方便の意味や由来を徹底解説!「嘘も方便」の使い方は?
方便とはどういう意味なのでしょう。「嘘も方便」という使い方も多いかもしれません。どんな意味で使う言葉なのか、詭弁とはどう違うのか、反対語・類語の意味や使い方、英語表現の意味など、由来となった仏教の説話と例文や使い方を交えて方便の意味を説明します。
目次
『方便』はどんな意味?
「方便」の読み方は(ほうべん)です。方便には主に3通りの意味があります。
1:仏教に由来する用語で、正しい教えに辿り着くための手段
2:ある目的を達するために便宜的に使われる手段
3:(しばしば「御方便」という表記で)都合のよいさま
なお、方便と同じ漢字で(たつき・たずき・たどき)という読み方で、「生活の手段」「生計」という意味もあります。大雑把な意味と読み方はわかったと思います。次に詭弁との意味の違いをみていきましょう。
『方便』と『詭弁』の違いとは?
「詭弁」の読み方は(きべん)です。
方便は「正しい目的にたどりつくための便宜上の手段」という意味ですが、詭弁は「そもそも間違っていることを、あたかも正しいと思わせるような論理の方法」という意味です。
方便は、相手に合わせて理解しやすいように説明する意味、詭弁は、話し手が自分が正しくないことを自覚しているにも関わらず、正しいと無理にこじつける意味に使われます。だます意図があって持ち出す論理が詭弁です。「詭弁」はあまり良い意味ではありません。
詭弁の「詭」という漢字は「いつわる」「あざむく」「そむく」という意味です。常用漢字に含まれないため、出版物では「詭弁」の代わりに「奇弁」「危弁」などで代用されることもあります。
由来となった仏教用語の『方便』の意味は?
方便とは、元々の由来は古代インドの言葉であるサンスクリット語のウパーヤ(upaya)の漢訳です。ウパーヤとは「近づく」「到達する」という意味で、方便とは仏の教えに近づく手段を指します。相手の宗教的理解度に合わせて教えを説くことで、仏教の意味を理解されやすくするという手段が「方便」です。
方便の仏教由来説話:キサーゴータミーの話
昔々、古代インドでお釈迦さまが生きていた頃のことです。
サーヴァッティーという町に、幼い息子を亡くしたばかりのキサーゴータミーという母親がいました。あまりの悲しみにキサーゴータミーはお釈迦さまの元へ行き「私の息子を生き返らせて下さい」と無理に頼みます。お釈迦さまは「今まで一人も死者を出したことのない家からケシの実を貰ってきなさい。そうすればその子を生き返らせる薬を作ってあげよう」と答えました。
人を生き返らせる薬。いくらお釈迦さまでもそんな薬が作れるのでしょうか。
キサーゴータミーは町の一軒一軒を回って「どうかケシの実を分けてください」と頼みます。ケシの実は香辛料として使われるため、どこの家にもあったそうです。しかし死者を出したことのない家があったかというと……。ただの一軒もありませんでした。どこの家でも、家族の死は経験したことがあったのです。
キサーゴタミーはお釈迦さまの元へ帰ってくると「死者を出したことがない家は見つかりませんでした。私の子どもだけが死んだのではないことがよくわかりました」と言いました。それを聞いたお釈迦さまは、人はいつかは死ぬこと、誰もが愛する人の死に立ち会うことがあることを静かに説きました。キサーゴータミーはお釈迦さまの教えを受け入れ、弟子となりました。
お釈迦さまは最初に「子どもが生き返る薬を作ってあげる」と言っています。これは嘘をついたことになります。しかし取り乱してお釈迦さまの元に来たキサーゴータミーに、その時「人はいつかは死ぬものである」と説いても、彼女は受け入れられたでしょうか。おそらくその言葉の意味は耳に入らなかったと思います。
実際に一軒一軒を訪ね歩き、いろいろな人々の話を聞くことで、キサーゴータミーの心は意味を受け入れることが出来るようになっていったのでしょう。方便を使う意味がここにあります。この嘘こそ方便です。
ちなみにケシというと麻薬が連想されますが、ケシの全てが麻薬成分を含むというわけではなく、また食用のケシの実は発芽しないように加熱処理をしているそうなので、心配することはないようです。
ヨーロッパではお菓子の材料として一般的だそうです。日本ではあんパンの上にふりかけてあるケシの実がおなじみですね。七味唐辛子の中にもケシの実が入っているそうです。
方便の仏教由来説話:三車火宅(さんしゃかたく)の話
あるところに大きなお屋敷があったそうです。大きいお屋敷なのですが、古くて敷地は塀で囲まれており、出入口の門は1ヶ所しかありません。
ある時このお屋敷が火事になりました。古い建物なのであっという間に火が回ってしまいます。みんな慌てて逃げましたが子どもたちは遊びに夢中になっていて火事に気がつきません。逃げるように必至で呼び掛けても子どもたちは出て来ませんでした。
屋敷の主人は一計を案じます。子どもたちは前から、おもちゃの羊が引く車、鹿が引く車、牛が引く車を欲しがっていたのです。屋敷の主人が「お前たちが欲しがっていたおもちゃの車が門の外にあるぞ!」中に向かってそう叫ぶと、子どもたちは「おもちゃの車」と聞いて喜んで飛び出してきました。もちろんおもちゃの車はありません。主人はあとでその代わりに、大きな白い牛が引く車を子どもたちに与えたそうです。
「おもちゃの車がある」と屋敷の主人は嘘をついたことになります。
しかしその嘘が子どもたちの命を救ったのです。これは意味のある嘘で、方便です。
この子どもたちは、目先の欲や快楽に気を取られて真実の仏の教えに気づかない人々の比喩だそうです。衆生を救いに導くための方便の意味がよくわかりますね。
『嘘も方便』の意味とは?
仏教の教えで使われていた意味から、方便には「(正しい、正しくないに関わらず)ある目的を達するために便宜的に使われる手段」という意味が派生しました。ただし目的が正しくない場合や相手のためにならないような自分勝手な理由での嘘の場合「嘘も方便」というのは、仏教的な本来の意味からは外れます。
『嘘も方便』の類語や反対語は?
『嘘も方便』の類語
では「嘘も方便」も類語にはどんなものがあるのでしょうか。
類語:「嘘をつかねば仏になれぬ」(読み方:うそをつかねばほとけになれぬ)
最終的な目的を達するためには、時として嘘も必要であるという意味です。
類語:「嘘も誠も話の手管」(読み方:うそもまこともはなしのてくだ)
面白い話というのは嘘も真実もどちらも適度に含んだものであるという意味です。手管は「人をだます手段」「かけひき」という意味。手管というとどちらかと悪い意味で使われますが、このことわざは悪い意味ではないと思います。場を盛り上げるために少々盛って話すという意味なので、これは日常的に行われていますね。
類語もたくさんありますが、他の類語よりも「嘘も方便」という使い方がよく使われますね。
『嘘も方便』の反対語
しかし方便といっても、嘘はやはり基本的につかない方が良いもので、嘘をつくことをいましめる意味の反対語もたくさんあります。
反対語:「嘘つきは泥棒の始まり」(読み方:うそつきはどろぼうのはじまり)
嘘は一見小さなことですが、無意味な嘘を平気でつくようになると、大きな罪である盗みも悪いこととは思わなくなる、良心が麻痺してしまうという意味です。
反対語:「嘘をつくと閻魔さまに舌を抜かれる」(読み方:うそをつくとえんまさまにしたをぬかれる)
閻魔(えんま)さまは、地獄に10人いると言われる冥界の裁判官・十王の1人。他の9人があまり有名ではないので、地獄の王さまといえば閻魔さま1人と思われているかもしれません。
生前に嘘をつくと、死後に地獄に行って審判を受け、閻魔さまに「お前は嘘をついたな!」と言われ、罰として舌を抜かれてしまうという信仰があります。
反対語:「嘘をつくと地獄へ行く」(読み方:うそをつくとじごくへいく)
嘘をつくと死後に極楽には行けず、地獄へいってしまうという意味です。
反対語も類語もあるということはバランスが大事という意味ですね。
『嘘も方便』の使い方を例文や具体例を使って解説!
「嘘も方便」の具体例と例文をみていきましょう。
「嘘も方便」の具体例
お客さまを送る時
お客さまが来て帰る時間になったとします。あなたが「そこまで送るよ」と言ったら「悪いからいいよ」とお客さまが答えたとします。そこであなたが「ちょうど買い物に行こうと思ってたから」と言ったとしたら、それが方便です。お客さまの気持ちの負担がなくなります。買い物に行こうと思っていたのが事実に反すること(=嘘)でも「嘘をついた!」と責められることはありませんね。
相手が待ち合わせに遅れた時
待ち合わせに10分遅れた相手に「待たせてごめんね」と言われた時に、たとえ5分前から待っていたとしても「ううん、全然。私もちょっと遅れたから」と言っても、それは嘘ではなく方便です。
好き嫌いをしない、と子どもに教える時
小さな子どもにお母さんが「何でも好き嫌いなく食べないと大きくなれないよ!」というのも方便です。好き嫌いがあっても時間が経てば大きくなれますが、栄養バランスは大切です。子どもの体のことを考えた方便ですね。
嘘も方便の例文
例文その1:初めての料理の時
「こないだ初めて息子がチャーハンを作ってくれたの」
「息子さんの初料理ね。美味しかった?」
「だいぶ焦げてたけどね。『嘘も方便』で、すごく美味しいっていっておいたわ」
例文その1の息子さんは、初めての料理を褒められて、料理好きになるかもしれませんね。
例文その2:新人さんをなぐさめる時
「新人さんが仕事が難しいって泣き言を言っていたけど、すぐ慣れるよって慰めたよ。嘘も方便だからね」
例文その2の新人さんは、慣れるまでがんばろう!と思うかもしれません。
人を傷つけないための嘘、結果的に人のためになるような嘘は方便といえます。こういう嘘は日常生活でよく使っているのではないでしょうか。方便は意外に身近な言葉なんですね。
『嘘も方便』の英語表現は?
では「嘘も方便」の英語での表現はどんなものがあるでしょうか。
The end justifies the means. (目的は手段を正当化する)
circumstances may justify a lie.(嘘をついても仕方のない状況もある)
英語でもやはり良い目的のためなら手段としての嘘はいいとする意味があるようです。The end justifies the meansは英語でもよく使われます。覚えておいて、英語で言えたらかっこいいですね。
meanは学校で主に「意味する」という意味で出て来たことが多いと思いますが、全然別な意味が複数ある言葉で、meansなどで名詞として「手段」「方法」という意味も持ちます。また「いじわる」という意味もあります。英語の単語も、色々な意味があるので使い方に迷いますよね。
『嘘』と『方便』は違うもの!方便の正しい意味を学ぼう!
方便の意味はいかがだったでしょうか?英語での意味も見て来ました。
話を盛り上げるために少し大げさに言う、などであれば嘘というほどのことはないかと思いますが、嘘はやはりつかずにすめばそれに越したことはありません。ほんの小さな、つかなくともいい嘘をついたせいで信頼を損ねるということは意外に多いものです。
方便というのは仏教由来の、正しい道に至るための手段なので、自分勝手な嘘をついて「嘘も方便」というのは本来の使い方からは外れます。嘘をつくなら他人も自分も幸せにする、そんな前向きな「方便」を使いたいものです。