2021年05月20日公開
2021年05月20日更新
『トレパネーション』頭蓋骨に穴をあける穿頭術とは?【古代インカ】
頭蓋骨に穴をあける穿頭術「トレパネーション」は、まじないから身体改造、果ては第六感の覚醒までその用途は多岐に渡りました。なぜ人は頭蓋骨に穴を開けたのか。今回は場所や時代によって様々な意味を持った穿頭術「トレパネーション」を詳しくご紹介します。
目次
- 1あの星野源さんも頭蓋骨に穴を開けた!
- 2どうやって頭蓋骨に穴を開けるのか?
- 3穿頭術の起源は約8000年前まで遡る・・・
- 4古代インカで穿頭術が流行!
- 5人体改造としての「トレパネーション」
- 6トレパネーションは意識の覚醒ができる?
- 7映画『ア・ホール・イン・ザ・ヘッド』とは?
- 8「トレパネーション」による”意識の覚醒”は科学的根拠がない
- 9ジョン・レノンも「トレパネーション」を希望していた!
- 10トレパネーションで「意識の覚醒」を起こすメカニズム
- 11『ア・ホール・イン・ザ・ヘッド』の実践者も引き金に
- 12「トレパネーション」は自己改革の手段
- 13漫画「ホムンクルス」によって日本にも浸透
- 14「トレパネーション」のまとめ
あの星野源さんも頭蓋骨に穴を開けた!
俳優で歌手の星野源さんは2012年に「くも膜下出血」で倒れた際、額の頭蓋骨に穴を開ける手術を行いました。日本では脳の疾患で頭蓋骨に穴を開ける開頭手術は広く使用されている技術です。
しかし、「トレパネーション」は医療行為だけではなく、幸福を得るための手段や身体改造や第六感を覚醒させるための手段として用いられてきました。
ではなぜ、穿頭術はこんな広がりを見せたのでしょうか?
どうやって頭蓋骨に穴を開けるのか?
穿頭術は、頭皮を切開して皮膚を頭蓋骨からはがし、頭蓋骨を削ってから切り出したあと、皮膚を再び縫合します。医療行為として行う場合は切り出した頭蓋骨を元に戻したり、場所によってはそのまま戻さずに皮膚を縫合することもあるそうです。
しかし後ほど説明する、幸福感を得るためであったりなどの身体改造を目的としている場合は、例外なく頭蓋骨は切り出したまま、皮膚を縫合します。
穿頭術の起源は約8000年前まで遡る・・・
医学の祖「ヒポクラテス」
「医学の祖」と呼ばれるヒポクラテスの著書の中でも触れられている「トレパネーション」は、中世~近代ヨーロッパでは頭痛や精神病の処置として用いられました。頭蓋骨に穴を開けることで頭骨内にある「良くない(霊的な)モノ」を外部に出すことができると信じられていたのです。
ただそこに明確な根拠はなく、一種のまじないのようなものでした。
古代インカで穿頭術が流行!
数千年前までは、ヨーロッパや南太平洋などでも穿頭術が行われ、なんとアフリカ東側では1990年代まで続けられていたと言います。ですが、この手術が最も行われていたのは、14~16世紀のペルー、いわゆるインカ帝国でした。
なぜ古代インカで穿頭術が始まったのか?
始めは頭に大きな傷を負った人の処置として、頭皮を洗って、折れた骨の欠片を取り出すなどの、簡単な処置から始まったそうです。
後にこの行為が救命に繋がる治療だと間もなく気付いたと考えられています。穿頭術は、頭部に激しい傷を受けた、特に頭蓋骨を骨折した患者に施術されていたそうです。これについては膨大な証拠があると、形質人類学者ジョン・ベラーノ氏が語っています。
古代インカで穿頭術が盛んだった理由は?
当時世界では武器として槍や弓、剣が主流だった一方で、ペルーではこん棒や投石が主な武器として使用されていたそうです。そのため、他の国に比べ頭部の骨折が特に起こりやすかったことが推察されます。これが古代インカ帝国で穿頭術が盛んになった理由だと考えられています。
実際効果はかなり高かったようで、何と術後の生存率は70%でした。当時の衛生環境を考えればかなりの高水準です。
人体改造としての「トレパネーション」
1990年代に世界中でピアスやタトゥーが流行した頃、同時期にインターネットが普及したことによって様々な、より高度な「身体改造(ボディ・モディフィケーション)」が出てきました。体に物を埋め込む「インプラント」や小説『蛇にピアス』で有名になった舌を二つに割る「スプリットタン」などが知られていますが、その中で最も難易度の高いものが「トレパネーション」でした。
トレパネーションは意識の覚醒ができる?
元々は1960~1970年代にバート・フーゲスという人物が頭蓋骨に穴を開ければ「意識の覚醒」ができると主張して、医術とは別の意義を持ってトレパネーションを復活させました。当時は世間の理解を得られない部分もあり、80年代には終息してしまいましたが、90年代に起こったインターネットの普及によってその存在が再注目されるようになりました。
さらに、このムーブメントを追いかけたドキュメンタリー映画「ア・ホール・イン・ザ・ヘッド」が放映されたことによってトレパネーションの動きは更に加速することとなります。
映画『ア・ホール・イン・ザ・ヘッド』とは?
映画『ア・ホール・イン・ザ・ヘッド』は、1960年代から意識の覚醒のために自ら頭蓋骨に穴をあけた実践者たちの証言や、志願したジョン・レノンの顛末、さらには脳神経外科医や人類学者たちの医学的学術的分析により構成。トレパネーションがどれほど広い地域の文化と歴史に関わりをもってきたのかをつぶさに知ることのできる貴重な映像とエピソードを収められており、同時にカウンターカルチャーをこれまでなかった角度から捉えたドキュメンタリーでもあると言えるだろう。
この映画が放映されたことによって、ムーブメントは加熱し、現在も世界規模で進行しているそうです。
「トレパネーション」による”意識の覚醒”は科学的根拠がない
トレパネーションで起こる「意識の覚醒」は科学的な立証がされていません。そのため、本人の意思で行ったとしても"人体実験"という認識になってしまいます。「ア・ホール・イン・ザ・ヘッド」の中で、ITAGという団体を結成し、トレパネーションをしてくれる病院を探す活動も行い、南米で医師による施術が可能となっていました。
しかし世界全体で見れば施術できる病院はごくわずかで、セルフでやるには衛生面や脳へのダメージを考えても非常に危険であると言えます。
ジョン・レノンも「トレパネーション」を希望していた!
1960年代に最初に「トレパネーション」が提唱された際、中心となっていたバート・フーゲスはカウンターカルチャーの中でかなり有名な人物でした。そのため、同じカウンターカルチャーの中心にいた、ジョン・レノンがオノ・ヨーコとともにアムステルダムを訪れた際、バード・フーゲス氏に会いに行き、「トレパネーション」を希望するのは当然だったそうです。
トレパネーションで「意識の覚醒」を起こすメカニズム
「ア・ホール・イン・ザ・ヘッド」でバードは始め、逆立ちをするともっとハイになれるというごく簡単なことから実践しました。そのうちに逆立ちをしなくてもハイになるにはどうしたらいいかを考えてたどり着いたのが、頭蓋骨に穴を開けて脳内の圧力を低下させ、脳の血流量を増加させる「ブレイン・ブラッド・ボリューム(内血流量増大仮説)」でした。
『ア・ホール・イン・ザ・ヘッド』の実践者も引き金に
バードの「ブレイン・ブラッド・ボリューム」理論はある程度インテリ層にも受け入れられたようで、「ア・ホール・イン・ザ・ヘッド」の中でもアマンダという知的で美しい女性がセルフでトレパネーションを行っている様子が記録されています。
アマンダの映像は一種の伝説的なアイコンとなって、90年代にトレパネーションムーブメントが再燃する大きなきっかけにもなりました。
「トレパネーション」は自己改革の手段
ピアスやタトゥーなどで自分を変えたいという人たちは、新しい自分に生まれ変わるというよりも、本来の自分に戻るためであったり、肉体と精神に分かれている自分を同じ位置にするために行っていると言われています。
ではより難易度の高い「トレパネーション」を希望する人たちはどのような変化を期待しているのでしょうか?
頭蓋骨に穴を開ければ子供に戻れる?
人間は幼い頃、頭蓋骨が完全に閉じていないため「泉門」という隙間がありますが、大人になればこの「泉門」は自然と塞がります。「トレパネーション」をすることによって、子供の頃と同じような体に戻ることができ、自分をピュアな状態に戻せると「ア・ホール・イン・ザ・ヘッド」で説明されています。
頭蓋骨に穴を開けて一つ上の自分へ
トレパネーションの実践者は他のピアスなどの改造をした人と違い、意識の覚醒やハイな気分になるなど、自分を今よりも一つ上の次元に押し上げたいという願望があります。もちろん、本当に脳に直接的な影響が出てしまう危険性も高いわけですが…
「ア・ホール・イン・ザ・ヘッド」の中では、実践者たちは実際に頭に穴を開けたことによって幸せを得られたようです。
漫画「ホムンクルス」によって日本にも浸透
漫画「ホムンクルス」とは?
新宿西口の一流ホテルとホームレスが溢れる公園の狭間で車上生活を送るホームレス・名越進は、医学生・伊藤学に出会い、報酬70万円を条件に第六感が芽生えるというトレパネーションという頭蓋骨に穴を開ける手術を受けることになった。その手術以降、名越は右目を瞑って左目で人間を見ると、異様な形に見えるようになった。伊藤によると「他人の深層心理が、現実のようにイメージ化されて見えているのではないか」と言い、彼はその世界をホムンクルスと名付けた。そして、名越は様々な心の闇を抱える人達と交流していく。
この「ホムンクルス」でトレパネーションを知ったという人も多いのではないでしょうか? 日本で「トレパネーション」が第六感や超能力の覚醒という意味を持っているのはこの「ホムンクルス」が影響しているかもしれません。
「ホムンクルス」で人間とは何かを描きたかった
『コンプリート・ボディ・モディフィケーション・マニュアル』(コアマガジン)という本の中で「ホムンクルス」の作者である山本英夫さんは「人間とは何かということを描くためにトレパネーションをテーマにした」と話しました。「トレパネーション」という現実にあるショッキングなものを題材とすることで、人間のコンプレックスをイメージ化したものが見えることに、より説得力を持たせることができたのかもしれまんせんね。
「トレパネーション」のまとめ
「トレパネーション」は頭蓋骨に穴を開けるという一見ショッキングな行為ではありますが、実は古くから人間に根付いてきた行為でもありました。用途はおまじないから意識の覚醒まで実に様々な意味を持っていますが、現在ロシアでは「アンチ・エイジング」の効果があるのではないかと、研究がされているそうです。もしかしたら将来「トレパネーション」が一般的な行為になる日もあるかもしれません。
ただ、現代では医学的根拠のない非常に危険な行為であることは間違いありません。興味を持った方は「トレパネーション」が公に認められるまで心の片隅にしまっておくことをおすすめします。