『自我』の意味・使い方&例文!子供や社会学での意味とは?
日常語でも使われる「自我」という言葉。心理学・仏教・哲学・社会学などでも使われ、それぞれに異なる意味があります。ここでは様々な観点から「自我」の意味や使い方について、例文もまじえて解説しています。奥深い意味のある「自我」について考えてみましょう。
目次
良く使う『自我』について知ろう!
ときどき耳にすることがある「自我」という言葉。意味がわかっているようで、実は奥が深い言葉です。心理学でいう「自我」と仏教での「自我」では、意味が異なってきます。
ここでは「自我」の意味を様々な角度から解説しています。例文や英語での表現もまじえながら、類語や対義語もご紹介。ディープな「自我」の意味を知れば、あなたの世界観も変わるかもしれません。
「自我」について考えていきましょう!
『自我』の意味とは?
「自我」と書いて「じが」と読みます。そもそも「自我」とは、どういう意味なのでしょうか?
普段、「自我」という言葉を聞いたとき、おそらくほとんどの場合、「自分(私)」を意味する言葉と考えるのではないでしょうか?
心理学と仏教では、「自我」という言葉にもっと奥深い意味があります。詳しく見ていきましょう。
心理学での『自我』の意味
フロイトは私たちの心の中にある「自我(エゴ)」「エス」「超自我(スーパーエゴ)」という構造を説いています。「エス」とは動物的本能、「超自我」とは理性の機能を営むもののことです。そして、「自我」はこの2つをコントロールするものとされています。
たとえば、「エス」は食欲や性欲。「超自我」は育ってきた過程で身につけた良心や道徳観。この2つの間には葛藤が生まれます。
「エス」は生きるためのエネルギーにもなりますが、本能に従うままだと社会生活を送れません。「超自我」の理性であまりにも自分を抑えつづけると、心の病にかかってしまうこともあります。
「エス」と「超自我」の間にある「自我」でバランスをとることによって、心の健康を保つことができるのです。
仏教での『自我』の意味
仏教では「自我」の対極にあるのは「無我」とされています。「無我」とは私利私欲をなくすこと。「自我」はさまざまな欲にとらわれる執着心のことです。
たとえば、お金持ちになりたいと欲するのは「自我」です。欲しつづけることで、人はこの「自我」に苦しめられます。
「無我」の境地で無心となれば、心安らかに世界が広がるという考え方です。
『自我』の言葉を使った使い方と例文5選!
日常語でも使われる「自我」。正しい使い方を知るために、例文をまじえて解説していきます。
①2歳になって自我が芽生え始めた
親が自分の子供を見て成長したと思うのは、「この子にも自我が芽生えはじめた」と感じたときではないでしょうか?
例文の「2歳になって自我が芽生え始めた」の使い方を見ると、ただ泣くだけの赤ちゃんだった子供が2歳になり、自分を主張するようになった様子がうかがえます。「自我が芽生え始めた」と感じるのです。
②自我が強いわがままな人だ
「自我が強いわがままな人だ」という例文の使い方からもわかるように、わがままな人を見ると「自我が強い」と感じます。自己主張が強い、自分を抑えることができない性格の人を指した使い方です。
③自己主張をしない自我が弱い人間だ
「自我が弱い」という使い方になると、しっかりとした自分を持っていないという意味になります。反対の意味で「自我が強い」という言葉があります。
自我を「弱い」、または「強い」と表現するとき、いずれも性格の欠点を指摘するときに使います。
④精神的に安定するために自我を鍛える
苦難に弱い性格を、何事にも耐えられる強いものに変えたいとき、「自我を鍛える」といいます。
例文の「精神的に安定するために自我を鍛える」の使い方のように、自我を強いものにすると精神が安定すると考えます。
⑤理不尽な強制で自我が崩壊しそうだ
「自我が崩壊」するというのは、自己が混乱状態におちいる様子をいいます。
例文の「理不尽な強制で自我が崩壊しそうだ」という使い方では、なにか理にかなわないことを強制されて混乱し、「自我が崩壊」しそうになっている状態をあらわしています。
自我の崩壊はときに心の病につながることもあります。
子どもにおいての『自我』とは?
赤ちゃんはとても弱い存在です。自分ではなにもできません。お母さんから産まれ、お母さんと一心同体といって良いでしょう。まだ「自我」というものが形成されていない時期です。赤ちゃんに対しては「自我」が強いとか弱いとは形容しません。
成長するにつれて、子どもはやがて自分と他の人とは異なる存在だと気づきます。考えや感じ方も違うため、それを他の人に伝えようとします。自己主張は自我が芽生えた状態です。
2歳~3歳児の「イヤイヤ」を親が強い口調で抑えるのは、子どもの成長しつつある自我を抑えることになります。まだ弱い存在の幼児期に自我を抑えると、思春期に爆発し、親子関係が崩壊しかねません。親はこの時期の子供の自己主張をしっかりと受け止めることが大切です。
社会学においての『自我』とは?
社会学における「自我」も興味深い考え方です。
社会学者のチャールズ・クーリーは、「自我」は自分ではわからないとし、他の人を鏡として初めて「自我」を知ることができるという説を唱えました。つまり、自我とは「鏡に映った自我」なのです。
クーリーの概念としては、自我は幼少期にはなく、他人と共に存在する社会の中で育つとしています。
『自我』の英語表現は?
「自我」の英語表現を見ていきましょう。「自我」は英語で「ego(エゴ)」や「self(セルフ)」がもっとも近い意味になります。
自我を抑えることができない様をあらわす「自己中心的」を英語では「egotistic(エゴティスティック)」といいます。日本語でも使う「エゴイスティック」は英語でも「egoistic(エゴイスティック)=自己本位の」になります。
『自我』が入った言葉を3つ紹介!
「自我」はほかの言葉との組み合わせると、さまざまな意味をもつ言葉になります。具体的にご紹介しましょう。
①自我関与
自我が入った心理学用語に「自我関与」というものがあります。これは特定の事柄について、自分が関係していると考えることです。自己が深くかかわっていることに対しては、思い入れも強くなります。
たとえば、恋愛で相手と離れていても、自分の気持ちを抑えることができないくらい好きになっていくのは、「自我関与」の効果が働いています。「自己が深くかかわる」ことに関して、思い入れが強くなる状態です。
②自我実現
「自我実現」という言葉もあります。自己がもっている真の自我を実現することを意味します。ユングによると「自我実現」は「社会的に評価されるようなこと」とされています。
一方、「自己実現」は「自我実現」とは異なります。「自己実現」は社会的な評価といった目に見える成果とは関係なく、自分の内面を見つめていくことです。心理学者の河合隼雄は「自己実現とは、自我の崩壊とスレスレのところにある」とあらわしています。
③自我礼拝
「自我礼拝」はフランスの小説家、モーリス・バレスの代表作である観念小説三部作の総称です。「蛮族の眼の下」(1888年)、「自由人」(1889年)、「ベレニスの園」(1891年)を指します。
『自我』の類語5つを紹介!
「自我」の類語を見ると、本来の意味がより理解しやすくなります。具体的な類語を挙げて解説していきます。
①自己
「自我」の類語に「自己」があります。自分が考える自分が「自我」で、自分と他人を通して見た自分が「自己」です。英語で表現するなら、「自我」は「identity(アイデンティティー)」で、「自己」は「personality(パーソナリティー)」といえます。
「自我が弱い」と表現されることはありますが、「自己が弱い」とはいいません。
②自分
「自分」は私という存在全体の総称です。もともと「自分」の「分」は、本来もっている性質をあらわす「本分」の「分」からきていて、自らの力量をさす言葉でした。
「自我」は心の構造や機能を指すのに対し、「自分」は一人称として、古くから「私自身」を意味する言葉として使われています。
③人格
「人格」は個人の人間性をあらわします。「人格者」というと、すぐれた人柄の人を指します。「性格」に近い意味で使われることもありますが、知能も含めた広い概念といえます。
「自我」は各個人の意識や概念ですが、「人格」は他者から自分を見た評価のようなものです。
④意識
「意識」の意味は多様で、哲学や心理学、生物学や医学によっても異なってきます。
一般的な日常語では、「意識」とは自分が今どのような状況か、なにをしているのかなどが自分でわかる心の働きのことです。「自意識」は「自分自身についての意識」となります。
⑤エゴ
「エゴ」は英語の「ego」から来ています。一般的な日常会話では「エゴ」と「自我」は同じ意味で使われます。「エゴが強い」=「自我が強い」などです。
ただ、「エゴ」は「エゴイスト」という言葉もあるとおり、「自我」より自分勝手な意味合いが強くなります。
『自我』の対義語は?
「自我」の意味を知る上で、「自我」の対義語にも興味深いものがあります。「自我」に対する言葉にはどのようなものがあるのでしょう?具体的に見ていきます。
①彼我
「彼我」と書いて「ひが」と読みます。漢字があらわすとおり、「彼=相手」と「我=自分」のことです。
たとえば、「彼我の差」といえば「あちらとこちらの違い」という意味になります。
②他我
「自我」の「自」に対して「他」を使う「他我(たが)」。哲学用語で「他人に存在すると考えられる我」を意味します。
「他我を尊重する」というのは、「他の人が自分を大切に思う気持ちを尊重する」ということになります。
③非我
「非我(ひが)」は哲学で「自我に対立して存在するすべてのもの」を指します。つまり「我ではないもの」のことで、自我の外にある外界・自然・環境などを意味します。
『自我』は解釈によって意味が違う!
「自我」の意味や使い方について、例文や英語表現もまじえて解説してきました。日常会話でも使われる「自我」という言葉。心理学・仏教・哲学・社会学などによっても解釈が異なります。「自我」とは奥深い言葉であることがおわかりいただけたでしょうか?
ユングは「人生の前半は自我実現を目指し、後半で自己実現に取り組む」と説いています。若い頃は社会的評価からなる「自我実現」を目標にしたかもしれません。しかし、「自我実現」によって得られる幸福や喜びには限界があるとユングは考えました。「自我実現」を経たあとは、本当の自分を抑えることなく、自分らしく生きるべきという考え方です。
「自己実現」は自我を崩壊させるような困難さも伴い、ときとして社会との調和も難しくなるでしょう。それでもなお人生の価値について自問自答し、自分を抑えることなく解放したときに、「自己実現」が達成されるといえます。