2021年10月05日公開
2021年10月05日更新
なぜ「日本は終わってる」と言われるのか?
テレビや雑誌で「日本スゴイ」が喧伝される中、国民の中から「日本終わってる」や「日本終わった」という悲観的な声も聞かれます。なぜ「終わってる」「終わった」と言われるのでしょうか。人は日本の何に悲観しているのか検証していきたいと思います。
目次
今の生活に「満足」、過去最高の73.9% 内閣府調査
今年8月に、内閣府のある調査が、ネット上で物議を醸しました。
内閣府は26日、国民生活に関する世論調査の結果を公表した。現在の生活に「満足」とした人は、前年より3・8ポイント増え73・9%と過去最高になった。
この新聞記事に対し、SNSは賛否両論で溢れました。
この記事に関しては、調査結果に否定的な意見が多く、肯定的意見を探すのが難しい状況でした。
あの悪名高い内閣府が、誰も実感ができない大本営発表を。
生活に満足、最高の74%をって誰が信じられるのだろう。
どうせ数字を操作するなら、もう少し国民が賛同を得られるものにしたらどうなのか。
↓https://t.co/7xwJVhfv38
— 数学 M (@rappresagliamth) August 28, 2017
<アンケート 今の生活に満足ですか?>
— LOUD MINORITY. (@LoudminorityJP) August 26, 2017
内閣府が26日公表した「国民生活に関する世論調査」では、現在の生活に「満足」「まあ満足」と答えた人は合わせて約74%で、1963年以来最高だったそうです。そこで改めて実体調査させて下さい。
あなたは今の生活に満足ですか?
年収1億でも不満の人はいる。年収が少なくても満足の人もいる。私の場合、生きてるだけでラッキーの気持ちだから満足だよ。まあ、欲しい物あげたらきりないけどね。~今の生活に「満足」、過去最高の73.9% 内閣府調査:朝日新聞デジタル https://t.co/4EXM105SuY
— ためのぶ津軽人 (@Tamenobu1968) August 28, 2017
調査結果の真偽の議論はさておき、内閣府発表では73・9%の国民が生活に満足しています。
株価も上昇を続け、新卒の有効求人倍率が上がり、景気が上向きのようです。
一方で、筆者を含め多くの人が、Twitterの関連記事を読む限りは、その実感がないのが現状のようです。
巷に溢れる「日本スゴイ」
経産省が進める日本文化を海外に広めようという「クールジャパン」戦略とは明らかに別の文脈で、2015年くらいから書籍やテレビ番組で「日本礼賛」ものが激増しました。伝統文化、アニメ、J-POP、工業技術、AI、日本人などについて、外国人に絶賛させたり、外国と比べどれだけ優れているのかなどを、「日本人に向けて」紹介するものが増えました。
もちろん、それらは需要があるから作られるようで、「日本スゴイ」番組は高視聴率、書籍の売上も良いようです。
出典: http://blog.livedoor.jp
日本スゴイ本
2016年頃から書店でコーナーができるようになりました。
出典: http://honkan.jp
日本スゴイ番組
外国人に日本を語らせる番組はどれも高視聴率です。
世界から見る日本ランキング
出典: http://www.study-style.com
日本はどれくらいスゴイのでしょうか。
幾つかの面から見てみたいと思います。
国際競争力「IMD」・・・・・・・・・・ 26位 (2017年)
国際競争力「世界経済フォーラム」・・・ 9位 (2017年)
人口「WHO」 ・・・・・・・・・・ 11位 (2016年)
高齢者人口比率・・・・・・・・・・・・ 1位 (2016年)
平均寿命「厚生労働省」・・・・・・・・ 2位 (2016年)
男女平等ランキング「国際経済F」・・・111位 (2017年)
給与の高さ・・・・・・・・・・・・・・18位 (2015年)
有給休暇消化率「EXPEDIA」・ 28か国中最下位 (2016年)
実質成長率「IMF」・・・・・・・・・・154位 (2016年)
名目GDP「IMF」・・・・・・・・・・・ 3位 (2016年)
一人当たり名目GDP「IMF」・・・・・・ 22位 (2016年)
幸福度「国連」・・・・・・・・・・・・51位 (2017年)
住みやすいランキング「OECD」・・・・・20位 (2016年)
輸出自動車台数「外務省」・・・・・・・ 3位 (2015年)
国家ブランド指数Anholt-GfK・・・・・・ 7位 (2016年)
産業ロボットの稼働台数「JARA」・・・・ 1位 (2015年)
AIランキングHackerRank・・・・・・・・ 1位 (2016年)
軍事力 「Global Firepower」・ 7位 (2017年)
世界大学「Times Higher Education」・・ 東大39→49位(2017→18)など下落傾向
報道の自由度「国境なき記者団」・・・・72位 (2017年)
FIFAサッカーランキング・・・・・・・・44位(2017年10月)
野球ランキング・・・・・・・・・・・・1位 (2016年)
空気がきれいランキング「WHO」・・・・13位 (2015年)
腐敗認識「TI」・・・・・・・・・・・・15位 (2017年)
民主化度「WGI」 ・・・・・・・・・・・45位 (2017年)
「モノづくりの国際競争力」は強いけど「権利」は弱い
客観性に信頼できるデータに絞ってみました。
低いのは「有給消化率」「GDP実質成長率」「男女平等」「報道の自由」「民主化度」。
はっきり言えるのは「権利」という部分が世界から見て遅れていることがわかります。
自分たちで民主主義を勝ち取った経験が無いという背景があるでしょう。
逆に「ハイテク」「国際競争力」「ブランド力」などは強い。
かつては経済大国を自認していたのは、決して幻想ではないとわかります。
軍事力は思うより強いけど、少子高齢化が世界から見ても深刻なこともわかります。
成長率は低いし、人口は減っているけど、それでも上位であることは間違いありません。
全体的には「日本スゴイ」とも言えないけど「もう日本終わってる」というレベルでもないように思えます。
恐らく、「愛国心」や政府や社会や生活への不平不満は、どの国でも少なからずあるはずです。
でも何故、日本では「自画自賛」したり、「悲観的」な言説が吹き上がるのでしょうか。
その原因を探ってみたいと思います。
「日本終わってる」と言われる時
出典: https://www.cinematoday.jp
日本をネガティヴな側面から見ていきましょう。
どのような場面で「もう終わってる」というように思われるのでしょうか。
Twitter、Facebook、各種掲示板を無作為に検索し、2017年の書き込みから傾向をつかみましょう。
※できる限り多くの関連意見を集めています。意図的に特定のコメントを集めてはいません。
ここではあえてネット用語は使用しません。
政治面での「終わってる」
選挙 関連(与党圧勝とか、○○議員が当選したとか、投票率が低い事、「得票数が不正」など)
政局 関連(政権の「受け皿」、対抗馬がいない、与野党共にダメ、野党自滅、野合など)
政治家関連(失言、差別、不倫、性暴力、気遣いのなさ、「頭の悪」さ、無知など)
首相 関連(資質、お友達優遇、アベノミクス、無知、強い相手への態度、マナーなど)
野党 関連(政権担当能力、ブーメラン、国籍、外国人参政権、対案、公安にマークなど)
モリカケ (臨時国会無視、国防よりモリカケの野党、内閣人事局、官僚の隠蔽など)
政策 関連(原発関連、カジノ、国防関連、沖縄関連、「悪法」各種、消費税、対案が無いなど)
運営 関連(強行採決、臨時国会無視、民進党批判、「審議止めろ」)
外交 関連(領土問題、対米対中対韓関連、税金ばらまき、対米追随など)
民度 関連(ポピュリスト政治家への高い支持、政治への無関心など)
マスコミ (特定政治家の取り上げ方、偏向報道、忖度、モリカケに偏重、不倫偏重、「レイプ」報道、東京新聞記者と菅官房長官関連)
その他 (膨らむ国の借金など)
よくよく考えると「政治がくだらない」って、国家として終わってる。多額の税金の使いみちや国家の行方を「くだらないところ」で決めてるって、それ一刻も早く選挙で人員入れ替えしなきゃならない状態。むしろ何を置いてでも選挙に行く必要がある。こういうの国難っていうんじゃないのかね。
— 毛ば部とる子 (@kaori_sakai) October 12, 2017
経済面での「終わってる」
GDP 関連 (低成長率、実質成長率など)
政策 関連 (消費税、アベノミクス関連、TPP、日銀の介入、残業ゼロを連合賛成など)
企業 関連 (不正、倒産、内部留保、低賃金、非正規雇用、外資に買収、ブラック企業など)
製品 関連 (世界ではアジア諸国に家電製品でシェア取られているなど競争力関連)
国民 関連 (実質賃金の落ち込み、消費低下など)
消費 関連 (不動産販売、自動車販売落ち込みなど)
学者 関連 (リフレ、100円節約呼びかけ、新自由主義など)
外的要因 (中国経済の衰退、トランプ政権など)
本当やべえな
2月に住宅着工止まって-4.5%とか不動産終わってる
車も売れてない
消費はずっと落ち込んでる
アベノミクスなんて誰も言わなくなってるし日本経済終わった
↓https://t.co/0upfdni3l1
確かに
もはや死語(嘲笑)
— 数学 M (@rappresagliamth) May 2, 2017
社会面での「終わってる」
意識 関連(結婚、衣服、セクハラの認識、経済偏重、心の豊かさ、年配者敬わないなど)
少子高齢化(出生数、保育園落ちた、介護など)
分断 関連 (格差、年代、男女、差別、多様性、ポリコレ疲れ、いじめなど)
犯罪 関連(犯罪者の意識、性犯罪が横行、TBS記者もみ消しなど)
教育 関連(2人に1人が奨学金、塾が必須、教育勅語、新聞読めない、体罰など)
労働 関連(有給消化率、残業、ブラック企業、病気でも出社、台風でも出社、過労死など)
風紀 関連(不倫など)
環境 関連(異常気象、原発・放射能関連)
3人目とかになると、おめでとうとかじゃなくて、経済的生活的に大丈夫なのかよ!!ってなるあたり、日本は終わってる
— メイメインコ∮ユーフォニウム (@yanta110) May 18, 2017
スポーツ面での「終わってる」
スポーツ人口の減少
地上波での中継が無い
日本代表に華が無い
でも今後どんどん子ども少なくなっていく予測だし、私の考えとか今までの当たり前が日に日に古くなっていくんだろうなー
— ななん (@hk_ia_rs) September 9, 2017
それに高校サッカーとか高校野球とかのレベル下がったりして結果プロのレベル下がることに繋がるのでは!?とかいろいろ考え出すとほんと日本終わってる
文化面での「終わってる」
子供の夢でユーチューバーが上位
ガチ恋って文化がある
健康で文化的な生活を許さない
JKまでFGOやってた
性的描写したアニメが小学生対象
首相や知事が日本語の意味を知らない。使い方を間違う。
ガチ恋って文化があるのがもう日本終わってると思う
— BH (@wata84341018) April 11, 2017
著名人の日本終わってる
日本終わってるという言葉を使った著名人の発言を見ていきましょう
出典: http://blogos.com
堀江貴文
実業家、著作家、投資家、タレント。愛称はホリエモン。
元ライブドアCEO。
本音を言えば、日本という国は終わっている。残念ながら希望はない。 だが、日本人はそれを自ら選択しているのだ。日本人は「日本は世界の中では、まだ上のほうだ」と思っている人が多いだろう。そして、中国人をバカにしている人も多いはずだ。しかし、それは間違っている。今や立場は完全に逆転しているのだ。 中国の人は、多くの大企業に未来がないことを理解しつつ、それでも大企業志向を強め、沈みゆく船にしがみついている日本人とは違う。 日本のように「多少のリスクですら取らないほうがいい」というゼロリスク症候群もなく、長いものには巻かれよという考え方もない。 中国の人は上を向いて、上を目指して歩いている。しかし、日本人は下を向いて歩いている。これでは、「日本は今後良くなることはない」といっても過言ではない。 だからこそ「井の中の蛙(かわず)大海を知らず」という状況にならないように世界に出て、その視野を広げたほうがいいのだ。
出典: http://office-kitano.co.jp
ビートたけし
お笑いタレント、俳優、映画監督。本名:北野 武。東京都足立区島根出身。オフィス北野所属。
タモリ、明石家さんまと共に、日本のお笑いBIG3の一角を担う。
この1か月は石原真理子がスーパーで万引きしたり、ローラが奴隷契約だとか、美人局グラドルだとか、頭おかしいよ。 日本は終わってるな。ローマ帝国が滅亡したのと同じだね。 (略) 籠池夫婦が詐欺容疑で逮捕って、かわいそうだな。この人たち、トカゲの尻尾切りじゃん。 腐ってるよな。安倍総理夫婦はどうなってるんだよ。 女子マラソン元日本代表の原裕美子が万引きで逮捕って、走って逃げちゃえばいいじゃないか。
出典: http://www.business-plus.net
宮台真司
社会学者、映画批評家。学位は社会学博士(東京大学・1990年)。首都大学東京教授。
はっきり言えば、日本は最低の社会になっているわけです。たとえ経済が回っていても、人は幸せではない。経済が良くても幸せにならない社会なのだから、今のように経済が悪くなればもう、どん底です。 宮台真司 著作●→「経済さえ回復すれば大丈夫、経済さえ回っていればなんとかなる」という、日本だけのアホな発想は、世界レベルで見ればもう完全に「アウト」。グローバルに見て「とっくに終わってる」考え方です。 宮台真司 著作●→「社会を回す」ということの本質は、職を失ったり、離婚をしたり、あるいはちょっとした罪を犯すなどといった失敗程度では、けっして路頭に迷わずにすむような社会にしていくことでもあるのです。
「日本終わった」と言われる時
出典: https://bokete.jp
もう「日本終わった」というのは、「終わってる」を超えて、失望と諦めに入っている部分です。
どのようなことが、「終わった」とされるのでしょうか。
※できる限り多くの関連意見を集めています。意図的に特定のコメントを集めてはいません。
ここではあえてネット用語は使用しません。
政治面での「終わった」
選挙 関連(選挙結果、投票率の低さ、秋葉原の街頭演説の風景)
政局 関連(新党への飽き、国会が開かれないことなど)
政治家関連(庶民とのかい離、失言、不倫、女体盛り事件、妊娠議員に「職場放棄か」という議員のいる風潮、下品な政治家、上西小百合の炎上tweetの反応など)
首相 関連(選挙のために「国難」と使ったこと。政治の私物化。「嘘」)
野党 関連(民進党代表選挙の顔ぶれ)
モリカケ (「記憶にございません」、官僚の隠蔽、隠蔽した官僚の出世など)
政策 関連(共謀罪成立、原発再稼働など)
運営 関連(強行採決)
外交 関連(オスプレイ関連)
民度 関連(低投票率、成人の政治への無関心、ミサイルで大騒ぎ)
カップ麺の値段が400円くらいだと思ってた麻生、主婦のパート代が月25万円くらいだと思ってた安倍、カネのかかる大学に入学し、学割でシルバーパスの代わりにすればいいと言い放つ小池。庶民の暮らしの実態にあまりに無知・無関心な政治屋は、久遠の彼方まで去ってしまえ。
— 秦映児 (@hataeiji) October 9, 2017
経済面での「終わった」
会社で副業が解禁された
オリンピック後の状況を想像すると
外資の参入
相次ぐ企業の不祥事
人工甘味料の製品の氾濫
日本終わったね。神戸製鋼改竄、豊洲不良不成工事、マンション強度偽装建設、防振ゴム偽装、排気ガス改竄、産地偽装298品目台湾で回収、原発非破壊検査で改竄、森友学園財務省嘘報告昇進、40歳教師小学生のスカート盗撮教師不祥事続出、政治家法律違反しても合憲、裁判官電力会社不利判決更迭・・
— 桑ちゃん (@namiekuwabara) October 8, 2017
社会面での「終わった」
子育てのし辛さ
少子化の理由が経済的理由であること
塚本幼稚園での園児の選手宣誓
新社会人を見て
礼儀のなっていない子供を見て
ネット情報を鵜呑みにする人の多さに対し
TBS記者のレイプ事件で被害者がバッシングを受けていることについて
小田原市職員の生活保護バッシングについて
鹿島市議の小学女児強姦と買春疑い
「障害者は社会のお荷物」と平気で言える世の中に対し
14歳の女の子が「肉便器」という単語を使っていた
殺人犯の短期間での出所
強姦した犯人の父親が有力者だったため罪に問われなかった
「痴漢」をでっちあげた女性は何も処罰されない
ヘイトデモに対する警察の対応
日本政府による移民の奨励
立場の逆転
今はこういう時代か~・・・
— kumakuma (@onthekota9ma) September 30, 2017
日本終わったな~
悲しいですね。
・教える側と教えられる側
・教師と生徒
・雇用主と社員
・メーカーと販売店
・顧客と販売店
・政治と国民
立場が逆になちゃったよ。... https://t.co/aPvXnD6rlJ
スポーツ面での「終わった」
五輪の政治利用
部活での体罰に対する批判に対し「それだから弱体化する」文脈で
これが虐待とか草生えるな
日本終わったな。オリンピック出んのやめよーや。
ま、矛盾するようだけど、
他方で「無駄な根性論」みたいなのは無くなっていくべきではあるよな。スポーツ科学に基づいた指導法が広まっていくべきだ。
ただ、これのどこが虐待?とは思う。撮ってる奴もアホか。 https://t.co/e3P7AnwR6R
— 🍥アストミクスʚ♥ɞ@SUKEKIYO (@astmics) May 14, 2017
文化面での「終わった」
アイドルの質低下
JPOPの歌詞に変な英語が並び、日本語が使われていない
若い人のコミュニケーション能力
車運転しながらエロアニメを見ている人がいた
App Storeのランキング2位が音楽違法DLアプリだった
続き)え方や変な思考や変な捉え方するの多くない?
冗談通じないしどんだけ頭の回転悪いの?日本語通じてんの?
これで日本人なら日本終わったわ。 pic.twitter.com/ejrP5uW0It
— ✩°。ちゅん˚✩‧✧̣̥̇‧☪︎⋆。˚✩ (@ageha7727) February 2, 2017
「日本終わってる」「日本終わった」の言葉の底にあるものは
様々な角度から、「日本終了」がどのような場面で使われているかを見ました。
最も使われていたのが政治、特に衆議院総選挙の結果もしくは投票率についてです。
これが「日本終了」に結びつけられることは、どの政党が勝ってもある程度予想できます。
次に多かったのは、労働環境や賃金格差に関するものでした。「保育園落ちた日本死ね」が2016年の流行語になり物議を醸しましたが、それも社会環境への批判の一つでこれらとリンクするでしょう。
筆者にとって意外だったのは、国際競争力や経済成長率など、ほかのアジア諸国の台頭に対する危機感や「世界の中の日本」のようなものは限りなく少ないことでした。
もう少し細かく見ていくと、身近な話題に対して「もう日本終わってる」という文脈に繋がっています。
他の多くの使われ方や著名人の言葉を見て、文脈を整理していくと、全体として見えるのは、社会、特に将来への不安が強く、それに対し打破できないストレスから出ている言葉なのでは無いかと思われます。
なぜ「日本終わってる」「日本終わった」といわれるのか。
ここで使われる大半の「日本」は「国」を意味しておらず、我々が暮らしている「社会」を指していることがわかります。「終わる」というのは、「ジ・エンド」ではなく、「おかしい」「毒に侵されて瀕死の重傷」に置き換えられるのではないでしょうか。
「社会がおかしい」「社会が瀕死の重症」。
もう早くしないと取り返しのつかないことになります。
応急処置の処方箋が必要です。
出典: http://yasumi-08.hatenablog.com
社会は瀕死の重傷
原発避難者に対するいじめ、生活保護バッシング、レイプ犯罪のもみ消し、障がい者大量殺人など、社会の格差の拡大や閉塞感が生み出しているのは、生活「弱者」を叩くという異常な状況です。
「日本が終わった」という表現を使う前後の文脈を確認したところ、冗談半分のものも多かったですが、大半が真面目な文章であり、「国」ではなく「社会」に対し、警鐘を鳴らしているように思えます。
多くの人が発信していたのは、働いても働いても生活が苦しい「ワーキングプア」の問題と、親世代の介護の問題、そして自分たちの将来の不安です。それが解決されない状況に「終わってる」という表現を使っていました。
先ほど引用した宮台真司さんの言葉を借りれば、「けっして路頭に迷わずにすむような社会にしていくこと」が、処方箋ではないでしょうか。
国はその問題をどう解決していこうとしているのでしょうか。
特に労働環境と少子高齢化に対する、政府の動きを見ていきましょう。
あくまでも「けっして路頭に迷わずにすむような社会にしていくこと」の観点から見るものであり、正しい間違っているという意見を述べるものではありません。
出典: http://minkara.carview.co.jp
原発避難者いじめ記事
横浜市教育委員会が「いじめと確認できない」とした問題は世論を動かしました。
働き方改革
日本人の実質的な労働時間は長く、生産性の悪さが指摘され、サービス残業の多さ、有給消化率が世界一悪いという問題なども抱えています。また正規雇用、非正規雇用の賃金格差なども問題になっています。
上記の「日本終了」の調査でも、労働環境に関する言葉が、政治や選挙関連の次に多かったのも事実で、実質、庶民に直撃している話では無いかと思われます。
それに対し、政府は労働基準法を見直し、残業時間に「上限規制」を設け、派遣と正社員の格差是正の「同一労働、同一賃金」、そして収入が高い一部専門職を労働時間規制から外す「残業代ゼロ」制度(高度プロフェッショナル制度)を創設しようと動いています。
それが解決策になるかは、疑問視されています。以下の図と記事では問題点が整理されています。
「けっして路頭に迷わずにすむような社会にしていくこと」という観点から見ると、残業をすることが前提となっている政策では、解決方法にはならないのではと思います。路頭に迷わないということは「余裕をもった生活」ができることが前提であり、そのためには残業はゼロであるというところからスタートして考えるべきです。
それを実現するためには、国として企業の負担を低減させるために何ができるという議論にしないと、法で何を縛っても解決はしないと思われます。
出典: http://www.tokyo-np.co.jp
政府の推奨する働き方改革
主な論点を整理したわかりやすい図です。
以下は参考までに記事の全文のリンクを貼っておきます。
人口ボーナス?
安倍首相がニューヨークでの講演で使った「人口ボーナス」という言葉は少し話題になりました。
米ニューヨークでの講演で安倍総理「日本の開放性を推進する」として、「一定の条件を満たせば世界最速級のスピードで永住権を獲得できる国になる。乞うご期待です」とアピール。ただでさえ、帰化条件が緩すぎる日本で永住権が取りやすくなるのには断固反対します。 pic.twitter.com/QwDSZ1lPtE
— take4 (@sumerokiiyasaka) September 23, 2016
アメリカ・ニューヨークを訪問している安倍首相は日本時間21日夜、金融関係者らを前に講演し、日本の高齢化や人口減少について、「重荷ではなくボーナスだ」などと強調した。 安倍首相「日本は高齢化しているかもしれません。人口が減少しているかもしれません。しかし、この現状が我々に改革のインセンティブを与えます。日本の人口動態は、逆説的ですが、重荷ではなくボーナスなのです」 また、安倍首相は「日本はこの3年で生産年齢人口が300万人減少したが、名目GDPは成長した」として、「日本の人口動態にまったく懸念を持っていない」と強調した。また、「日本の開放性を推進する」として、「一定の条件を満たせば世界最速級のスピードで永住権を獲得できる国になる。乞うご期待です」とアピールした。 その後の質疑応答で安倍首相は、日銀の新たな金融緩和の枠組みについて、「政府として歓迎したい」とした上で、「政府・日銀が一体となってアベノミクスを加速させたい」と述べた。
少子高齢化の解決策として、減少する労働人口を増やすため、移民を入れることを推進することを述べています。
ここにも国民意識とのギャップがあるように思えます。
多くの人の「日本終わってる」によると、介護や将来の暮らしや年金への不安が課題となっています。
もちろん産業の発展がなければ「けっして路頭に迷わずにすむような社会にしていく」ための財政は得られませんが、この政策は「労働力」という部分だけに目を向けすぎてはいないでしょうか。
もう少し、党派を超えた議論を高める必要があるのではないでしょうか。
社会保障見直し
さらに財務省では以下の議論も行われています。
財務省は25日、財政制度等審議会(財務相の諮問機関)分科会を開き、2018年度予算編成で、医療機関に支払われる診療報酬を引き下げるよう提案した。高齢化で膨らみ続ける社会保障費の抑制が狙い。介護報酬の引き下げ、児童手当の特例措置の廃止なども求めた。 政府は社会保障費の抑制策として、高齢化に伴う自然増を18年度までの3年間で計1兆5000億円(年5000億円)にとどめる目標を掲げている。来年度の自然増は6300億円が見込まれ、目標達成には1300億円の圧縮が必要。診療報酬引き下げには日本医師会の反発が予想され、来年度予算編成で最大の焦点となりそうだ。 財務省は診療報酬の見直しについて、「2%半ば以上のマイナス改定(引き下げ)が必要」と指摘。薬価に加え、医師の収入になる本体部分の抑制を目指す。財政審分科会の田近栄治会長代理(成城大特任教授)は記者会見で、「本体報酬をマイナスにしなければ、(1300億円圧縮の)目標は達成できない」と述べた。
こちらは「けっして路頭に迷わずにすむような社会にしていくこと」とは正反対な動きとなっています。
日本を、取り戻す
出典: https://www.jimin.jp
2012年衆議院総選挙の自民党ポスター
「日本を、取り戻す」というキャッチフレーズに、民主党政権に批判的だった国民の支持を集めました。
とはいえ、先の選挙では、このような「社会が瀕死の重傷」の声を汲み取って、具体的な政策を訴える政党はありませんでした。もしかしたら街頭演説などで訴えている政党はあったかもしれませんが、報道やSNSを通じては伝わることがありませんでした。
一方で、最初にご紹介した「日本スゴイ」の書籍や番組は、「社会が瀕死の重傷」をかき消すか如くヒットしています。これが出た背景は、『「日本スゴイ」のディストピア』を書いた早川タダノリ氏によれば、バブルが崩壊し日本人が自国に自信を失ってきたが、政治家が「日本人としての誇りを取り戻せ」と発してからメディアが呼応したとのことです。2006年の第一次安倍政権で「美しい国」のスローガンが掲げられ、教育基本法が改正され「愛国心」が盛り込まれたことで、「愛国心」を強調した出版物が増えてきました。
そして民主党政権の失敗の後「日本を、取り戻す」のスローガンで自民党が再び政権につくと、再燃し、現在に至っているのではないでしょうか。
「日本スゴイ」は、目先の「社会が瀕死の重傷」から目を背け、頭上の「日本の素晴らしい文化」を認識することに、心を「取り戻」しているのではないでしょうか。
日本語が乱れている
もう一つ、「日本終わってる」で出てきたのが、日本語の乱れでした。
文化にとって、何が一番大事かといえば、言語であることは言うまでもありません。
なので、この指摘は至極真っ当な意見であると思います。
三島由紀夫も日本語が日本人にとって如何に大事かを「日本人論」で書いています。
出典: http://www.shinchosha.co.jp
三島由紀夫
ことばというものは、結局孤立して存在するものではない。芸術家が、いかに洗練してつくったところで、ことばというものは、いちばん伝統的で、保守的で、頑固なもので、そうしてそのことばの表現のなかで、僕たちが完全に孤立しているわけではない。
「政治家が言葉を間違う」ということは致命的ではないでしょうか。
さらに政府や政治家は、意図的に言葉を言い換えることもあります。
移民は「外国人材」、家族制度の破壊は「女性の活用」、戦争に巻き込まれることは「積極的平和主義」、秩序破壊のための実験は「国家戦略特区」、不平等条約のTPPは「国家百年の計」、南スーダンの戦闘は「衝突」……。議事録も勝手に書き換える。都合の悪いことがあれば、現実のほうを歪めるわけです。
ジョージ・オーウェルの小説「1984年」でも、言葉の言いかえは「ニュースピーク」として政治利用されていました。
出典: http://yoriblog.hatenablog.com
「1984年」 ジョージ・オーウェル
恐らく読んだ人は既視感を感じるような世界が描かれています。
この作品の支配者たちは、政権に不都合な言葉を排除し、無力化するのだ。 (中略) 言葉の言い換えもなされる。 戦争をおこなう役所なのに<平和省> 欠乏状態にある物資や食料を配給する役所は<豊富省> 党のプロパガンダを新聞などを通じて発信する役所は<真理省> 挙げ句の果てに、党のスローガンは次のようなものである。 ・戦争は平和である (WAR IS PEACE) ・自由は屈従である (FREEDOM IS SLAVERY) ・無知は力である (IGNORANCE IS STRENGTH) 以上の3つを国民は毎日聞かされていくうちに信じるようになる。 言葉を管理され、情報統制もされているので、次第に洗脳されていく。
言葉が乱れたり、従来の意味とは別の単語が使われるときは文化が壊れる危険な時といえるのではないでしょうか。「日本文化が瀕死の重傷」であるバロメーターにもなります。
終わったのなら「再開」しよう
「日本終わった」つまり「瀕死の重傷」の日本への処方箋を考えましょう。
まず「国」に期待するのは、感覚に乖離がある以上は難しいと思います。かといって自分の力で世の中を変えられるのは難しいでしょう。
でも自分でできることがあります。
宮台真司さんがまさに処方箋のヒントを書いていました。
殺人発生率について考えてみましょう。 社会Aは人々が「殺してはいけない」と確信するから殺人発生率が小さい。社会Bは監視と処罰が徹底しているから殺人発生率が小さい。 どちらが「良い社会」なのか?アリストテレスに従えば、社会Aが社会Bよりも殺人発生率が何倍も高かったとしても、「殺してはいけない」と確信する者が多ければ社会Aの方が良い。「有徳者が多い高殺人率の社会」は「有徳者が少ない低殺人率の社会」より良い。 これを最初に明言したのがアリストテレスです。繰り返します。人殺しの多寡にかかわらず、人々が内発的に良き振る舞いをしようと思っている社会こそが「良い社会」に決まっています。
つまり、教育の<最終目標>とは、子供を幸せにすることよりも、他人を幸せにする(ことで自らも幸せになる)子を育てること。
つまり、自分自身が「失敗した人間をけっして路頭に迷わずにすむような社会にしてい」こうとすること。
他人を幸せにすることが自分の幸せだと感じるようにすること。周囲がそういう考えがイケていると思われるようになり、それが広がっていけば、日本はすぐに「再開」するでしょう。