アンダーマイニング効果とは?恋愛や仕事にも影響をもたらすの?
友人に、手伝ってくれたらコーヒーおごるよ、なんて言うことがありますよね。でも相手のやる気を引き出すつもりの報酬が逆にやる気を下げる原因になっていたら?それがアンダーマイニング効果です。モチベーションと報酬の間で起こるアンダーマイニング効果について説明します。
目次
アンダーマイニング効果は人のモチベーションを下げる?
成果を出すためにモチベーションを上げることが大切だ、とはよく学校でも職場でも叫ばれますが、アンダーマイニング効果というのは、逆に人のモチベーションを下げる心理効果のようです。好きこそものの上手なれ、と言いますよね。純粋に好きだ、楽しい、という気持ちはモチベーションを上げる効果があり、自然と上手にもなっていきますが、その行為に金銭や昇進、特権付与などの報酬が発生することで、好きだからしているんだという気持ちに陰りができ、結果的にモチベーションを下げる心理の変化が起きるのです。
アンダーマイニング効果とは?
アンダーマイニング効果とは「内発的動機付けが物的報酬によって低下してしまう現象のこと」を指します。何だか難しい言葉が並びますね。言葉の詳しい説明は後ほどしますが、もう少し簡単に説明すると、アンダーマイニング効果とは、もともと報酬がなくとも楽しんで自らやっていることに対して、報酬がもらえるとなったことで、モチベーションを上げる効果があった好きとか楽しいという気持ちが低下し、報酬がないならもうやらない、やる気が出ないとなってしまう心理効果です。アンダーマイニング効果は報酬とモチベーションの間の心理作用の一つなのです。
アンダーマイニング効果を理解するための基本事項を説明!
アンダーマイニング効果について説明される時によく使われる言葉の意味を解説しましょう。
内発的動機づけ
内発的というのは自分の内部、心理、気持ちから発生しているということです。つまり自分自身のやる気がモチベーションを上げる動機になっているのです。読書が好きな人が本を読むのは内発的動機づけにあたります。ネットを見るのが好きな人がネットで自分の好きなサイトを見るのも、内発的動機づけにあたります。つまり好きだから勝手にやってます、という状態でアンダーマイニング効果は起こりません。
外発的動機づけ
他者から与えられたもの、つまりご褒美やお給料などの報酬や引き換えに与えらえる権利を目的とする動機になります。試験勉強は外発的動機づけで行われる活動です。試験に受かることで入学という資格を得る対策として勉強しているからです。仕事に使うことをネットで調べるのも、外発的動機づけにあたります。ネットで得た知識を報酬をもらえる仕事に活かそうとしているからです。この行動が報酬に結び付くからやってます、という状態です。これがアンダーマイニング効果を起こしてしまうのです。
アンダーマイニング効果が判明した実験を2つ紹介!
アンダーマイニング効果は心理学者エドワード・L・デシ氏とマーク・R・レッパー氏による実験により判明した現象です。彼らの実験や他の心理学者によるアンダーマイニング効果に関する実験で有名なものをご紹介します。
幼稚園児を対象にした実験
まずは、幼児を対象としたアンダーマイニング効果を検証する実験をご紹介します。
実験内容
お絵描きが好きな幼稚園児を3つのグループに分けます。
A:絵が上手に描けたら報酬として表彰状をあげると約束し、実際に与える。
B:事前に約束はしないが、描き終わったら表彰状を与える。
C:約束もせず、表彰状も与えない。
それぞれのグループにそれぞれお絵描きを自由にさせます。
実験結果
こうして分けられたグループの数週間後の様子を検証したところ、事前に報酬を約束されていない事はB、Cグループのお絵描きに対する内発的な意欲を下げることにはなりませんでしたが、事前に報酬を約束されたAグループは意欲を下げるという影響が出ていました。
この結果から事前に報酬が約束されているか否かがモチベーションに影響していることが分かります。これは、「絵を描くということをご褒美があるから自分はしているんじゃないか?」と自分の自発性に疑問を持つようになり意欲が低下しているのです。これがアンダーマイニング効果です。
大学生を対象にした実験
次は幼稚園児より精神的にも成長した大学生の心理に、アンダーマイニング効果がどのような影響を与えるか実験結果を見てみましょう。
実験内容
2つのグループに分けた大学生に、3つのセッションに分けて当時流行していたソマパズルと呼ばれるパズルを組み立ててもらいました。
※第一セッション
A、Bどちらのグループにも何の約束、制約もせずソマパズルを組み立ててもらう
※第2セッション
A:パズルが完成するたびに1ドルの報酬を与えることを約束し、実際報酬を与える。
B:約束もせず報酬も与えない。
※第3セッション
再度どちらのグループにも普通にソマパズルを組み立ててもらう。
どのセッションでも2回ソマパズルが完成したら、試験官が数分席を外します。その間はパズルをしてもよし、部屋にある雑誌を読んでもよし、別の種類のパズルをしてもよし、としました。そのいわば自由時間にソマパズルに内発的に取り組んだかどうかを調査したのです。
実験結果
結果的に、何の約束も報酬も与えられなかったBグループは、ソマパズルに従事する時間に変化はありませんでした。しかし、金銭報酬を与えられたAグループは、ソマパズルに従事する時間が減ったのです。このことから、Aグループの学生はもともとはパズルをすることが楽しくて取り組んでいたのに、金銭報酬を与えられたことで、ソマパズルが報酬を得るための方法にすぎないと感じたことが影響し、逆にモチベーションを下げる結果になったと考えられます。こうしてアンダーマイニング効果が確認できたのです。
アンダーマイニング効果が起こる理由は?
報酬はモチベーションを上げるのではないかと考えがちですが、なぜ逆にモチベーションを下げるアンダーマイニング効果が起こる結果となるのでしょうか。
自己決定感が低くなる
人は、自分の行動を自分で決めて進みたいと望む「自己決定の欲求」があります。自分が楽しくてその行動をしている時は、誰か他者にやれと言われた訳ではなく自分がやりたいからしているという、自己決定感が充実して満足した状態です。しかし報酬を期待させられた時点で、他者から報酬というご褒美をエサに自分の行動を統率されている、という心理が働くのです。自分の行動を自分で決めず、人から決められたと感じることで自己決定感に影響を与え、アンダーマイニング効果が起こります。
目的が手段に変わってしまう
人が内発的に「好きだから、楽しいから絵を描くんだ」と絵を描いている内は、「絵を描くこと」が目的です。しかし、絵を描くことによって報酬をもらえるから絵を描くんだ、となると「絵を描くこと」は報酬を得るという目的のための手段、方法になってしまうのです。目的が絵を描くという行為から報酬を得ることに変わったことにより、報酬が出ないのならば絵を描く意味がない、と逆にモチベーションを下げることになりアンダーマイニング効果が起こるのです。
状況別!アンダーマイニング効果を起こさない対策法は?
何事も、仕方なく嫌々取り組むのではなく、自発的に楽しんで取り組みたいですよね。また、誰かに何かに対して積極的に向き合ってほしい時、アンダーマイニング効果を引き起こしてしまっては全くの逆効果になってしまいます。アンダーマイニング効果を起こさないような対策法はあるのでしょうか。
子供に勉強をさせるなら
子どもに勉強をさせる対策としてお菓子などのご褒美を用意するのは、よく親がやってしまいますよね。勉強が好きで好きでたまらない、という子どもはもちろんいるのでしょうが、数で言えば勉強をしたくない子の方が圧倒的でしょう。 たしかに、勉強があまり好きではない子に「勉強をしたらお小遣いやお菓子をあげる」「勉強したらたくさん褒める」などの外的な動機付けをすることは必要な時もあるでしょうが、常習化するとアンダーマイニング効果を引き起こします。
対策として子どもが自分から興味を持って何かに取り組んでいる場合は、あえて「偉いね~、はい、お小遣いあげる」と報酬を与える必要はありません。アンダーマイニング効果は若い世代に特に顕著に影響が出てしまいます。自分で興味を持って本を読み始めたのに、報酬をもらったために、「親の前で本を読めば報酬をもらえるぞ」と逆に悪知恵を学んでしまい、学問に対する興味自体は減少するアンダーマイニング効果を起こしているのです。
子どもが勉強をしないときの対策法としては、基本的には言葉でやる気を引き出しましょう。「あなたなら、この本の良さが理解できると思うわ。」など期待しているよということを知らせてあげることが大切です。そうすることでアンダーマイニング効果を抑え、モチベーションを上げることができます。
仕事でやる気を引き出すなら
仕事は物的報酬が必ず発生しますし、期限やノルマ、上司の叱責などが圧迫感や義務感を発生させ、ますますアンダーマイニング効果の負の面の影響を受けやすくなります。部下がやる気がない時の対策法としては、まずは「君ならできると思ってこの目標数字にしているんだよ」など部下の自尊心をくすぐり持ち上げるような、期待をしているという言葉で誘導しましょう。そしてやはり、給料のために仕事をしているわけですから、報酬を約束することも必要なときがあります。
しかし、その人が嫌々ながら始めた仕事にやりがいを感じ始めている様子を感じたら、「君ならできると思っていた、任せるよ。」と口出しをせず見守ることが大切です。「私ってやればできるんだ!」と本人が有能感を感じモチベーションを上げることが理想的です。本人がやる気を持ち出しているのに、報酬をちらつかせるばかりでは、アンダーマイニング効果を起こしてしまいます。
自分のモチベーションを維持するなら
アンダーマイニング効果を抑えて自分自身のモチベーションを上げるには、内的動機づけと外的動機づけをうまく使いわけることが良い対策になります。例えば勉強に関しては、自分の好きな教科を集中して勉強することで、この数学の問題は解けるぞとか、歴史は興味あるから知識が増やせて楽しいというような内的動機づけでモチベーションを上げるようにしていきます。好きな教科を勉強することにより、「勉強が楽しい→楽しいから勉強する」というサイクルを作れるようになりアンダーマイニング効果は起こりません。
対して、苦手な教科を勉強しなければならない時は、もともと内的な動機がない状態なので、外的な動機付けをしてモチベーションを維持する必要があります。なので苦手な分野については「ここまで終わらせたら自分にご褒美をあげる」など、自分で報酬を設定する対策法がアンダーマイニング効果を起こさず、逆に良い影響をもたらすのです。
アンダーマイニング効果が恋愛に影響することはある?
アンダーマイニング効果を恋愛において当てはめることができるでしょうか。例えばもう別れたいと思っている恋人を遠ざける方法になりえるか、などです。アンダーマイニング効果において想定されている報酬というのは「金銭」「合格」あるいは「ご褒美のお菓子」など物質的なものと、「称賛」「認めてもらう」などの心理的なものとあり、恋愛に関して言うと、影響が変わってきます。
仮に別れたい恋人に「電話を一回してくれたら500円払うのでもっと私に電話をして欲しい」と言ったとして、徐々にその額を減らすことによりアンダーマイニング効果が起き、彼が徐々に自分に対する執着をなくしていく可能性はあります。しかし、この場合の報酬が物質的ではなく優しくしてあげるとか、好きって言ってあげるというような気持ち的なものの場合、逆に執着心を深める結果になってしまいアンダーマイニング効果は起こりにくいでしょう。
アンダーマイニング効果と逆の効果もある?
モチベーションを下げてしまうアンダーマイニング効果とは逆に、外的動機付けがモチベーションを上げる効果を持つことがあるのでしょうか。
エンハンシング効果
エンハンシング効果とは、所属している集団や信頼している人からの期待や称賛という言葉や態度での報酬が内的動機づけを高める手伝いをする効果です。子どものころ、母親から褒められるのがうれしくてお手伝いを頑張ったりしましたよね。そのようにやる気をアップさせるのがエンハンシング効果です。
ピグマリオン効果
ピグマリオン効果とは、期待の言葉をかけ続けることによって、その人を期待どおりに能力を向上させることをいいます。一種の思い込みをさせて誘導する方法と言えます。「君はできる。やればできる。」と繰り返し伝えることで相手が「そうか、僕はできるんだ!」と思い込み、期待通りになろうと努力した結果、期待通りの状態まで向上した、という良い意味での洗脳のような効果をもたらすのです。
エンハンシング効果やピグマリオン効果のように、外的動機付けのうちでも、言葉による報酬(称賛や期待)はアンダーマイニング効果を起こすよりも逆の良い効果を起こす可能性を持っていると思われます。ただし何事も過度になりすぎると期待感が重圧になりアンダーマイニング効果の方を発動してしまうので、状況を見ながら言葉をかけていきたいですね。
間違えた報酬はアンダーマイニング効果を生んでしまう!
アンダーマイニング効果について少しでも理解が深まったでしょうか。知れば知るほど、アンダーマイニング効果とは非常に厄介な心理効果だと感じたのではないでしょうか。金銭的な報酬を与えれば誰しもモチベーションが上がると思いがちですが、もともとやる気のある人には逆効果になる可能性があり、やる気のない人には一時的にはモチベーションを上げる効果があるかもしれませんが、報酬に慣れてしまうと、もっと欲しいとかもらえる事が当たり前となりアンダーマイニング効果となってしまう諸刃の剣です。
報酬を約束するタイミングや報酬を言葉での称賛や期待に変えるなど、状況に応じた対策を取ることでアンダーマイニング効果を起こさないように、うまくやる気を引き出す方法を探りましょう。