「自衛隊の自殺」海外派遣で増えている?自殺率やPKO派遣の手当まとめ

2017年に起きた南スーダン派遣の自衛隊員の自殺。「戦死」さえ覚悟しなければならない海外派遣は、PTSDを引き起こす?南スーダンの治安の実態、海外派遣の自殺者数や自殺率、過去の海上自衛隊でのいじめ自殺問題などからみていきます。

「自衛隊の自殺」海外派遣で増えている?自殺率やPKO派遣の手当まとめのイメージ

目次

  1. 1南スーダン派遣の自衛隊員の自殺
  2. 2そもそも自衛隊南スーダン派遣って?
  3. 3南スーダン派遣自衛隊員の自殺はPTSD?
  4. 4南スーダン派遣、現地の実態は?
  5. 5南スーダン・海外PKO派遣自衛隊員の手当
  6. 6海外派遣は過酷?南スーダン以前の海外PKO派遣の実態
  7. 7自殺者数50名以上?南スーダンだけじゃない、海外派遣自衛隊員の自殺
  8. 8海外派遣自衛隊員の自殺率は高い?
  9. 9南スーダン・海外派遣自衛隊員自殺で再注目、海上自衛隊のいじめ
  10. 10性的強要を受けた女性自衛官は18.7%
  11. 11海外派遣自衛隊員の自殺を防ぐ、メンタルヘルス対策
  12. 12民間団体も海外派遣自衛隊員の自殺防止を支援

南スーダン派遣の自衛隊員の自殺

出典: http://kameyama.jcpweb.net

2017年5月6日、ある陸上自衛隊員が自殺したことが話題になりました。この自衛隊員は前年の11月から、国連平和維持活動(PKO)で南スーダンに派遣され、4月に帰国。自殺の原因については、個人情報の観点から明らかにされていません。

しかしながら、前年7月に南スーダン派遣施設部隊の「日報」において、「戦闘への巻き込まれに注意」などと記載されていたこともあり、現場の実態や戦死のリスク、PTSDやそのケアに注目が集まっています。

そもそも自衛隊南スーダン派遣って?

出典: https://www.bouei.net

2011年7月9日、スーダン共和国の南部10州が住民選挙の結果を受けて、「南スーダン共和国」として独立しました。元をたどれば北部はエジプト、南部はイギリスが統治していたところを統合して出来たのがスーダン共和国。そのため、南北間の政治的・経済的対立が絶えず、二度の内戦を引き起こしています。

国連安全保障理事会は、南スーダンの治安維持やインフラ整備を担う平和維持活動(PKO)部隊「国連南スーダン派遣団(UNMISS)」の派遣を承認、これを受けて当時の野田政権は陸上自衛隊の施設部隊を派遣する方針を決定。以後のべ3850名あまりの施設部隊がインフラ整備活動などにあたり、2017年5月末をもって撤収しました。
 

南スーダン派遣自衛隊員の自殺はPTSD?

出典: https://www.ptsd.va.gov

南スーダン派遣自衛隊員の自殺の原因は公表されておらず、真相は明らかにされていなません。しかしながら「戦死」リスクさえあるという過酷な状況下に置かれたことによる、PTSDが一因ではないかとの見方もあります。

PTSDについては厚生労働省のウェブサイトによると以下の説明があります。

PTSD(Post Traumatic Stress Disorder :心的外傷後ストレス障害)は、強烈なショック体験、強い精神的ストレスが、こころのダメージとなって、時間がたってからも、その経験に対して強い恐怖を感じるものです。震災などの自然災害、火事、事故、暴力や犯罪被害などが原因になるといわれています。 突然、怖い体験を思い出す、不安や緊張が続く、めまいや頭痛がある、眠れないといった症状が出てきます。とてもつらい体験によって、誰でも眠れなくなったり食欲がなくなったりするものですが、それが何カ月も続くときは、PTSDの可能性があります。ストレスとなる出来事を経験してから数週間、ときには何年もたってから症状が出ることもあります。

PKO派遣自衛隊員のPTSDを危惧すべきとする志位和夫日本共産党委員長が、2017年5月27日の国会答弁の中で例に挙げた、米国の帰還兵の自殺の実態は以下の通り。

米国には、イラク戦争とアフガニスタン戦争の帰還兵が二百万人以上おります。うち六十万人が、戦地で経験した戦闘や恐怖から、心的外傷後ストレス障害、PTSDなどを患っております。そして、米国政府によると、一日平均二十二人、年間八千人もの帰還兵が自殺をしており、米国の一大社会問題となっております。イラクとアフガンの戦場での戦死者よりも年間の自殺者が上回るという異常事態であります。帰還兵の支援は、ワシントン・ポスト紙では、米国の次の戦争と呼びました。昨年十二月、ことし二月の二度にわたって兵士自殺防止法が制定されているほど事態は深刻になっております。

出典: https://becomingsoldiers.wordpress.com

南スーダンでのPKO活動は、PTSDを患うような実態があったのでしょうか。次で詳しく見ていきましょう。

南スーダン派遣、現地の実態は?

出典: http://www.independent.co.uk

首都ジュバでは2016年7月、微力衝突が発生し270人以上が死亡しました。この時、自衛隊宿営地の隣にあるビルでも銃撃戦があったといいます。

その後、2016年3月29日に施行された安全保障関連法に基づき、安倍政権は11月、「駆けつけ警護」の任務を11次隊に付与することを決定しました。

「駆けつけ警護」とは一体どのようなものなのでしょうか。防衛省白書の解説によると以下の通り。

いわゆる「駆け付け警護」は、PKOの文民職員やPKOに関わるNGO等が暴徒や難民に取り囲まれるといった危険が生じている状況等において、施設整備等を行う自衛隊の部隊が、現地の治安当局や国連PKO歩兵部隊等よりも現場近くに所在している場合などに、安全を確保しつつ対応できる範囲内で、緊急の要請に応じて応急的、一時的に警護するものです。

状況によっては武器使用も認められており、したがって自衛隊員が戦闘に巻き込まれるという事態も起こり得ます。

また、隠蔽問題として取り沙汰され、防衛大臣の辞任にまで発展した曰く付きの「派遣日報」の中でも、「激しい銃撃戦」「砲弾落下」などの文言がみられます。こうしたように、自衛隊員は「戦死」のリスクも覚悟しなければならない状況に置かれていたと言えるでしょう。

南スーダン・海外PKO派遣自衛隊員の手当

出典: https://get.google.com

そんな「戦死」やPTSDのリスクを抱えながら派遣された、自衛隊員たちの手当はどのようなものであったのでしょうか。

まず、南スーダンに派遣された自衛隊員には「国際平和協力手当」として、1日1万6000円が支給されます。また、「駆け付け警護」を実施した場合、日額8000円の手当を支給することが決まっています。加えて、南スーダンで隊員が公務中に死亡した場合などに支払う賞恤金(しょうじゅつきん)(=功労金)の上限が9000万円となっています。

ちなみに自衛隊員の海外派遣手当は、イラク南部サマワでの宿営地外活動時に支給した1日2万4000円がこれまでの最高額でしたが、総額では南スーダン派遣手当と同額となりました。カンボジアPKOなどの1日2万円を超え、PKO派遣隊員への手当としても最高額となっています。

参考として、自衛隊員の手当の最高額は1日4万2000円。これは2011年の東日本大震災で、東京電力福島第1原発にヘリで放水した隊員に支給されました。

死と隣り合わせの日々で1日1万6000円、「戦死」を含む死亡時には9000万円。命の代償として妥当かどうかは個人の価値観次第です。

駆け付け警護:手当8000円決定…南スーダンの陸自 | 毎日新聞

海外派遣は過酷?南スーダン以前の海外PKO派遣の実態

出典: http://www.nhk.or.jp

NHKで2014年4月放送された「クローズアップ現代+ イラク派遣 10年の真実」の中で、イラクPKO派遣自衛隊員の過酷な実態が明かされています。

出典: http://www.nhk.or.jp

非戦闘地域での活動を前提に派遣された自衛隊員の宿営地は、武装勢力による迫撃砲やロケット砲による攻撃が13回も行われたといいます。こうした中で、暗黙に「有事」を想定した訓練を多国籍軍と行うなど、「有事に近い体験をした」ことは、自衛隊員たちの精神面に大きな影響を与えたとみています。

出典: http://www.nhk.or.jp

また5年間のイラク派遣自衛隊員述べ一万人のうち、NHKの調べにより帰国後の自殺者は二十八人に上るとしています。イラクから帰国して一月で自殺した自衛隊員の母親の証言を見てみましょう。

出典: http://www.nhk.or.jp

20代の隊員を亡くした母 「(息子が)『ジープの上で銃をかまえて、どこから何が飛んでくるかおっかなかった、恐かった、神経をつかった』って。 夜は交代で警備をしていたようで、『交代しても寝れない状態だ』と言っていた。」

出典: http://www.nhk.or.jp

「戦死」すら覚悟しなければならない、現地での危険な状況が、この自殺した自衛隊員の言葉からうかがい知ることができます。こうした状況下であれば、PTSD傾向を示す自衛隊員が発生するのもやむを得ないと言えるででしょう。

自殺者数50名以上?南スーダンだけじゃない、海外派遣自衛隊員の自殺

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2014年5月27日の国会答弁で明らかになった、海外派遣自衛隊員の自殺者数は54名。真部朗防衛省人事教育局長が以下の証言を行なっています。

平成二十六年度末現在、その時点でございますが、イラク特措法に基づきまして派遣された経歴のある自衛官のうち、陸上自衛官が二十一名、航空自衛官が八名、計二十九名、それから、テロ特措法に基づいて派遣された経歴のある自衛官のうち、海上自衛官が二十五名、これは統計の関係で平成十六年度以降でございますが、以上、二十九名と二十五人で、足し合わせますと五十四名が帰国後の自殺によって亡くなられております。

さらに、補給支援特措法に基づく活動に従事した経歴があり、自殺した海上自衛隊員4名を合わせると、58名になります。日本報道検証機構の調べでは、イラク特措法で派遣された自衛官の実数は、8790名(延べ人数は約9560人で、海上自衛隊員約330人を含む)。この数字は多いのでしょうか。海外派遣自衛隊員の「自殺率」の例をみていきましょう。

イラク派遣自衛官の自殺率「自衛隊全体の5~10倍」は誤り 東京新聞が訂正

海外派遣自衛隊員の自殺率は高い?

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海外派遣自衛隊員の「自殺率」はどのようなものなのでしょうか。イラクに派遣された経歴を持つ自衛隊員の自殺率を例に取ってみてみましょう。

「自殺率」とは一般に人口10万人あたりの年間自殺者数で示します。それを踏まえ、イラク特措法に基づき派遣された自衛官29名の自殺率は約33人。平成27年6月18日の衆議院予算委員会において、中谷元防衛大臣が答弁しています。

33人の自殺率をどう捉えるべきなのでしょうか。中谷元防衛大臣はその比較として、「一般自衛官の自殺率=約35.9人」「一般成人男性の自殺率=約40.8人」という比較対象の数字を示しています。

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これとは他に、政府答弁書を元に「イラク派遣中の陸上自衛隊員の自殺率は2倍以上」と主張する意見もあり、データの検証方法そのものに議論の余地があるのが現状です。

第189回国会 予算委員会 第19号(平成27年6月18日(木曜日))
イラク派遣中の陸上自衛隊員の自殺率は公務員の2倍、「非戦闘地域」が建前の派遣で56人の若者の命が奪われた | editor

南スーダン・海外派遣自衛隊員自殺で再注目、海上自衛隊のいじめ

2016年の防衛白書によりますと、過去最多の自衛隊員の自殺者数は2005年の101人。当時もこの自殺者数の増加が話題になり、2005年前後に起こったいじめによる自殺例も報道されました。入隊して間もない海上自衛隊員など、そのどの例も先輩隊員からの陰湿ないじめ・嫌がらせによるものでした。

2004年には、海上自衛隊員が鉄道自殺しています。自殺の直後、警務隊は「借金が原因」だと家族に説明しましたが、現場にあったリュックから手帳や遺書が発見され、先輩隊員からの執拗ないじめが発覚しました。

2005年には、クウェートに選抜派遣の経歴の航空自衛隊の隊員が、自宅で首吊り自殺しました。クウェートからの帰国後、先輩隊員から暴行や嫌がらせを受けた末の悲劇だといいます。

2007年にも海上自衛隊員が、執拗ないじめの末に鉄道自殺をしました。海上自衛隊に入隊してからの4年間、先輩隊員からのいじめ・嫌がらせを度々受けていました。その果てに統合失調症と診断され、実家で療養で療養していましが、実家近くの路上で通行中の男性の背中をナイフで刺し逮捕されました。病気のため責任能力はないとして不起訴処分になった半年後、彼は自らの命を絶ちました。

自衛隊のいじめ→自殺者毎年100人

性的強要を受けた女性自衛官は18.7%

出典: https://get.google.com

自衛隊内のいじめは度々表面化して取り上げられますが、そのほとんどは約94パーセントを占める男性自衛隊員のケースばかり。しかしながら、残り約6パーセントの、女性自衛官たちのいじめやセクシャルハラスメントも看過できない問題です。

1998年に実施された、「防衛省セクシャルハラスメント調査」によると、女性自衛官の18.7%が「性的強要」を受けたと回答、7.4%が「強姦(未遂を含む)を受けたと回答しています。
 

防衛省職員セクシュアル・ハラスメント調査結果

2014年には陸上自衛隊の高射教導隊の男性一等陸曹が、指導中の女性自衛官計17人にわいせつ行為、別の女性隊員に暴行行為をしたなどとして、懲戒処分にあっています。この男性一等陸曹は女性自衛官たちに度々セクハラ行為、蹴るなどの暴行行為を働いていたということです。

陸上自衛隊の1等陸曹が女性隊員17人にセクハラ行為 | リアルライブ

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さらに深刻な強姦事件もありました。2010年の元女性隊員のセクハラ訴訟です。この女性隊員は、1階級上の男性三曹に性的行為を強要されましたが、周囲の助けがないばかりか「周囲に迷惑をかけた」として退職を強要されたといいます。

女性元自衛官が勝訴 札幌地裁 基地内の性的暴力・退職強要を認定

海外派遣自衛隊員の自殺を防ぐ、メンタルヘルス対策

出典: http://blog.goo.ne.jp

防衛省も、看過できない自殺者数や隊員のPTSD傾向を重く受け止めて、対策に乗り出しています。

まず、駐屯地・基地などへ臨床心理士を配置するなどの、カウンセリング態勢の拡充、指揮官や一般隊員へのメンタルヘルス教育の強化、さらには自殺者が出た部隊へのアフターケアなど、メンタルヘルス対策を強化しています。

このメンタルヘルス対策の目的について、[1]海外派遣隊員「自殺者56名」の背景
では3つに分けて言及しています。

(1)災害派遣におけるストレス、たとえば遺体回収による精神的ショックなどへの対策。 (2)PKO(国連平和維持活動)や、アメリカとの同盟関係を軸にした海外展開による、戦地での過酷なストレスへの対策。PTSD(後述)の対策。 (3)全般的な自殺対策。この対策では、自衛隊員の狭義の精神的ストレスだけでなく、いじめや借金苦も自殺の原因として考えられている。

実際に南スーダンではどのような対策が施されたのでしょうか。防衛省のウェブサイトを引用します。

南スーダンに派遣される隊員は、日本隊宿営地において、日本国内の駐屯地とほぼ変わらない日課で、日々の規則正しい生活と自炊による日本食を中心とした食事を心がけ、日々スポーツに参加して健康的な生活を営むことで疾病を予防することに努めています。 そして、アフリカ大陸に特有な感染症を予防するための衛生教育を受けるとともに、必要な予防接種やマラリア予防薬の服用を実施しています。また、派遣部隊には医師などの衛生科隊員も含まれており、彼らが医務室を運営し、隊員の診療を行っています。 派遣期間の半ば頃には、医務室において臨時の健康診断を行い、隊員の健康状態をチェックしています。さらに、定期的に精神科医師を現地に派遣し、隊員の心の健康もサポートしています。

出典: http://www.mod.go.jp

しかしながら過去3年において、2014年度の自殺者数は82人、2015年は69人、2016年に至っては73人と前年より微増しており、まだまだ一定の成果を見せるには至っていません。

民間団体も海外派遣自衛隊員の自殺防止を支援

出典: http://iwj.co.jp

「戦死」さえ想定せざるを得ない、昨今の自衛隊海外派遣。こうした状況を憂慮した医療者・カウンセラーなどが中心となって、「海外派遣自衛官と家族の健康を考える会」が2017年設立されました。

極度の緊張状態に置かれ心的負荷のかかった自衛隊員、また不安を抱えた家族を、情報提供、医療の面で支援していく方針です。現在、海外派遣自衛官と家族の健康相談、コンバット・ストレスに関する勉強会や相談会を始めています。

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