

ぱくたそ-フリー素材

平成28年(2016年)9月20日未明、横浜市神奈川区大口通130「大口病院」(現・横浜はじめ病院)4階病棟にて、入院患者の八巻信雄さん(88)の容態が急変、まもなく死亡が確認されました。

八巻さんの容態急変に対応した看護師が、たまたま点滴袋をベッドに落としたところ、点滴袋の内部が急激に泡立ち、毒物の混入が疑われる事態となります。大口病院は警察に通報、司法解剖の結果、八巻さんの体内から消毒薬「ヂアミトール」に含まれる界面活性剤が検出されました。

※界面活性剤とは

本来なら混ざり合わない物質と物質の境目(界面)を混ざり合うようにする。たとえば水と油は混ざり合わないが、界面活性剤を使って混ざり合うようにすれば、油汚れを水に溶かし、水と一緒に洗い落とせる。

作用するのは水と油に限らないので広く消毒薬として用いられるが、高濃度で血液中に混ざれば、細胞が破壊され、死に至ることもある。

別の患者の遺体からも「ヂアミトール」を検出

NAVER まとめ

大口病院は当時、通常では考えられないペースで入院患者が続々と死亡していく事態に見舞われていました。八巻さんの死亡日から逆算して約3か月の間に、実に48名もの入院患者が、大口病院の4階病棟で亡くなっていたのです。

神奈川県警は連続殺人の疑いがあるとみて、2日前に亡くなっていた西川惣藏さん(88)の遺体を検査。八巻さんのケースと同様に、西川さんの遺体から消毒薬「ヂアミトール」の成分が検出されました。

4階のナースステーションには未使用の点滴袋が約50個残されていました。それを調べると、10個ほどの点滴袋でゴム栓部分に封をする保護フィルムに細い針で刺した穴が見つかった。犯人は注射針で点滴に消毒液を注入したのでしょう

事件後まもなく捜査線上に浮かんだ、一人の看護師

twitter

100人規模の特別捜査本部を立ち上げた神奈川県警でしたが、捜査は難航します。防犯カメラの映像や犯人を示す具体的な証拠を、何ひとつ得られていなかったからです。

しかし警察の捜査は、「点滴袋の穴」など事件の様態から判断して、大口病院関係者による内部犯行という見方で早々に固まります。さらに目撃情報や勤務シフトから、一人の女性看護師をマークし始めます。

点滴が4階に搬入された17日から20日未明にかけ、夜勤を担当した者。かつ普段から素行に問題のある人物などを抽出していった結果、1人の看護師が捜査線上に浮上しました

久保木は、過度の潔癖症である一方、患者の飲み残しのお茶を口にしたりと、一風変わった看護師でした。素行にも問題があったうえに、なにより、西川さんが亡くなる直前、病室に入る彼女の姿が目撃されていました

2年の捜査でやっと見つけた「白衣の付着物」

ぱくたそ-フリー素材

状況証拠は明らかに久保木愛弓容疑者の犯行を示唆していたものの、具体的な物証がなければ、警察は逮捕に踏み切れません。刻々と時間だけが過ぎ、大口病院事件はいよいよ「迷宮入り」が心配される事態となっていきました。

そんな中、ついに警察の執念が実を結びます。事件当時、4階病棟で勤務していた看護師全員のナース服を鑑定した結果、久保木愛弓容疑者の服のポケットからのみ、消毒液の成分が検出されたのです。

警察は久保木愛弓容疑者を追及、久保木容疑者は「20人くらい」(本人供述)の点滴袋に消毒液を混入させた事実を認めました。平成30年(2018年)7月7日、警察はついに久保木愛弓容疑者を逮捕。捜査開始から実に2年近くの時間が経過していました。

「患者の死亡を遺族に説明するのが苦手で、自分がいない時に死んでほしかった」。特捜本部に殺害の動機をこう説明しているという同容疑者。同院には15年春から勤務し、4階の終末期の患者を担当していた。

NHKは、別の患者が死亡した際に同僚になじられて以来、勤務時間外に死亡させるようになったとの供述を伝えた。

無実を装い続けた久保木愛弓容疑者

twitter

警察やマスコミから早い段階でマークされたほとんどの容疑者がそうであるように、久保木愛弓容疑者もまた、取材陣の前で無実の人間を演じました

逮捕までの2年間、久保木愛弓容疑者は何を語り、どう行動したのか。その様子を詳しく見ていきましょう。

マスコミ宛てに送られた久保木愛弓容疑者の手紙

平成29年(2017年)4月にマスコミ宛てに送られた久保木愛弓容疑者の手紙には、点滴事件以前に起こった院内トラブルに関して、大口病院側が取った対応への不満が綴られていました。

【2016年4月以降、大口病院4階病棟で起こったトラブル】
4月 複数の看護師のエプロンが切り裂かれる
6月 カルテの一部が抜き取られる
8月 看護師のペットボトルに異物が混入

大口病院4階病棟の対応を批判

"「今回起こったことは許されないことで、今後はこういう予防策を取るし、スタッフもこういう注意をしてほしい」といった話を申し送りでも何でも、人が集まる時間に一言伝達してくれれば、多少なりとも「この病棟はトラブルにちゃんと対策を取る構えだ」という犯人への抑止力になりえたかもしれない"(手紙より抜粋)

久保木愛弓容疑者は手紙の中で、病院側の対応の甘さについて批判しています。その一方で、病院側が聞き取り調査で久保木愛弓容疑者を問いただしたシーンについては、「理不尽」という言葉を用い、大口病院側の"甘くない"対応にも批判を加えました。

"私が聞き取りを受けたときには、「疑ってるわけじゃないけど、1人の空白時間があったのは、あなたくらいしか思い当たらないんだよね」と言われ、被害を受けたことだけでもショックなのに、犯人扱いまでされるのかと、理不尽だと感じました。"(手紙より抜粋)

自身を「客観的な視点をもつ人物」と見られるように演じる反面、犯人ではないかと疑われたシーンには客観性に欠けた感想を述べるという矛盾の中に、久保木愛弓容疑者の混乱した心理が見て取れます。

インタビュー取材に応じる久保木愛弓容疑者

次の動画には、平成29年(2017年)9月(※大口病院事件発覚の1年後)にテレビ局からインタビューを受けた際の久保木愛弓容疑者の様子が映し出されています。久保木愛弓容疑者の表情には生気がなく、無実を装い続ける日々に憔悴(しょうすい)しきった様子がうかがえます。

久保木容疑者は記者の質問に、長く立ち止まって応えるなど、誠実な様子を見せた。言葉遣いは丁寧で、話す内容も筋が通っていた。ただ、声には覇気がなく、弱々しかった。
 「精神的につらいです。薬を飲んでいるんですが、なかなか良くならなくて…」。久保木容疑者はそう言い残し、家と反対の方角に消えていった。

弱い物証でも、任意聴取で自供せざるを得なかった

マスコミに送られた手紙や、インタビューに応じる久保木愛弓容疑者の様子を見ると、大口病院事件の犯人として常に疑いの目を向けられ、それを否定し続けながら過ごさなければならなかった2年間が、久保木愛弓容疑者にとっては相当苦しいものであったことがわかります。

消毒液の成分が久保木容疑者のナース服(のポケット)にだけ付着していた、という証拠のみでは、犯人逮捕の決め手になるほど強い説得力を持ちませんが、それでも久保木愛弓容疑者は自供しました。

この2年で積み上がった状況証拠と初めて出た物的証拠、そして絶えず向けられた世間からの厳しい視線が、久保木愛弓容疑者を精神的に疲弊させ、ついに自供へと追い込んだのです。

久保木愛弓容疑者の生い立ちと人物像

twitter

少なくとも20人以上、最悪の場合48人の不審死に関与していた恐れのある久保木愛弓容疑者。しかし、その実像は一般的に考えられる「殺人鬼」のイメージとは大きくかけ離れています。

入院中の患者の目を見て殺害したわけでも、なにか特別な毒物を入手困難なルートから調達したわけでもありません。

久保木容疑者は、手近な消毒液を密かに点滴袋に注入するというきわめて単純な作業を繰り返し、その行為が持つ意味について真剣に考えることを避けていたようにも見えます。

ここでは、そんな久保木愛弓容疑者の人物像について触れていくことにしましょう。

久保木愛弓容疑者とは

twitter

項目 データ
名前 久保木愛弓(くぼき あゆみ)
出生年 昭和62年(1987年)
年齢 31歳(逮捕当時)
出身校 神奈川県立秦野曽屋高等学校
職業 無職、元看護師

久保木愛弓(くぼきあゆみ)容疑者は高校卒業後、看護学校に進学し、看護師として大口病院で勤務していました。

事件発生当時は29歳。院内でも若手だったと言います。

引っ込み思案だった久保木愛弓容疑者

久保木愛弓容疑者は、小学生時代を茨城県水戸市で過ごし、のちに父親の仕事の都合で神奈川県に転居しました。性格は引っ込み思案でおとなしく、活発な子どもたちの輪の中になかなか入っていけない子どもだったようです。

久保木容疑者は小学生時代を水戸市内で過ごした。両親と弟の4人家族で、一家が当時住んでいたアパートの管理人は「近所の子供たちが遊んでいるのを一歩引いて見ているような子だった」と振り返る。

twitter

久保木愛弓容疑者は”印象に残らないクラスメイト”

中学を卒業したのち、神奈川県立秦野曽野高校に進学。高校在学中もおとなしい性格は変わりませんでした。たとえば質問されたことには答えても、自分から話しかけるようなタイプではなく、クラスメイトにはあまり印象に残らない高校生活だったようです。

「授業中に発言は絶対にしない。文化祭など学校行事の話し合いでも、皆の意見に従うだけのタイプだった」

お年寄りとの交流から看護師を志望

また、この高校では福祉教育に力を入れており、その一環で老人ホームとの交流を経験し、看護師の道を志すことに決めたとも言われています。

同年代の活発な人たちの中に混ざった大学生活よりも、看護学校に進んで手に職をつけ、物腰の柔らかいお年寄りの看護をする未来のほうが、ずっとイメージしやすかったのかもしれません。

この高校では福祉教育などに力を入れており、老人ホームで入居者らと交流を持つ機会もあったとみられる。

ネットで飛び交った「サイコパス」論議

少なくとも20人以上を点滴中毒死させた久保木愛弓容疑者の人物像について、ネットでは早々に「サイコパス」という言葉が飛び交いました。しかし、この犯人は本当に「サイコパス」なのかどうか、疑問を差しはさむ人もいたようです。

79 陽気な名無しさん 2018/07/13(金) 05:00:34 ID:
>>8
サイコパスかしら?
特に患者が苦しんでるサマを楽しむわけでもなく、なんか動機が幼稚でサイコパスとは違うような気がするのよ。
たまに配達員が、配達するのが面倒臭い、残業が嫌だとかいう理由で荷物や手紙を破棄して紛失させたとかいう理由と同じ気がするのよ。
そんな理由で患者を消すんだから、ある意味サイコパスより怖いわ。
82 陽気な名無しさん 2018/07/13(金) 06:55:51 ID:
>>79
それがサイコパスよ。
他人を人ではなく物として扱えるのがサイコパス。

横浜、大口病院の患者殺害事件。
久保木愛弓容疑者逮捕の決め手が自供だけらしいが、それで公判は大丈夫なのだろうか。弁護士次第では、自供を否定される可能性もありそう。

オウム真理教の犯罪でも医師が殺人に加担したが、医療従事者がサイコパスになってしまうと、患者は我が身を守りようがない…
— haru (@haru_mecom) 2018年7月7日

大口病院事件の単純な解釈は危うい

久保木愛弓容疑者がはたしてサイコパスなのかどうか、この判定は専門家に任せるとして、「サイコパスだから、この犯罪を起こした」という単純な事件解釈は、少々危険なことです。

容疑者の生い立ちや性格を確認するのは、「だから彼(彼女)は犯罪を起こした」という単純な理由づけのためではなく、「自分にも、この犯人と似たところはないだろうか」と自分の中にある危うさを見つけ、教訓にするためのもの、と考えておいたほうがいいでしょう。

※サイコパスの定義

以下は、サイコパスの定義です。一般にイメージされるサイコパスの定義よりも、かなり細かく定義されていることがわかります。

犯罪心理学者のロバート・D・ヘアは以下のように定義している。
良心が異常に欠如している
他者に冷淡で共感しない
慢性的に平然と嘘をつく
行動に対する責任が全く取れない
罪悪感が皆無
自尊心が過大で自己中心的
口が達者で表面は魅力的

ナースの現実と大口病院事件の遠因

「大口病院・連続点滴中毒死事件」は、「患者の死亡を遺族に説明するのが苦手で、自分のいないときに死んでほしかった」という内容の供述から、久保木容疑者のあまりに身勝手な職務怠慢が原因、と解釈している人も少なからずいるようです。

しかし、もし本当にそのような理由ならば、仕事を変えるという選択肢もあったはずです。次々と入院患者を殺害する(自分のいないときに亡くなってもらう)という恐るべき犯罪に手を染める必要はありません。犯行動機としては、いささか不可解です。

実は、これまでに久保木愛弓容疑者がマスコミ取材や手紙の中で残した言葉には、警察に供述した犯行動機だけではない、隠れた原因を匂わせるキーワードが登場しています。

ここからは「看護師」という仕事の現実に触れながら、大口病院事件をより深堀りしていきましょう。

「病棟」という言葉のチョイスに隠された意味

久保木愛弓容疑者がマスコミに宛てた手紙の引用部分には、注目すべき言葉遣いがあります。それは「この病棟はトラブルにちゃんと対策を取る構えだ」という箇所。

うっかり見落としそうな細かな表現ですが、「病院」ではなく「病棟」と表現している点は、久保木愛弓容疑者の犯行動機を探るうえで、非常に重要なワードです。

大口病院は「ケアミックス病院」だった

twitter

大口病院は事件当時、複数の異なるタイプの医療や看護を提供する「ケアミックス病院」として運営されていました。

内科、小児科、整形外科、リハビリテーション科があり、たとえば幼児が急な発熱で病院に駆け込むこともあれば、関節痛に悩む老人が手術を受けてリハビリに励むなど、さまざまなタイプの患者がやってくる病院でした。

そんな中、事件の起きた4階病棟は、いわゆる「終末期医療」を受けているお年寄りが多数入院していた病棟で、長い将来を感じさせる幼児や、リハビリに励む患者がいる別の階とは、かなり違った雰囲気をまとっていたことは確かでしょう。

看護師の配置は、年齢や性格、能力によって偏る傾向

たとえば外来患者の対応をする看護師は、機転が利き、素早い対応ができないと務まりません。それに対して終末期医療の現場では、介護作業に必要な体力があり、堅実な仕事のできる看護師が向いています。

つまり、複数の診療科がある病院や、大口病院のような「ケアミックス病院」、あるいは大規模な総合病院といった場所では、一人の看護師が、毎日、連続的に同じセクションに配置されるケースが多いのです。

久保木愛弓容疑者の配置はどうだったか

おとなしく、少し変わったところもあり、言われたことはちゃんとやる――。久保木愛弓容疑者が、もし恒常的に4階病棟を中心にまわるよう指示されていたとすれば、他の同僚との勤務内容の比較や、自身にのしかかる負担の大きさに不満を募らせていった可能性もあります。

久保木容疑者が「この病院」ではなく、あえて「この病棟」という言葉を用いたことは、4階病棟や4階病棟に関わる人々に対する、久保木容疑者の何らかの複雑な感情がにじみ出た、とも考えられます。

病院内での人間関係やトラブルの有無を尋ねると、「看護部長は看護師たちをランク付けして、気に入った子とそうでない子の扱いが極端だった。そういうのってよくないですよね」と不平不満を口にした。

職員のメンタルケアも疎かにできない

病院は、やってくる患者の心と体をケアする施設です。しかし、患者をケアする側の医師、看護師、その他職員に対しても、十分なメンタルケアが必要です

たとえば、看護師たちをまとめる看護部長や看護師長といった管理職の研修を強化したり、精神科病棟や終末期医療に携わる職員のメンタルケアには特に注意を払うなど、必要な対策をすみやかに講じることも大切でしょう。

注目される裁判のゆくえ

twitter

「大口病院・連続点滴中毒死事件」の裁判は、まだ始まっていません。したがって、大口病院事件の真相を知ることができるのは、まだ先の話です(19年2月現在)。

裁判で注目すべきポイントは、主に次の三つです。

(1)本当の犯行動機
はたして本当に「入院家族の死を遺族に説明するのが苦手だった」という動機だけで殺人に及んだのか。

(2)被害者の総数
最初の犯行から最後の犯行までの詳細と被害者総数

(3)病院や行政の対応
看護師の配置等、メンタルケアに十分な配慮がなされたか。院内トラブルについて、行政と病院の意思疎通は十分だったか。

入院患者の死に関わりたくなかっただけならば、どうして短期間に「20人くらい(本人供述)」の大量殺人へとエスカレートしてしまったのか、という点に疑問が残ります。

患者が亡くなれば、当然、遺族対応をする看護師が必要になります。また、多くの患者が亡くなれば、4階病棟の管理責任が問われることにもなります。同僚や上司への特別な感情がなかったか否か、という点も明らかになってほしいところです。

他人事じゃない! 大口病院事件から見えてくる課題

twitter

「大口病院・連続点滴中毒死事件」は、サイコパスによる残忍な大量殺人事件、という単純な認識では終われない、日本社会の深刻な課題を私たちに突きつけています。

ここでは、その「深刻な課題」とは一体何なのかを考えながら、大口病院事件が決して他人事ではない重大事件だということを再確認していきましょう。

なぜ「大口病院事件」は大量殺人に至ったのか

「大口病院・連続点滴中毒死事件」は、他の殺人事件ではなかなか見られない、きわめて特徴的な性格を帯びた事件と言えます。

大口病院事件の特徴とは、主に次の三つです。

(1)殺害一件あたりにかけた労力が少ない

まず一つめは、犯行に要した労力がきわめて少ない事件であったこと。久保木愛弓容疑者は、入院患者を自身の手でじかに殺めたわけではなく、殺害に用いた消毒液や点滴袋も、大口病院に大量にあったものを用いただけでした。

被害者の苦しむ顔を見ず、少ない労力で殺人を実行していたからこそ、少なくとも20人以上という、恐るべき大量殺人事件になってしまいました。「人を殺めた」という実感が弱かったことで、久保木愛弓容疑者がその行為の恐ろしさをよくわかっていなかった可能性は高いのです。

(2)被害者は全員「終末期医療」の患者さんだった

「終末期医療」には、最後はここ(病院)で死ぬ、という大前提に立った医療です。死を前提とした医療に携わることで、久保木愛弓容疑者の中に「この人たちは、いずれ亡くなるのだから(殺害しても構わない)」という、”歪んだ正当化”が生じていたとも考えられます。

(3)病院の「性善説」につけ込んだ犯行

病院は、そこで働く人々を「性善説」(人は基本的に善人であると見なす考え方)に立って雇用しています。看護師が患者を殺害する可能性など、まったく想定していません。大口病院もそうだったはずです。

もし看護師にも悪人が紛れ込んでいる、と疑ってかかったなら、病院は監視カメラだらけになり、患者に触れるときはその都度、許可を取ってから触れる、ということが起きかねません。もちろん入院患者は、これまで以上にプライベートを阻害されるでしょう。

久保木愛弓容疑者の犯行は、その「性善説」という大前提につけ込んだものでした。犯人逮捕までに2年もの時間を要した原因は、性善説が前提の大口病院には防犯カメラがなく、物証が非常に残りにくかったからです。

今回の事件を受け、人体に影響を及ぼすさまざまな薬剤を取り扱う医療機関の苦悩は深い。看護師ら医療従事者は献身的に患者に尽くすという性善説が大前提で現場は成り立っており、内部の悪意が持ち込まれた場合の対処は他の医療機関にとって「対岸の火事」ではないからだ。

性善説の職場が崩壊した前例――学校教員の場合

かつて、医療従事者と同様に「性善説」が前提だった学校教員は、体罰や性犯罪、不適切ないじめ対応や個人情報の管理ミスなどにより、学校教育に対する信頼を大きく揺るがしました。

現在では、宿題ノートやテストの持ち帰りの禁止、役所への報告業務の増量、生徒指導の厳格なルール化などにより、社会からの厳しい監視が前提となっています。

そのためか、昭和時代より年間授業時間数が少ないにもかかわらず、過重労働や精神疾患に苦しむ教員が多発しています。生徒と直接かかわる時間よりも、報告業務やクレーム対応に費やす時間が増加したためと考えられています。

横浜市は防犯カメラの設置を急いだ

信頼を損ねた教育行政が、教員の業務を監視する機能を強化したのと同じように、医療現場で働く人々の監視機能が強化されるのは必然といえます。

横浜市ではさっそく、市内のほとんどの病院で防犯カメラを設置する方針を打ち出しました。久保木愛弓容疑者による大量殺人の影響は、すでにこうしたかたちで社会に影響を及ぼしています。

同院は“身内”から容疑者が逮捕されたことを受け、薬剤の施錠管理の徹底や事件発覚まで院内になかった防犯カメラの設置などの対応策を説明、再発防止に努めるとした。

大口病院事件を「終わりの始まり」にしてはいけない

大口病院事件は、医師や看護師といった「性善説」が前提の職業に大きな影響を与えかねない重大事件です。裁判の結果や世論次第では、信頼を基盤とした医療現場の「終わりの始まり」を招く恐れもあります。

裁判では、被害者の総数や判決の内容に注目が集まることが予想されますが、裁判の過程で明らかになるだろう行政対応の不備や医療現場の課題にも着目して、事件の再発防止と、医療現場の信頼の維持とが、どのように果たされるかを見守っていくことが大切です。

どんなに健康な人でも、病院は死ぬまでに一度はお世話になる施設です。わたしたち全員に関わる問題として、今春にも始まるであろう大口病院事件の裁判に注目していきましょう。

関連するまとめ

編集部
この記事のライター
Cherish編集部

人気の記事

人気のあるまとめランキング

新着一覧

最近公開されたまとめ