故事成語「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」の意味や使い方を徹底解説!
「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」という故事成語をご存じでしょうか。故事成語とは過去の出来事を表しており、由来や意味が含まれています。今回は「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」の類語や対義語までご説明しますので、言葉の正しい意味を例文とともに把握しましょう。
目次
「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」の意味とは?
故事成語とは、昔中国で起こった出来事をもとにした教訓のことです。日本で例えるとことわざのようなものですが、「矛盾」や「温故知新」など日本の日常会話で使われることもあるでしょう。「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」もまた、日本で多く知られている故事成語ですが、一体どんな意味を持つのでしょうか。
「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」の読み方
「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」は、「えんじゃくいずくんぞこうこくのこころざしをしらんや」と読みます。長くて読みづらいですが、「燕」を「えん」、「雀」を「じゃく」、「安んぞ」を「いずくんぞ」と区切ると読みやすくなります。
「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」の意味
「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」は、「志が高い者の考える事は、そうでない者には理解できない」という意味です。「志が高い者」を大きな鳥の「鴻鵠」、「そうでない者」を小さい鳥「燕」と「雀」に例えています。視野の狭い人間は、価値観や考えが自分とは大きく違う人のことを否定するものですよね。そういった考えを持つ人間に対して揶揄した故事成語が「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」となります。
「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」の使い方
「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」の使い方は、大きく分けて二つあります。社会に出て使われることもあるようなので、例文を紹介する前にまずは正しい使い方を覚えておきましょう。
「視野を広くして大きく羽ばたけ」という意味での使い方
「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」とは、ネガティブな意味だと「人の夢をバカにする人間になり下がるな」ということですが、これは正しい使い方ではありません。正しい使い方は「視野を広くして我が道を進め」というポジティブな意味を持ちます。社会に出る若者に向けたエールとして使われることが多いようです。
「生き方を笑われても気にするな」という意味での使い方
「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」のもうひとつの正しい使い方は、「生き方を笑われても気にするな」という意味で使われます。人が新しいことに挑戦するときや大きな夢を掲げるときに、周りから冷たい視線を送られることがありますよね。そんなときに「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」の言葉を自分に言い聞かせ、モチベーションを上げることができます。
「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」の例文
「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」の例文は、以下のようなものが正しい使い方でしょう。
・あの頭の良い先生がおっしゃることですから、よほどの考えがあるに違いありません。「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」といいますし、私たちはじっと見守っていましょう。
・この仕事は保守的な考えでは成功しないというのに、全く理解されない。この状況こそまさに「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」とでも言えるだろう。
この例文のようにビジネスの場で多く使われることがあります。
または以下の例文のように、自分の弱い心を鼓舞するためにも使うことができます。
・「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」、志の低い者に私たちの考えは理解できないのだから。
・「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」という言葉を胸に、私は海外との輪を広げるためにTOEICの合格を目指す。
「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」の類語・対義語
類語は意味の似ている言葉、対義語は対照的となる言葉を指します。今回は、「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」の類語、対義語についてご紹介します。
【類語】「鷽鳩大鵬を笑う」
「鷽鳩大鵬を笑う(がくきゅう たいほうを わらう)」とは、「九万里も舞い上がる伝説の霊鳥、大鵬(大きい鳥)を鷽鳩(小さいハト)が笑う」という言葉です。小人者には大人者の気持ちが分からないという意味であり、「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」の類語です。
【類語】「猫は虎の心を知らず」
「猫は虎の心を知らず」とは、「同じ猫の仲間でも猫は虎の考えていることは分からない」という言葉です。「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」と同じように、小人者には大人者の気持ちが分からないという類語です。
【類語】「升を以て石を量る」
「升を似て石を量る(しょうをもってこくをはかる)」とは、「一升ます(小さい物)を使って一石(大きい物)の量をはかることはできない」という言葉です。小さな基準で大きなものを量るのは大きな誤差が生じるということから、「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」と同じような意味を持ちます。
【対義語】「英雄は英雄を知る」
「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」の対義語は、「英雄は英雄を知る」です。三国志から生まれた対義語で、「実力のある者には実力のある者を見抜く力がある」という意味を持ちます。魏の総帥・曹操(そうそう)が、のちの蜀の皇帝となる劉備(りゅうび)の優れた力に早くから気付いていたということが由来となりました。
「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」の由来とは?
故事成語には、昔起こった出来事となる由来が必ず存在します。古代中国の書物には、「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」の由来が原文として残されていました。その由来とは、一体どんなものなのでしょうか。
司馬遷が書いた歴史書『史記』
由来となったのは、紀元前206年頃のことです。当時の歴史家・司馬遷が書いた『史記』の中に「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」の原文が残されていました。各地で農民による反乱が起きた出来事の最初の指導者・陳渉について書かれた「陳渉世家(ちんしょうせいか)」の一節です。世家とは、当時の中国名家の家柄を記した書物のことをいいます。
陳勝の「成り上がり」エピソード
「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」の由来となったエピソードは、陳渉がまだ若かった頃にさかのぼります。雇われ農夫だった陳渉が、仲間の農夫に「自分がいつか高い地位に立ったとしても、お前のことは忘れない」と言いました。それを聞いた仲間の農夫は、「何を偉そうに」と陳渉のことを嘲笑ったのです。そのときに陳渉が「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」と呟いたことが故事成語の由来です。のちに陳渉は「張楚」という国の王に即位し、史上初となる農民反乱を起こすこととなります。
漢文「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」の原文を紹介
由来がわかったところで、次は「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」の原文、書き下し分、現代語訳をそれぞれひも解いていきましょう。古代中国に書かれた原文から読み解いていくと、当時の陳渉の心情が手に取るように感じ取れるでしょう。
「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」の原文
「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」の原文は、『勝大息曰、「嗟呼、燕雀安知鴻鵠乃志哉』となります。
「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」の書き下し文
「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」の原文から書き下してみると、『勝大息して曰はく、「嗟呼(ああ)、燕雀(えんじゃく)安(いづ)くんぞ鴻鵠(こうこく)の志を知らんや」と。』となります。
「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」の現代語訳
「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」の現代語訳は、『陳渉は大きくため息をついてこう言った。「ああ、ツバメやスズメのような小鳥に大鳥の志が分かろうか、いや分からない」と。』となります。
漢文「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」には続きがある?
陳渉が残した「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」という言葉には、さらに続きがあります。陳渉は貧しい身分だったこともあり、軍隊に徴発されることになりました。しかし陳渉は約束の時間までに現地へ行くことができなくなり、死刑になると覚悟していました。そこで「どうせ死ぬのなら」と一念発起し、呉広(ごごう)という仲間と反乱を起こし、張楚の王に即位します。
秦王朝との戦いの中、陳渉の仲間はクーデターを起こし呉広と陳渉を殺してしまいます。結局のところ陳渉は天下を取ることができなかったのですが、陳渉の勇気ある行動がのちに秦王朝を滅ぼす人々に影響を与えました。
「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」の英語表現
「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」の主な英語表現は、”Ask not the sparrow how the eagle soars.”です。類語の「英雄のことは英雄にしか理解できない」の英語表現だと”Only a hero can understand heroism.”となります。
故事成語ではないですが、海外にもことわざが存在します。欧米のことわざは、日本とは違ってアグレッシブな傾向があり、国によって性格の違いが表れやすいです。外国人とのコミュニケーションの際には、英語のことわざを覚えておくと良いかもしれませんね。
「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」の意味や使い方を理解して知識を増やそう!
今回は故事成語の「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」について例文や英語表記などをご紹介しましたが、いかがだったでしょうか。新しいことに挑戦し続ける人への後押しとなる、素敵な言葉ですよね。また故事成語を学ぶことで由来や類語、対義語まで知ることができ、私たちの知識が増やすことができます。
他の故事成語を学ぶときには、例文のような正しい使い方と意味を把握しておきましょう。そして「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」という言葉のように、視野を広くして我が道を歩けるような人生を歩んでいきましょう。