2021年09月09日公開
2021年09月09日更新
『修悦体』駅の警備員・佐藤修悦が作ったガムテープ文字が秀逸すぎる…!
日頃から印刷物などで明朝体やゴジック体など様々なフォントの文字を見る機会があります。 中には『修悦体』という、佐藤修悦氏がガムテープで作った独創的な文字があります。駅の警備員である佐藤修悦氏はどうしてガムテープで文字を作ろうと思ったのでしょうか。
目次
修悦体とは?
出典: http://cabanon.exblog.jp
画像中の「日暮里駅」、「みどりの窓口」、「きっぷうりば」が修悦体で作られています。
修悦体とは、佐藤修悦氏がガムテープで創り出したフォントのことを言います。
特徴は何と言っても通常見ることのない、一味違った独創的なアートのようなデザインの文字です。
目に入ったら立ち止まってじっと見てしまうでしょう。
一見すると、ガムテープで作ったように思えません。
佐藤氏が作ったこのフォントは、後に「修悦体」と呼ばれるようになり、多くのメディアに取り上げられるなど、大きな反響がありました。
凄いことに佐藤氏はデザイナーではなく、三和警備保障株式会社に勤務する警備員なのです。
ガムテープで作った文字フォント・修悦体作者の佐藤修悦氏
出典: https://ueno.keizai.biz
佐藤修悦氏は岩手県花巻市出身の男性で、三和警備保障株式会社に勤務しています。三和警備保障株式会社では主に建設現場における、交通誘導や交通規制、列車見張などが業務内容です。佐藤氏はデザイナーではありません。
出典: http://blog.cshool.jp
警備員姿の佐藤修悦氏です。後ろの右側にあるのは佐藤氏が製作した修悦体の文字です。
佐藤修悦氏の勤務する三和警備保障株式会社のホーム画面からTOPICSのところをクリックすると、佐藤氏について見ることができます。
佐藤氏は2017年現在も三和警備保障株式会社に勤めていて、駅の警備員をしているそうです。
佐藤修悦氏が修悦体を創り出すことになった経緯
ガムテープで作ったJR新宿駅の即席の案内標示
2003年、佐藤修悦氏は当時JR新宿駅で行われていた改良工事の誘導係として、三和警備保障株式会社から派遣されました。
新宿駅を利用するお客さんは工事のために、普段通っている通路が使えず、迂回を余儀なくされました。
そうするとある問題が発生しました。
行先や方向、改札の場所が分からないなど、お客さんが駅の中で迷ってしまうのです。
佐藤氏はそういったお客さんの対応に追われ、何とかしなければならないと考えました。
そこで近くにあったガムテープを使って工事の仮囲いのところに、ホームや改札への即席の案内標示を作ったのです。
その時は無意識のうちに作ったそうです。
案内標示が完成すると、お客さんが迷わずに駅内を移動できるようになりました。
しかしその時は許可を取らずに無断で作ってしまったので、工事の総責任者の方に注意されたら案内標示の製作をやめようと思いました。
けれども、お客さんからは分かりやすいと言った声が挙がり、その工事の総責任者も理解して、逆に褒めてもらえました。
それから佐藤氏はホームと改札、トイレの案内標示を作りました。
佐藤氏の案内標示製作は、特に問題になりませんでした。
注目されるようになった佐藤修悦氏のガムテープ文字
2007年に今度はJR日暮里駅の改良工事の誘導係につきました。
日暮里駅も改良工事のため通路が使えないところがありました。
そこで佐藤氏は新宿駅と同じように工事責任者や駅の許可を得ずに、「トイレ」や「改札」といったお客さんに聞かれる場所の案内標示を製作しました。
日暮里駅からは新宿駅と同じように注意されることはなく、逆に褒められました。
その後、その独創的なフォントがインターネットやテレビ、新聞で紹介され、佐藤氏のガムテープ文字「修悦体」は国内外で注目されるようになったのです。
また、同年佐藤氏の個展「現在地」が高円寺で開かれました。
これは高円寺で活動しているアート&パフォーマンス集団「トリオフォー」の山下陽光氏のプロデュースによるものです。
山下氏は、2003年にJR新宿駅で修悦体を見て、その面白さに興味を引かれました。
その後佐藤氏と出会ってから、修悦体をトリオフォーのサイトやイベントで紹介するようになりました。
4年後の2007年、山下氏が日暮里駅で佐藤氏と再会したことをきっかけに、高円寺での個展「現在地」が開催されることになったのです。
山下氏は修悦体を世の中に広めていった、まさに文字フォントのプロデューサーと言えます。
修悦体の広まり
映画やCD、ゲームで使われる修悦体
2008年に佐藤氏は駅の案内標示以外の掲示物も製作しました。
それから映画やCD、ゲームのポスターやジャケットにも修悦体が使われるようになりました。
この他にも消費者庁のロゴなどに使われました。
出典: https://ueno.keizai.biz
2008年に公開された吉永小百合主演の映画『まぼろしの邪馬台国』のタイトル文字は修悦体です。佐藤氏は初め、ポスターの文字に使用されると聞いていたようです。
佐藤修悦氏が行った修悦体の実演会
佐藤氏は高円寺だけでなく、六本木やお台場などで実演会を行いました。
六本木で行われた時は、ほとんど外国人の前で説明しなければならず苦労したそうです。
ただガムテープで修悦体の文字を作ったときには、外国人からは驚きの声が挙がって、会場は大盛り上がりでした。
このように修悦体は国内だけではなく、海外でも大きな反響を呼びました。
修悦体はこうして作られる
佐藤修悦氏は専門のデザイナーではなく、三和警備保障株式会社に勤める普通の警備員です。
修悦体は他のフォントにはない独創性が見られ、ユニークで安心感があります。
一体どうやって作られているのでしょうか。
修悦体を作るまでの準備段階
佐藤氏は案内標示を作った当初、定規などを使って測ることなく、おおよその長さを自分で測ってガムテープを使って文字を作っていました。
そのため、本人の中では新たに開発したという実感はありませんが、修悦体はゴシック体の影響を受けているようです。
JR新宿駅で初めて作ったときに修悦体の文字は角張っていましたが、JR日暮里駅以降の製作では丸みを入れるように工夫しました。
修悦体を作る際には、黒、赤、青など様々な色の布吸着性のガムテープ、直線定規、メジャー、ボールペン、カッターナイフを準備します。
ガムテープを貼る板は化粧ベニヤやプラダン、ハレパネをお勧めするそうです。
ダンボールを使うことも可能ですが、その時はあらかじめガムテープを貼るなどして、補強しておきます。
ガムテープを使った修悦体の文字製作過程
修悦体製作の様子の動画です。
早送りですが、動画内で佐藤氏は「ガンバレ!日本」という文字を作っています。
初めに作成する文字数、画数、バランスなどを考えて、縦方向をメジャーで採寸します。
採寸するのは真っ直ぐの長い2本のガムテープを平行に貼るためです。
このガムテープは文字の一部になります。
そして横方向も同じく、文字数、画数、バランスなどを考えてメジャーで採寸してから、作成する文字の枠になるように今度は縦方向にガムテープを平行に貼っていきます。
それから作成する文字に共通する横方向のガムテープを貼っていきます。
共通する横方向に貼り終えたら、縦・斜め方向に文字作成に必要なガムテープを貼っていきます。
そうすると板はたくさんのガムテープでいっぱいになりました。
今度は文字にするのに必要のないガムテープを剥がしていきます。
まずは文字枠の外側のガムテープを直線定規とカッターナイフを使って剥がしていきます。
それが終わったら、今度は文字枠の内側のガムテープを同じように剥がしていきます。
そして最後に、カッターナイフを使って文字に丸みを付けます。
濁点を入れて、ビックリマークに丸みを付けたら完成です。
修悦体のカラフルなガムテープ文字
JR新宿駅で案内標示を作った時には、白と黒、黄色のガムテープしかありませんでした。
案内標示が工事の総責任者の方から褒められた後、佐藤氏は赤、青、緑のガムテープを使えるようにお願いしました。
そのお願いは了承され、電車の色に合わせた案内標示の製作ができるようになりました。
佐藤氏が製作している修悦体の文字は黒をメインに、赤、青、緑、黄色、白などのガムテープで作っているのでカラフルです。
佐藤修悦氏のガムテープで製作した修悦体が使われている作品
佐藤修悦氏はJR新宿駅やJR日暮里駅などで案内標示を製作しました。
この他にも映画やCD、ゲームといった分野でも使用されています。
その修悦体が使われている、主な作品をご紹介します。
駅などの案内標示
出典: http://lionbass3.blog.so-net.ne.jp
・JR 新宿駅、日暮里駅、高円寺駅
・京浜急行 京急蒲田駅、大森町駅
・小田急電鉄 下北沢駅
・安田クリニック
タイトル文字など
・映画『まぼろしの邪馬台国』タイトル文字
・ロゴ文字『消費者庁』
・little by little 『Pray』CDジャケット
・ニンテンドーDS『考える力をぐんぐん伸ばす!DS幼児の脳トレ』タイトル文字
書籍
・『話題の新書体「修悦体」をマスターしてガムテープで文字を書こう』
この書籍は修悦体の作り方が紹介されており、佐藤氏が監修を務めています。
修悦体の反応・評価
佐藤修悦氏が製作した修悦体の案内板は、駅を利用する人達に好評でした。
また、工事の総責任者や駅側からも好評でした。
修悦体はインターネットやテレビ、新聞で紹介され、国内外で注目されるようになりました。
作り方を紹介した書籍が出版されるなど、一躍人気になりました。
ツイッター上では修悦体の案内標示などを見た人から、かっこいい、見やすい、わくわくする、テンションが上がる、風流を感じる、といった反応があります。
東映株式会社会長・岡田裕介氏の反応・評価
出典: https://movies.yahoo.co.jp
2008年に公開された映画『まぼろしの邪馬台国』では、そのタイトル文字に修悦体が使われました。
それを決定したのは配給元東映株式会社の当時の社長で、2017年現会長の岡田裕介氏です。
岡田氏は映画のタイトル文字にこだわっていて、そのイメージに合った魅力的な文字を書ける人を探していました。
そのようなときに、テレビで佐藤氏と修悦体のことを知りました。
その時岡田氏が見た修悦体は少しだけでしたが、その文字はとても魅力的に感じたようです。
そこで佐藤氏に『まぼろしの邪馬台国』のタイトル文字製作を依頼し、デザインなどは全て任せました。
佐藤氏はタイトル文字についていくつか製作し、岡田氏はその中から一番気に入ったものをタイトル文字に選びました。
岡田氏は佐藤氏の独創的な優れたデザインを一種の天才だと評しています。
修悦体で作られた『まぼろしの邪馬台国』のタイトル文字は、岡田氏にとって公開前から、見る時には決まってうれしくなるような、とても満足するようなものでした。
佐藤氏にタイトル文字製作をしていただいて、本当に良かったと岡田氏は話しています。
修悦体に関する佐藤修悦氏のエピソード
修悦体は駅の案内標示などだけではなく、映画やCD、ゲーム、そして書籍まで広がりました。
多くの人から好評ですが、その修悦体について佐藤修悦氏のエピソードを2つ紹介します。
墨字の文字より修悦体の文字?
2008年のお正月、当時JR日暮里駅で改良工事の誘導係についていた佐藤氏は駅の案内標示以外の掲示物も製作していました。
改良工事によりお客様に迷惑をかけて申し訳ないという気持ちから、製作した「謹賀新年」という標示を日暮里駅構内に掲示しました。
日暮里駅の当時の駅長も墨字で「謹賀新年」と書いたものを既に構内に掲示していました。
自分の作った標示を佐藤氏も掲示しようとしたところ、駅長が自分の書いたものを外してしまいました。
駅を利用している人にとって、佐藤氏の作った修悦体がなじみ深いと駅長は思ったのでしょう。
その駅長も修悦体が好きで、駅側がお客さんに必死に伝えたかったことを、修悦体によって見ていただけるようになったと述べています。
佐藤氏のガムテープデザインに苦情!
修悦体は国内外で大きな反響があって、国内では好評です。
ただ、佐藤氏が掲示した標示で苦情を言われたことがあります。
標示には「トイレ」とあったのですが、その内「イ」の字の形が違うと苦情を言われたのです。
出典: http://yanesen.urouro.org
「トイレ」の案内標示
画像内の修悦体は、2007年にあったJR日暮里駅構内の仮設の案内標示です。
「京成」、「常磐線」など修悦体の標示がありますが、左側に「トイレ」の標示があります。
画像中の「トイレ」標示は遠くから見てもシンプル、かつ分かりやすいです。
トイレを探している人が迷わず向かうことができると思います。
修悦体の「イ」の文字は短い棒がほぼ直角に左方向に出ています。
カタカナの「イ」は1画目が斜め左方へ向かうので、標示を作る際にもそれに倣う必要性があると思う方もいるでしょう。
しかし、修悦体では「イ」の文字は画像中のように作られていて、他の作品でも同じようなデザインになっています。
この「イ」のデザインは佐藤氏独自のガムテープによるフォントデザインですが、苦情を言った方も自分なりのデザインを持っていたのかも知れません。
細かいところですが、その佐藤氏のデザインが気になって、つい苦情を言ったのかも知れません。
修悦体のフォントデザインはダウンロードできるのか
独創的で、多くの人を引きつける修悦体。
自分で作ってみたいけど、作り方を見て大変そうと思った方はいるかも知れません。
そこで、修悦体のフォントデザインをダウンロードできないのかとインターネット上で検索する人もいるでしょう。
しかし、インターネット上で修悦体のフォントデザインをダウンロードすることはできません。
修悦体はガムテープによる手作りなので、文字がいつも同じような形になるわけではなく、微妙にずれることもあります。
印刷用の明朝体やゴシック体のように、常に決まった形にならないのです。
そのため、修悦体のフォントは一般に作られておらず、販売もされていません。
ですから、インターネット上で修悦体をダウンロードすることはできないのです。
しかし修悦体ではありませんが、似た趣のフォントデザインをダウンロードすることができます。
「Maniackers Design」というグラフィックデザインスタジオが開発した「Nihonbashi」というフリーソフトです。
「Nihonbashi」の概要
出典: http://cute-freefont.flop.jp
「Nihonbashi」のフォントはブロックを直線に置いたような形をしていて、カタカナやアルファベット、数字、記号などがあります。漫画家の日本橋ヨヲコ氏がこのフォントをブログなどで用いています。
このフォントは「Maniackers Design」のページからダウンロードすることができます。
Mac、Windowsの両方に対応しています。
このフォントはダウンロードが自由という意味のフリーソフトであり、無料という意味ではありません。
ダウンロードした後に商業目的で使用する場合は、著作権者であるManiackers Design側に使用料を支払う場合があります。
佐藤修悦氏がガムテープで作った文字・修悦体まとめ
改良工事の影響で、駅内で迷ったお客さんのために三和警備保障株式会社に勤務する佐藤修悦氏がガムテープで作った即席のフォント修悦体。
その修悦体は駅を利用するお客さんだけではなく、工事責任者や駅側からも好評でした。
印刷物が主流の中、手作りの見て分かりやすい独創的なフォントは、どこか安心感があって、多くの人を引きつけます。
今や国内外から注目されるようになりました。
その佐藤氏は自分の作った修悦体のフォントについて、芸術作品としては評価されることを考えていません。
例えば駅の工事などが終了すれば、掲示した仮設標示は必要なくなってしまいます。
佐藤氏は標示などの製作物がその場限りでしか使われていなくても、見やすくて分かりやすい文字を作って、見る人などに喜んでいただきたいという思いを大事にしています。
このように修悦体には佐藤氏の真摯な気持ちが込められています。
これからも佐藤氏が創り出した修悦体はさらに広がっていくことでしょう。