2021年07月21日公開
2021年07月21日更新
江戸時代の脱力系絵師「仙厓義梵」のゆるふわ名画集
日本の脱力系絵師「仙厓義梵(仙厓和尚)」とは。見るだけで癒される”ゆるふわ”な禅画の数々と余白に書き加えられた画賛の深い意味とは何か。禅の心を知る「仙厓義梵(仙厓和尚)」の絵心との絶妙なマッチ具合がたまらない。「猫」や「犬」「七福神」などなど紹介します。
目次
脱力系なタッチが可愛い『仙厓義梵(仙厓和尚)』の絵
出典: http://bakemono.jp
作品名「指月布袋画賛」
こちらの絵は「仙厓義梵(せんがい ぎぼん)」という禅僧の画家が描いたもの。
一目でゆるい絵柄だとわかるこの特徴的な絵の題は「指月布袋画賛」と言います。
七福神の一柱である布袋様と子供が空を指差して歩いているという図。
書いてある画賛(文章)は「お月様いくつ、十三七つ」です。
これは昔の童謡の一節から来た言葉で「まだ若い」という意味です。
「指月布袋画賛」は月を指差していると推察されていますが、絵には月そのものが描かれていません。そこが考察しがいのある絵となっています。
この「指月布袋画賛」は「仙厓義梵」の代表作の絵と言われています。
出典: https://edo-g.com
「指月布袋画賛」と同じく七福神である「布袋」さまが描かれた絵です。
瓢箪のような出っ張ったお腹と気の抜けた表情に観賞する側も思わず緩んでしまいそうになります。
「指月布袋画賛」ともに「仙厓義梵」の絵柄がよくわかる禅画になっています。
出典: https://edo-g.com
作品名「指月布袋図」
「指月布袋画賛」と同じモチーフ、同じ構図の禅画です。
すっぽんぽんでお尻丸出しの子供たちが可愛らしいですね。
画賛には「あの月が落ちたなら誰にやろふかい」と書かれています。
月が落ちたなら誰かにあげたい、と読めますね。なんとも味わい深い文章です。
出典: https://ameblo.jp
七福神「布袋」彫刻
参考までに一般的に知られている「布袋」様の像はこのような感じですね。
「仙厓義梵」の絵のゆるさがどれだけ突き抜けているかがわかります。現代でいう”ギャグ漫画”のようなデフォルメは当時は「仙厓義梵」にしか出せない味だったでしょう。
出典: http://www.tv-tokyo.co.jp
「仙厓義梵」自身を描いたとされる絵
「仙厓義梵」は江戸時代後期の僧侶です。
「仙厓義梵」は11歳の若さで臨済宗の僧になりました。
その後32歳で行脚の旅に出て39歳で法嗣になり23年務めることになります。
「仙厓義梵」が絵画を描き始めたのは40代後半辺りからだと言われています。生涯に描いた絵は2000点にも上るとされています。
『仙厓義梵(仙厓和尚)』の描いた犬
出典: http://bakemono.jp
”きゃふんきゃふん”とは。作品名「犬図」
一見して豚のようにも見えますが、こちらは「仙厓義梵」が犬をモチーフにして描いた画賛です。
出っ張った犬のお腹にタコ糸のような物を縛り付けていることが見て取れます。
余白の文字には「きゃふんきゃふん」と書いてあります。
「きゃふんきゃふん」とは犬の鳴き声のことでしょうか。「仙厓義梵」の独特なセンスがこの「きゃふんきゃふん」の一文からわかりますね。
出典: https://edo-g.com
作品名「狗子画賛」
ラフのようなイラストですが少ない線でこれほどまでに犬という動物を表現できるのは「仙厓義梵」の絵画スキルが高い証拠です。
今で言うところの”ゆるキャラ”のような外見のこの犬は「きゃんきゃん」と鳴いているようです。
上で紹介した「きゃふんきゃふん」の犬図とはまた違った可愛さがありますね。
出典: https://edo-g.com
「いぬの年祝ふた」
大きくデフォルメされた鼻の大きな人間が豚のような犬を手綱で引いている禅画です。
画賛に「いぬの年祝ふた」と書かれています。
犬の年に因んだ祝いの唄を歌っているところでしょうか。
なにか年の初めのほのぼのとした情景を感じさせますね。
出典: https://edo-g.com
作品名「犬図」
「犬図」というシンプルな題。二匹の犬が中央に配置されています。
画賛には「いざなぎハ土用に犬を見玉ハす」と書かれています。
この禅画の意味するところは、「人は夏の土用の頃には精力が落ちてしまうが、イザナギの神や犬にとってはそんなことは関係なし」というようなものだそうです。
『仙厓義梵(仙厓和尚)』の描く「猫」
出典: https://www.lib.kyushu-u.ac.jp
作品名「猫の恋図」
猫が鳴いている画賛には「南無妙法蓮華経 猫の恋」と書かれている。
「仙厓義梵」は猫が求愛的に鳴いている様を「南無妙法蓮華経」を唱えているように見立てた、という説が濃厚なこの絵画。発想が面白いです。
『仙厓義梵(仙厓和尚)』が描く「花見」
出典: http://bakemono.jp
作品名「花見画賛」
大勢の人たちでお花見をしている様子を描いた禅画です。
画賛は「楽志みは花の下より鼻乃下」と書かれております。
解読するに「花より団子」的な意味合いかと思われます。
それぞれ花見を楽しむ人たちに一文が添えられてます。
「おどる」「たいこ」など。
一番下にいるひよこのような絵はどうやら子供を描いた物のようで「子供」と書かれているのですが、子供には見えない?これが「仙厓義梵」のセンスです。
『仙厓義梵(仙厓和尚)』の描く「臨済」
出典: https://www.lib.kyushu-u.ac.jp
作品名「臨済栽松図」
鍬を持ったこの人物は臨済宗の開祖である中国禅の頂点を極めたとされる「臨済義玄」を描いたとされる禅画。
「仙厓義梵」の禅画にしては珍しく、怒ったような表情が描かれています。
この禅画は「臨済義玄」と「黄檗希運」との問答から取られたとされています。
画賛には「一山一境到 二後人標榜 第三 歴生 夜に六十杖」と書かれています。
『仙厓義梵(仙厓和尚)』の描く「七福神恵比寿」
出典: https://www.lib.kyushu-u.ac.jp
作品名「恵比寿図」
七福神「恵比寿」さまを描いた禅画です。
この優しげな表情は「仙厓義梵」にしか出せない技ですね。
釣竿と鯛を抱えた「恵比寿」さまが楽しげに描かれています。
七福神「恵比寿」さまは度々「仙厓義梵」の禅画のモチーフにされています。
画賛には「祝ふた々々」と書かれています。
出典: https://www.lib.kyushu-u.ac.jp
作品名「恵比寿図」
七福神「恵比寿」さまが自分の図体ほどの大きい鯛を嬉しそうに抱きかかえていると言う禅画になっています。
「恵比寿」をモチーフに様々な絵画が描かれますが、このような構図の「恵比寿」さまは珍しいと思います。
画賛には「今歳の仕合 是れて知れた」と書かれています。
『仙厓義梵(仙厓和尚)』の描く「蛙」
出典: https://irorio.jp
作品名「座禅蛙画賛」
ずんぐりとした丸い図体のこの禅画、これは蛙なのです。
独特のタッチと、まるで一筆で描いたようなこの蛙は「仙厓義梵」の真骨頂ですね。
画賛には「坐禅して人か佛になるならハ」と書かれています。
なんでもこの蛙は座禅をしているのだとか。
出典: https://www.lib.kyushu-u.ac.jp
作品名「群蛙図」
大量に群をなす蛙たちを描いた禅画です。
「仙厓義梵」は度々蛙をモチーフに禅画を描いています。この「群蛙図」の禅画も例にもれず、蛙に座禅の心構えを見ているようです。画賛に「座禅して人ハ仏になると云 我れハかへるの子ハかへる也」と書かれています。
”座禅して人は仏になると云う……”とありますので、この禅画の伝えんとしていることは、座禅をただ組んだだけでは悟りの境地には到達しない。というような意味があるようです。
『仙厓義梵(仙厓和尚)』の描く「さじ加減」
出典: http://violet8.dreamlog.jp
作品名「さじかげん画賛」
大きく描かれた「大さじ」が特徴的な禅画です。
画賛には「生かそふところさふと」と書かれています。
現代仮名遣いで読めば「生かそうと殺そうと」でしょうか。
”生かすも殺すもさじ加減による”というような、ある種の諦観のような意味が込められていそうですね。
『仙厓義梵(仙厓和尚)』の描く”悟り”
出典: https://www.lib.kyushu-u.ac.jp
作品名「円相図」
この禅画はただ丸が描かれているだけの絵ではありません。
この禅画には「仙厓義梵」は深い意味を持たせています。
円相とは禅宗では悟りなどの意味があります。
しかし「仙厓義梵」はこの丸という図を”お餅”に見立てています。
上部に記載された画賛には「れの字の上の この字大鼡く ひもち行けり 誰もこの字そへて よみてよ」と書かれています。
右下部「古人画餅飢を凌ずといふ仙厓ハこれくへといふ世人くふひとありやと思ひかたへにさし置て 鼡ありてこれを喰むとしてたゝこのみをなめつる呵々」と書かれています。
禅の真髄である円相など”餅にして食べてしまおう”というような意味が込められていると言います。
こだわりすぎると物の本質には近づけないということなのでしょうか。
円相とは……と、問い続けること、禅問答の根本を見直しているのでしょうか。考察しがいがあります。
『仙厓義梵(仙厓和尚)』の描く「不立文字」の禅画
出典: http://violet8.dreamlog.jp
作品名「◯△□」
「仙厓義梵」を代表するもっとも有名な禅画はこれでしょう。
この禅画に対して「仙厓義梵」からの説明は一切ありません。禅において丸は悟りや宇宙、心理を意味しますのでなんらかの禅宗的な意味合いがあるのは確かです。
ゆるかわな禅画もいいですが、こういった言葉ではない文字での表現にも「仙厓義梵」の凄みを感じさせますね。
『仙厓義梵(仙厓和尚)』の残した禅画の最後のメッセージ
出典: http://violet8.dreamlog.jp
作品名「牡丹賛画」
一輪の花が描かれたこの禅画は「仙厓義梵」が晩年に描いたとされるものです。
画賛には「うへてみよ 花のそだたぬ 里もなし」と書かれています。
一歩踏み出して始めることが大事、というような意味なのでしょうか。
禅画というものは見る人それぞれ違った受け取り方ができるものです。
この禅画は、少年期から僧となり和尚を経て禅画家として活動してきた「仙厓義梵」の一生を飾る花なのでしょう。
「仙厓義梵」の禅画が多く載った画集
出典: https://www.amazon.co.jp
「仙厓義梵」画集『仙厓 ユーモアあふれる禅のこころ』
「仙厓義梵」の禅画が100点掲載されている画集です。
様々な解釈がなされている「仙厓義梵」の禅画を著者の解説、考察とともに紹介されています。
そして近年になり新たに発見されたという「すす玉名人図」も掲載されているようです。
数多く出版されている「仙厓義梵」の画集
出典: https://www.amazon.co.jp
『見て感じる かわいい禅画』
「仙厓義梵」と「白隠」の画集。
出典: https://www.amazon.co.jp
『仙厓 無法の禅』
「仙厓義梵」が40歳ごろに絵描きとして活動を始める前の修行僧や禅宗の頃を残された資料から解き明かし考察している著書。
多くの画賛が収録されていますので画集としても読むことができます。
『仙厓義梵(仙厓和尚)』まとめ
「仙厓義梵」が残した多くの禅画は、描き始めた頃から多くの人に愛されていたそうです。
そして「仙厓義梵」の死後、現代になっても世の人々を魅了してやまないメッセージ性の強い禅画はとても素晴らしいものです。
「指月布袋画賛」「円相図」「◯△□」が特に有名です。気に入られた方は画集を集めてみるのもいいかもしれません。
「仙厓義梵」の禅画の多くは「出光美術館」に贈呈されているようです。
ここの美術館で実物の禅画が見られるので、是非訪れてみてください。