2021年03月30日公開
2021年03月30日更新
『桶川ストーカー殺人事件』不祥事を起こした警察と上尾署のその後
1999年10月、JR高崎線桶川駅前(埼玉県桶川市)で、女子大生が元交際相手とその兄が雇った男によって殺害された『桶川ストーカー殺人事件』は、ストーカー被害の相談を警察官がずさんに扱った「警察不祥事」事件の側面もあります。その後警察はどう変わったのでしょうか。
目次
批判を浴びた警察の記者会見
1999年10月に発生した桶川ストーカー殺人事件について、日本テレビ系列「世界仰天ニュース」が2016年10月に流した事件当日の上尾警察署の記者会見の映像が大きな反響を呼び、事件から7年経過した事件にも拘わらず、上尾署に抗議の電話が殺到しました。
一人の女性(猪野詩織さん)が殺されたのにも拘らず、この記者会見に臨んだ上尾警察署刑事二課長の片桐敏男氏が笑顔で対応していることなどが、視聴者の怒りを買いました。
この記者会見こそ、上尾警察署の杜撰さとと自社意識の無さを浮き彫りにしたのではないでしょうか。
過剰報道
同時に番組では、メディアにより執拗な取材や警察発表を鵜呑みにしたデマの流布が、猪野詩織さんや遺族に対し、大きな二次被害を引き起こしたことや、猪野詩織さんが良心に書き残した遺言についても触れました。
上の動画では、マスコミ関係者は片桐敏男氏と一緒になって笑っています。被害者に対する配慮などまるでない事を証明しています。
動画での父親の悲痛とも思える叫びが全て物語っています。
今では同情的ですが、当時は被害者がむしろ世論に叩かれました。
大切な娘さんを殺され、警察は仕事しないどころか堂々と嘘をつきマスコミはメディアスクラム組んであることないこと書きたて…四面楚歌の中で清水さんの存在がどれだけご両親にとって助けになったことか。たった一人でもその存在は計り知れないほど大きい。
— りわ (@31meltemsunnyjm) October 12, 2016
#仰天ニュース
桶川ストーカー殺人事件の登場人物の整理
加害者
小松和夫(当時26歳)
猪野詩織さんとの別れ話の縺れから、詩織さんを脅迫。ストーカー行為を繰り返し、兄に殺人を持ちかけたとされる。「殺人事件」では立件されず、詩織さんに対する「名誉棄損」で指名手配された。その後行方不明となったが、北海道で自殺と思われる死体で発見された。
詩織さんには、名前を「誠」と名乗っていました。
小松武史(当時31歳)
ストーカー行為を繰り返した小松和夫の実兄。
風俗店経営。
桶川ストーカー殺人事件の首謀者と言われ、実行犯に金を渡したとされた。
一方で一貫して無罪を主張してきたが再審が認められなかった。
無期懲役で服役中。
久保田祥史
猪野詩織さんの脇腹と腹部を刺し殺害した実行犯。
元暴力団員。武史の経営する風俗店従業員。
その他実行犯として
見張り役の 伊藤嘉孝
運転手の 川上聡
が逮捕起訴され、実刑判決を受けています。
被害者
猪野詩織さん
再三再四に渡り、警察に小松和夫のストーカー行為の被害を訴えても受け入れてもらえず、21歳の短い生涯を閉じることになりました。
出典: http://dokonodare.blogspot.jp
ご両親
出典: http://blog.goo.ne.jp
警察
刑事二課長 片桐敏男(48)
元刑事二課係長 古田裕一 (54)
元巡査長 本田剛(40)
の三名が懲戒解雇となり、その後虚偽有印公文書作成・同行使の罪で起訴され、執行猶予付きの有罪判決を受けました。
片桐敏男刑事二課長
後に笑顔での会見が問題になります。
出典: https://twitter.com
後に刑事生活安全担当次長茂木邦英氏は、現場から上がってきたこの事件を一蹴し、対応した部下を左遷するなど、様々な疑念がもたれています。
清水潔氏の著作でもこの事件への対応でやり玉にあがり、また事件時の元部下に放火事件まで起こされました。
ジャーナリスト
清水潔氏
ジャーナリスト。当時はFOCUS編集部。現在は日本テレビ。
桶川ストーカー殺人事件における一連の警察発表に疑問を持ち、真犯人逮捕や一連の上尾警察署の不祥事発覚に繋げるスクープを行いました。この人がスクープしなければ、事件は隠蔽されたまま終わった可能性があります。著書『桶川ストーカー殺人事件 - 遺言』で顛末を記載。
出典: https://www.amazon.co.jp
鳥越俊太郎氏
清水潔氏のFOCUS記事に反応したのが、鳥越俊太郎氏司会のテレビ朝日「ザ・スクープ」でした。この番組で大きく桶川ストーカー殺人事件について取り上げられたことが、世論を喚起し、国会質問にもつながり、埼玉県警が調査チームを設置し、不祥事について認めさせることになりました。
出典: https://twitter.com
桶川ストーカー事件の経緯
この事件はたいへん複雑な事件です。
多くの登場人物がいるため、名前を覚えるだけでも大変です。
実行犯は猪野詩織さんと交際していた人物(小松和人)ではなく久保田祥史ら3人という被害者とは無関係の人物であり、その首謀者とされたのはその兄(小松武史)です。
小松武史は一貫して無罪を主張し、小松和人は「名誉棄損」での指名手配中に自殺します。
出会いから警察に届けるまで
99年1月…桶川市内のゲームセンターで被害者の猪野詩織さんが、小松和人に声をかけられ交際開始。
※容疑者は名前も偽り、池袋で兄(小松武史)と共同経営で風俗店経営も隠し、青年実業家を名乗った。
和人は交際まもなく高級ブランドのプレゼントを贈るようになる。
高額なプレゼントだったため、猪野詩織さんが受け取りを拒否すると、和人は詩織さんを怒鳴りつけ、教えられていない自宅にまで電話をかけてくるようになる。
99年3月…和人のマンションに遊びに行った際、室内に盗撮用のビデオカメラが隠されていた。
詩織さんが問いただすと、和人は顔スレスレに壁を何度も殴りつけるなど激怒。
それをきっかけに詩織さんは別れ話を持ち出すが、和人の脅迫に屈する。
同時期に仲の良い先輩に経緯を話し、「私が殺されたら犯人はこの人」と伝えている。
末には、別れ話に対し「風俗店で働かせる」とか「カネで動く人間はいくらでもいる」などと家
族に危害を加えるなどと脅迫。
99年6月…和人と武史ら三人が詩織さんの自宅に押しかけ、でっち上げた話で金銭を要求。
詩織さんの父親が毅然として追い返した。
翌日、その様子の録音テープを上尾署に持参し相談に訪れるが、対応した署員は「これは民事ギリギリ」などと、事件として対応することはなかった。
※その後も嫌がらせが続き、何度も警察署に相談に行くが「プレゼント貰ってるのに・・・」などと取り合わなかった。
「ダメダメ、これは事件にならないよ。そんなにプレゼントもらっておいて 別れたいと言ったら、普通怒るよ、男は。 いい思いしたんじゃないの? 男と女の問題に警察は立ち入れない」
脅迫はエスカレート。警察の対応は変わらず。
99年7月…詩織の自宅や学校、父親の勤務先に300枚もの事実無根の中傷ビラが撒かれる。
名誉毀損で告訴。しかし対応した署員は証拠として持参した中傷ビラを見て「いい紙を使ってますね」とか、「娘さんの試験が終わってからでいいのでは?」などといい加減な対応に終始する。
99年8月…再び父親の勤務先に800枚もの誹謗中傷の手紙が届く。
「裁判になったら、時間もかかるし、 いろいろ嫌なことも話さなければいけない。辛い目に遭いますよ」 「へぇ、一浪したんだ。 いま試験中でしょ?試験が終わってから来たら?」
上尾警察署による書類改ざん
99年9月…上尾署職員が詩織さん宅に訪れ、詩織さんの母親に「告訴は犯人が捕まってからでも簡単に出すことができます」と嘘をつき、告訴の取り下げを要請する。
母親は断ったが、上尾署では告訴を被害届に改ざん。
その後も深夜に大音量の音楽を鳴らした車2台が詩織さん宅に来るなどの嫌がらせ。
最悪な結末
99年10月26日正午過ぎ…「和夫の兄武史の依頼を受けた」実行犯の久保田祥史ら3人が現場に向かい、埼玉県桶川市の桶川マイン付近で自転車を降りた詩織さんに久保田は持っていた刃物で詩織さんの右脇腹と左胸部を刺して逃亡。詩織さんは病院に運ばれたが死亡。
同日夜…上尾警察署の担当署員片桐敏男刑事二課長らによる記者会見が行われる。
桶川マイン
出典: http://d.hatena.ne.jp
狼狽する殺人事件実行犯
武史から実行犯への本当の指示は殺人ではなく、傷つけることだったようです。
久保田は「二回も刺してしまった。もうだめなのではないか」などと狼狽していたと言われていますので、殺すつもりは無かったが、抵抗されたのかどうかは不明ながら、焦って上半身を刺してしまったことがわかります。
桶川ストーカー事件後の警察発表とマスコミ
殺人事件であるのに関わらず、上尾警察署の担当課長らが笑いながらの記者会見を行った時、当時はそれを問題視するマスコミはいませんでした。
それどころか、警察が発表したデマをそのまま報じ、憶測でのコメントや記事なども流布し、被害者と遺族は二次被害に陥ります。
以下、「増刊大衆」の記事を抜粋したい。 「人が殺されているにもかかわらず、笑顔の一課長代理。 しかし、ストーカーとの関連性を質問されると一変して表情を強張らせ、 わからないと繰り返した。 その一方、遺留品については、『バックはプラダ』『時計はグッチ』 『厚底ブーツにミニスカート』と、不要な情報を詳しく説明。 暗に”派手な女子大生”という印象を記者団に植えつけた。 さらに警察は、後日、彼女が水商売で働いていたと、事件と無関係の情報を マスコミにリークする。 実は事件の1年ほど前、Sさんは友人のつき合いで2週間だけスナックでアルバイトをしていた。 だが、やはり無理だと、バイト代ももらわずに辞めている。 しかし、これらの情報により、テレビや雑誌は彼女のことを ”ブランド好き” “キャバクラ嬢” ”風俗嬢”などと書き立てた。 捜査本部が置かれた上尾署による犯人探しも、まったくの無気力捜査だった。 Kがストーカー殺人だったこともわかっており、実行犯の目撃証言もあるのに なかなか動かない。 犯人を突き止めたのは、写真週刊誌『フォーカス』の記者だった。 彼は独自に聞き込みを重ねて情報を集め、実行犯と、その居場所を突き止めたのだ。 記者は、そのことを警察に伝えたが、それでも警察は捜査せず。 結局、フォーカス誌のスクープ記事が出たことで初めて警察は動き、 犯人の逮捕に至った。
当時のFOCUS掲載写真
出典: https://ddnavi.com
清水潔氏の取材
『フォーカス』の記者だった清水潔氏は、恣意的な警察発表に疑問を持ち独自に取材を行います。
詩織さんの友人に信用され、遺言の存在から小松和夫を見つけ、その背後関係から、
真犯人の居場所を突き止め、警察に写真を提供、実行犯と首謀者の兄小松武史の逮捕に繋げました。
さらに上尾警察署の不祥事も暴き、その名前をとどろかせました。
ワイドショーや週刊誌が被害者の私生活を論う方向へ傾いた一方、違った切り口から事件を報じ続けたのが写真週刊誌『FOCUS』であった。本事件の担当記者であった清水潔は、事件の犯人像を取材する中で被害者の友人から証言を得ることに成功し、被害者がAとそのグループから受けた苛烈なストーカー被害の実態と、被害を訴えられた警察が不誠実な対応に終始していたことを知った。事件後最初に発売された『FOCUS』には「ストーカーに狙われた美人女子大生の『遺言』」、「親友に託した犯人名」という題のもと、証言を元にしてAの存在と被害者が受けたストーカー被害の実態を掲載。さらに第2回記事では独自調査に基づき「『裏風俗、当り屋、偽刑事』女子大生刺殺事件キーマンの顔」として、Aの実像についてを特集した。 さらに清水は嫌がらせ行為の実行グループがAの風俗店関係者と掴んだことから、被害者を殺害した実行犯も同類だったのではないかと推理し、独自にその割り出しを進めると、すぐに刺殺犯Cの存在が浮かび上がった。12月6日にはCとDの姿を撮影することに成功、清水は記者クラブに加盟していた協力者を通じてその写真を警察に提供し、12月19日にはCの身柄が警察により確保された。逮捕の正式発表は20日になってからで、発表前に校了を終えていた、翌21日発売の『FOCUS』新年号に掲載された「桶川『美人女子大生刺殺』本誌が掴んだ実行犯全記録 追い詰められたストーカー男」という特集は、他のマスコミを完全に出し抜いたスクープ記事となった。さらに殺人に関わったD、E、Bも相次いで逮捕され、年明けにはこれらの人物についての特集が『FOCUS』に掲載された。 なお、取材活動の過程で清水は、被害者を貶めるマスコミへの不信感から、取材を拒むようになっていた両親との接触にも成功していた。そこで『FOCUS』が犯行グループの一味とみて「偽刑事」と見出しを打った、被害者へ告訴取り下げを求めてきた男が本物の上尾署員であったことを知り、この証言はメディアの追及が警察捜査の内容へ移ったときに活かされることになった。清水を両親に引き合わせたのは清水が先に取材した被害者の友人女性であり、女性は取材を通じて清水が信頼できる人物であると感じ、両親に「会ってみたらどうか」と推薦したのだった。のちに両親が捜査本部の刑事に対し「なぜ週刊誌の方が先に犯人に辿り着けたのか。警察はちゃんと捜査をしていたのですか」と詰問すると、これに対して刑事は「あいつらはやり方が汚いんです。金ですよ金。金をじゃんじゃんばら撒いて情報を集めるんです。我々は公務員だからそれはできないんですよ」と弁解したという。これを伝え聞いた清水は「彼らの捜査がなぜダメなのか分かった気がした。金で何とかなると考えているのなら(A)と同レベルではないか。我々は自分の足で歩き廻り、調べ、情報提供者を大切にしてきただけだ。それは、一昔前の警察の手法と同じだ。逆に言えば、それだけ今の刑事達は変わってしまったということなのだろうか」と感想を述べている。
Aは和夫、Bは武史、Cは久保田
ストーカー小松和夫の自殺
実行犯や首謀者とされる兄が逮捕されましたが、ストーカーを行っていた小松和夫は殺人事件では被疑者とはなりませんでした。しかしストーカー行為については、一緒に行った13名とともに「名誉棄損」として指名手配されていました。
和夫は2,000万円を持ち、行方をくらましていましたが、屈斜路湖で遺体で発見されました。遺書もあり、自殺と考えられています。
遺書は自身の両親宛で保険会社から死亡保険金を受け取る旨が書かれ、被害女性やその家族に対する反省、謝罪の言葉は書かれていませんでした。
これについても武史が「和夫が自殺する可能性」を警察に伝えていたのに、捜査官は取り合わなかったと言われています。
一方で、和夫をかくまっていた人と和夫との間に何かしらのトラブルがあったのではという説もあります。今となっては真相は闇の中です。
屈斜路湖
出典: http://puinet.exblog.jp
警察関係者の処分
上尾警察署
桶川ストーカー殺人事件での一連の不祥事で信用を大きく落としました。
出典: https://ja.wikipedia.org
2000年4月6日付で埼玉県警の調査結果である「埼玉県桶川市に於ける女子大生殺人事件をめぐる調査報告書」が発表されました。
告訴状について「告訴」という部分を「届出」などに改竄していたこと
証拠品の取り扱いについて虚偽の報告書を作成していたこと
を正式に認め、「虚偽公文書作成」の罪にあたるとしました。
同日に行われた記者会見で西村浩司県警本部長は「仮に名誉毀損事件の捜査が全うされていれば、このような結果は避けられた可能性もあると考えると、痛恨の極み」と発言、遺族宅に赴き謝罪しました。
懲戒解雇
刑事二課長 片桐敏男(48)
元刑事二課係長 古田裕一 (54)
元巡査長 本田剛(40)
刑事生活安全担当次長 茂木邦英 (48) 減給10%(4ヶ月)
刑事部長横内泉 (40)減給5%(1ヶ月)
上尾署長 渡部兼光 (55)減給10%(2ヶ月)
上尾署刑事生活安全担当次長 山田効(46)減給10%(1ヶ月)他
埼玉県警本部長 西村浩司 減給10%・1カ月
県警本部刑事部長 横内泉 減給5%・1カ月
片桐敏男氏は冒頭の記者会見では笑いながら応対しました。
桶川市ストーカー殺人事件被害者遺族の民事訴訟
2000年10月26日、被害者の命日に遺族が小松武史ら犯行グループ計17人に対し、1億1000万円の損害賠償を求め提訴し、勝訴となりました。
判決で「自殺した小松和夫と事件の関わりについて「交際を絶たれて逆恨みし、被害者の殺害を計画してもおかしくない十分な動機があった。和夫の指示があったと考えるのが合理的」と指摘し、和夫を事件の首謀者と認定しました。
また2000年12月22日、遺族が埼玉県(埼玉県警)に対して国家賠償請求訴訟を起こしますが、捜査の不誠実な対応は認めたものの、ストーカーと殺人の因果関係を否定する判決を出し、2006年8月30日の最高裁で確定しました。
「支援する会」も結成され、署名活動なども行われました。
一方で、桶川市の近隣住民から「娘で商売している」などと陰口が入ってくることに、両親は心を痛めました。
国を相手にした民事訴訟の時の記者会見
出典: http://okegawa-support.la.coocan.jp
桶川ストーカー殺人事件実行犯の裁判
民事訴訟では和夫が首謀者とされましたが、刑事訴訟では兄の武史が首謀者とされる矛盾が生じていました。
久保田は逮捕直後から武史の名前を挙げ「首謀者」と言っていましたが、一説には「個人的に武史を恨んでいた」から、あえて名前を出したとされています。
二審から久保田は証言を覆し、武史の冤罪を主張しました。
武史も一貫して無罪を主張し、分離裁判となりましたが、裁判所は検察の主張を支持し、被告の主張を却下。2006年に無期懲役の刑が確定しました。
真実は闇のままです。
桶川ストーカー殺人事件刑事らの刑事訴訟
片桐敏男氏含む3名に対し、執行猶予付きの有罪判決が言い渡されました。
ストーカー被害に対する杜撰な対応が殺人事件という最悪な事態を招いたことを指摘しています。
被告人が同事件を所管する刑事第二課長として率先して同事件に取り組み上司と相談して捜査態勢を組み部下らを指揮して犯人逮捕に迅速な捜査を行っていれば、おそらくは(被害者)殺害という事態は起こらなかったと思われるのであり、取り返しのつかない結果を招いた同被告人の職務懈怠は誠に遺憾というほかない。同被告人は(被害者)殺害事件発生後内外の厳しい非難にさらされたのであるが、これは当然の報いというべきである。その職責をはたさずかかる事態を招いた同被告人としては、自己保身に走らず、自己らに対する右非難を甘受し、このことによる将来あるであろう不利益処分も恬淡として受け入れる心境になるべきだったのである。しかし同被告人は姑息にも(中略)捜査書類の捏造改竄を行い自己保身をしようとしたのであって、見苦しい限りである。
警察OBのコメント
警察OBの作家北芝健氏は週刊大衆で、桶川ストーカー殺人事件に対する、警察の処分について以下の通りコメントしています。
「こんなのトカゲのしっぽ切りです。 所轄の幹部や県警の上層部は減給か戒告だけなのは、おかしいでしょ。 これは組織的な隠蔽工作ですよ。 それによって殺人まで起きているのに、 使用者責任が曖昧なものに終わった。 それこそが、この事件の未解決な部分なんです」
北芝健氏
犯罪学者・作家・テレビ番組のコメンテーター等多方面で活躍。
出典: https://twitter.com
桶川ストーカー殺人事件担当刑事らの事件
桶川ストーカー殺人事件の関係者が「副次的」な事件を起こしました。
刑事生活安全担当次長だった茂木邦英氏の家が何者かによって放火されました。
犯人は、桶川ストーカー殺人事件で、対応した刑事でした。
この刑事は、詩織さんの話に熱心に耳を傾け「これは犯罪です」とまで言っていたようです。
告訴を受理してそれを上司の茂木邦英氏のもとに持って行ったようです。
しかしその報告を受けた茂木氏は、 「犯人が特定されていないのだから、何も告訴状を取らなくとも、被害届で操作すればよかったんじゃないのか」と 「ひどく怒った口調で」事件記録を机の上に放り投げるように置いたとのことです。 その茂木次長に告訴状を突き返された署員は、狩野家を訪れて告訴の取り下げを切り出し、それを断られるや調書の改ざんに走ったのだ。
茂木次長のせいで左遷されたと恨み、上尾署内で「あの野郎ぶっ殺してやる」
と怒鳴っていたそうです。
判決文には
「茂木次長が成績のことばかり話し、肝心の今まさに動いており、しかも詩織らが不安に脅えている名誉棄損事件の捜査をどのような態勢で進めるかなどについては、まったく話題にしないことから、茂木次長も真剣に名誉棄損事件に取り組む気がなく、茂木次長の頭にあるのは成績のことばかりだと思い、腹立たしく思うとともに幻滅した・・・」
桶川ストーカー殺人事件―遺言
ひとりの週刊誌記者が、殺人犯を捜し当て、警察の腐敗を暴いた……。埼玉県の桶川駅前で白昼起こった女子大生猪野詩織さん殺害事件。彼女の悲痛な「遺言」は、迷宮入りが囁かれる中、警察とマスコミにより歪められるかに見えた。だがその遺言を信じ、執念の取材を続けた記者が辿り着いた意外な事件の深層、警察の闇とは。「記者の教科書」と絶賛された、事件ノンフィクションの金字塔!(AMAZONより)
出典: https://www.amazon.co.jp
茂木氏は、警視に出世し、2011年に異動先の深谷警察署で別人の死体引き渡し事件が起きる不祥事などありましたが、現在は退官しています。
桶川ストーカー殺人事件に関する上尾署の不祥事
上尾警察署はこの桶川事件で複数の不祥事を起こしています。
・週刊誌記者が犯人を特定
・小松和人に自殺される
・書類改ざん
・国会で追及される
・遺族に国家賠償請求訴訟を起こされて敗訴
さらに
・左遷された刑事が事件当時の上尾署員を脅迫
・同じ刑事が当時の上尾署刑事生活安全担当次長であった埼玉県警警視の自宅を放火
・逮捕、服役中に自殺
・容疑者への対処に不信感を表明した刑事も自殺
と、埼玉県警の組織として機能不全に陥っていることを露呈しました。
ストーカー規制法
2000年11月、桶川ストーカー殺人事件がきっかけとなり、「ストーカー行為等の規制等に関する法律」いわゆる「ストーカー規制法」が施行されました。
出典: http://progress-ikebukuro.com
ストーカー行為を、特定の人に対しする恋愛や好意の感情、あるいはそれが拒絶された場合の怨みを晴らす目的で、被害者や家族らに対して「つきまとい等」を反復することと定義しています。具体的には、恋愛感情等の目的で、(1)つきまといや待ち伏せ、(2)監視していると告げること、(3)面会、交際の要求、(4)著しく乱暴な言動、(5)無言電話や連続メールなど、(6)汚物などの送付、(7)名誉を害することを告げること、(8)性的嫌がらせなどの行為を2回以上繰り返すと規制の対象となります(第2条)。
では、法律は、現実に被害者をどのように守ってくれるのでしょうか。 まず、被害者が最寄の警察署に行って被害を訴え、援助を要請すると、警察は必要な支援を行ってくれます(第7条)。 また、警察署長がストーカーに対して「ストーカー行為を止めなさい」と「警告」を発してくれます(第4条)。この「警告」でストーカー行為が終われば、刑事事件にはなりません。しかし、「警告」が出されたにもかかわらずストーカー行為が続くようなら、公安委員会が、ストーカーから直接事情を聴いて、ストーカー行為を止めるよう「禁止命令」を出し(第5条)、この「禁止命令」が無視されたならば、警察が被害者からの告訴を受けて刑事事件として初めて捜査を開始します。裁判で有罪となれば、1年以下の懲役または100万円以下の罰金です(第14条)。 ストーキングの被害救済に急を要すると判断される場合は、相手に弁明の機会を与えなくても、ストーカー行為を止めるよう「仮の命令」を出すことも可能です(第6条)。 このようなルートとは別に、被害者が警察に「ストーカーを処罰してほしい」と直接告訴すれば、警察が、「警告」や「禁止命令」ではなく直ちに捜査に入ることもできます。この場合は、裁判で有罪になれば、6月以下の懲役または50万円以下の罰金となっています(第13条)。
その後のストーカー事件
法律が施行され、検挙が増え、被害者が被害を訴えやすくなった一方で、その後も悲惨なストーカー事件は起こりました。
2011年12月16日、長崎県西海市で別れ話がきっかけのストーカー行為により、警察によって引き離されたことに腹を立てた男が、家族を度々脅迫した挙句、家に忍び込み女性の祖母と母親を殺害した「長崎ストーカー殺人事件」
2012年9月20日、京都市で同志社女子大学職員の59歳の男が同僚の元不倫相手の女性をストーカーし、仲裁に入った同大学職員の36歳男性を刺殺した「同志社女子大ストーカー殺人事件」
2012年11月6日、神奈川県逗子市のアパート1階居間で当時33歳のフリーデザイナーの女性が刃物で刺殺され、犯人の東京都在住の元交際相手の当時40歳の男性が同じアパートの2階の出窓にひもをかけ、首吊り自殺した「逗子ストーカー殺人事件」
2013年10月8日、東京都三鷹市でトラック運転手の男が、元交際相手の女子高生にストーカー行為を繰り返したのち刺殺。性行為の動画をサイトにUPする、いわゆる「リベンジポルノ」が社会問題となり、関連法案が成立するきっかけとなった「三鷹ストーカー殺人事件」
2014年2月19日、群馬県館林市で39歳男性が元交際相手の26歳女性にストーカー行為を繰り返したのち射殺した「館林ストーカー殺人事件」
2016年5月21日、東京都小金井市のライブハウスで、アイドルのファンの男がアイドルをナイフで刺し重傷を負わせた「小金井ストーカー殺人未遂事件」も記憶に新しいです。
上尾署(埼玉県警)のその後
度重なる不祥事に対する批判に対し、警察は変わったのでしょうか。
桶川ストーカー殺人事件の全容が明らかになると、上尾警察署の名前が全国区となり、批判に晒されました。国会でも取り上げられ、担当者は処分、起訴されました。
しかし、隠蔽を指揮した茂木次長や、上司たちは現場に責任を押し付け、結局はトカゲのしっぽ切りで軽い処分で免れたことは否めません。茂木次長宅放火事件への対応を批判した署員も自殺するなど闇も深く、現場で頑張る警察官はいても、署を管轄する埼玉県警の体質は簡単には変わることはできませんでした。
深谷市議選選挙違反冤罪事件
埼玉県警が有権者に「虚偽証言強要」する不祥事がありました。
2011年5月、埼玉県深谷市議選で二十数人を飲食接待したとして、市議が公職選挙法違反(供応買収)容疑で埼玉県警に逮捕される事件があり、その逮捕に際し、埼玉県警の取り調べを受けた支持者らが「うその供述」を強要されていたことが発覚し、結果「冤罪」が確定したという事件です。
熊谷事件
2015年9月14日及び16日に埼玉県熊谷市で連続殺人事件が発生しました。
事件前日の13日に、警察署で住宅の敷地に入り込んだペルー人の男から、任意の事情聴取しており、通訳の手配準備中、男が「たばこを吸いたい」と求め、玄関先に連れて行った所、隙をみて財布などを警察署に残したまま闘争。その直後に住居侵入の通報が2件相次ぎ、警察は行方を探しましたが発見できませんでした。
翌14日、最初の夫婦殺害事件が発生。更に16日には、住居侵入があった付近の住宅で84歳の女性、さらにすぐ近くの住宅で母親と小学生の姉妹の親子3人が殺害されているのが見つかりました。
いずれの住宅も、遺体発見の際には玄関などの鍵が開いており、住居侵入の情報が住民に伝わってれば防げたのでは、
住民たちは、事情を聞いていた男が捜査員のミス逃げ出したこと。そしてその男が絡んでいる住居侵入が相次いでいた、つまり住居侵入の危険性の情報が提供されていれば、戸締まりも厳重になり、せめて第2、第3の事件は防げたのではないかと指摘されました。
さらに最初の殺人事件が発生したときに、この男が犯人と特定し80名の捜査員が動いていたのに関わらず、住居侵入の件との関連で捜査されていないという、警察内の連携についても問題視されました。
「遺体取り違え」事件
2011年に桶川ストーカー殺人事件にも関わった茂木氏の異動先の深谷警察署で不祥事が起こりました。
安置していた遺体を葬儀業者を通じて遺族に引き渡す際、誤って別人の遺体を渡してしまったミスです。
同様の事件が2014年に所沢警察署でも起こりました。
結局は他人の命より自分の出世
桶川やこれらの事件における警察の対応から浮かび上がる共通点は、「人命」に対する意識が低いのではということです。
私たちは市民の安全を守るのが警察だと思い、警察官に対しても敬意を持っています。
しかし、埼玉県警の中には、市民の安全よりも、自分の出世を優先させる人が多いのではと、だから成績を大事にし、人が死んでも笑顔でいられて、告訴を取り下げさせようとして、自白を強要し、無銭の犯罪者を逃がしても注意喚起せず、遺体を取り違える。
その体質が改められない限り、何名の警察官を処分しようが、優秀な上司が来ようが、解決せず、同じような問題を繰り返すことになるのではと危惧します。
警察の名前を傷つける事件が連発しましたが、警察の威信よりも自分の威信を大事にする人によって引き起こされるのではないでしょうか。