『ひもじい』は方言?正しい意味や使い方など徹底解説!
「ひもじい」という言葉は、あまり聞き慣れない言葉です。方言という説もありますが、実際はどういう意味を持っている言葉でしょうか。「ひもじい」という言葉の意味や歴史、使い方を紹介していきます。正しい意味を知って、しっかり使っていきましょう。
目次
『ひもじい』という言葉を知っていますか?
「ひもじい」という言葉は現代ではめったに使われない言葉ですね。もしかしたら、聞いたことはあっても正確な意味は分からないという人もいるのではないでしょうか。
しかしながら、給料日などは会社の食堂で「最近とてもひもじい」という嘆きを聞くこともあります。この「ひもじい」という言葉、一体どういう意味があるのでしょうか。
「ひもじい」という言葉のイメージとして「お金がない」というイメージを持っている人もいます。それは決して間違いではありませんが、100%の正解でもありません。「ひもじい」は「お金がない」以外の意味も持っている奥深い言葉です。
この記事では「ひもじい」という言葉の意味や、語源を紹介していきます。間違った使い方をしないように気をつけましょう。
『ひもじい』の正しい意味とは?
「ひもじい」という言葉の意味を調べてみると、次のような記載があります。
( 形 ) [文] シク ひも・じ
〔名詞「ひもじ」の形容詞化〕
腹がへっている。空腹である。 「 - ・い思いをする」
ですので、冒頭で紹介したように「給料日前だからひもじい」という使い方は間違っている可能性があります。単に「給料日だから財布にお金が入っていなくて辛い」という意味では本来は使いません。
本来の意味に即した使い方で解釈すると「給料日前だからひもじい」という言葉は「給料日前だから財布にお金がなく、満足に食事ができずに辛い思いをしている」という意味になります。もし、今まで単に「お金がない」という意味で使っていた覚えがあるのなら、今後は正しい使い方をするように気をつけましょう。
『ひもじい』の語源は?
「ひもじい」という言葉はどのような語源があるのでしょうか。実は「ひもじい」の元の形亜は「ひもじ」という言葉です。
このひもじいの元の形である「ひもじ」は、「ひだるし」という形容詞の文字詞(もじことば)です。 文字詞とは、物の名を直接言うことを避け単語の語頭音節だけを残しているものです。中世後期の女房詞から起こり「はずかしい」を「はもじ」などと、表したものです。文字詞に関しては、後程実例を交えて詳しく解説していきますのでぜひご覧ください。
19世紀初頭に書かれた「続膝栗毛」(ひざくりげ)には「ひもじき時のまづいものなし」という文面があります。ここからも「ひもじい」は決して最近生まれた言葉ではなく、歴史の古い言葉であることが分かりますね。
ひもじの形容詞
ここでは、「ひもじい」の文法的な解説ををしてきます。
「ひもじい」と言う言葉は、「ひもじ」の形容詞的用法です。「ひもじ-い」を更に調べると、「ひだるい」の「ひ」に「文字」を加えた言葉で「ひもじ(ひ文字)」の形容詞化されている言葉になります。ひどく空腹であること、またその様を表す様子、という意味自体には変わりないのですが、ひもじいからより掘り下げると「ひだるい」という言葉も覚えることができますね。
女房言葉で使われていた
先ほど、中世後期から女房言葉として使われていたと解説しました。
空腹のつらさをあらわした「ひだるし」の文字言葉の「ひ文字」を形容詞形にしたものが、女房言葉とはどういうことでしょうか。そもそも、女房言葉とはどのような言葉なのでしょうか。
女房言葉とは「中世女性語」ともいいます。その意味は「女性だけが使ってた詞」です。ですから、その女房言葉を、いくら時代が違うとはいえ現代の男性が使うのは違和感があるかもしれません。ただし、女房言葉はそもそも宮中に勤める女性が品格をあらわすために用いていた言葉です。宮中では女性しか使いませんでしたが、庶民言葉になるにつれて男女の区別なく使われるようになりました。
ですので、現代では女性だけではなく男性も問題なく使って良い言葉だと認識できるでしょう。周りの男性が「ひもじい」と言った時に「それは女性の言葉です!」と主張するとびっくりされてしまうかもしれませんね。
現在でも耳にする女房言葉
特に意識していないだけで、現代にも女房言葉が広く残っています。その女房言葉は、女性はもちろん男性も日常的に使う言葉も多くあります。では、どのような女房言葉が現代に残っているのでしょうか。
語頭に「お」が付く言葉
現代のみなさんが使う言葉で、「お」が付く言葉は女房の言葉の可能性があります。知らずに使っている場合もあるので、何個か例を挙げてみましょう。
・「おかか(鰹節)」は、「お」+「鰹節の『か』を重ねたもの
・「おかず(御菜)」は、お惣菜のことですが、数々取りそろえることから派生
・「おさつ(サツマイモ)」
・「おなか(腹)」
・「おにぎり」または「おむずび」は、にぎりめしのこと。
このように、たくさんの例が出てきますね。言葉によっては「(ごん⇒ごぼう)のように、『ご』をつけて使う例もあるようです。
語尾に「もじ」が付く文字詞
そして、語頭だけでなく、ひもじいの「ひもじ(ひ文字)」のように、語尾につけて使う言葉も意外とたくさんありました。こちらも数例紹介しましょう。
・おめもじ(お目にかかる)「御目にかかる」の「おめ」+文字
・しゃもじ「(杓子)の『しゃ』」+文字
・はもじい「恥ずかしい」の「は」+文字
・ゆもじ(浴衣)「浴衣(ゆかた)」の「ゆ」+文字
「恥ずかしい」は「は文字」、「ひもじい」は「ひ文字」といた女房言葉なのは少し意外ですね。ただし、現代は「ひもじい」のように男性も普通に使っている言葉です。
『ひもじい』は『ひだるい』が変化した言葉?
「ひもじい」はお金がない時だけに使う言葉ではないことが分かりました。では、「ひもじい」の語源はなんでしょう。
語源を調べてみると、「ひだるし」の文字詞(もじことば)である「ひ文字」を形容詞形にしたものというのが正しいものでした。それでは、『ひだるい』についても更に理解を深めていきましょう。
ひだるいとは
ひもじいから遡って調べていった「ひだるい」と言う言葉、皆さんは漢字で書くことが出来ますか。
「饑い」と書いて「ひだるい」と読みますが、これを読める人はほとんどいないでしょう。漢字の偏が「食」ですので、やはりお金がない時だけではなくお腹が空いた時にも使える言葉であることが分かりますね。
ひだるいには「空腹」を意味する言葉
「ひもじい」の語源は「ひだるい」であることが分かりました。では「ひだるい」にも他の意味はあるのでしょうか。
「ひだるい」を調べてみると、やはり「空腹であること」を指し示す文章が多いです。他の意味として古語で使われていたという説もありますが、「ひだるい」も「ひもじい」と「空腹」と認識して良いでしょう。
( 形 ) [文] ク ひだる・し
空腹である。飢えてひもじい。 「賢者-・し伊達(だて)寒し」 「この一両日食物(じきもつ)絶えて,せんなく-・く候ふままに/著聞 19」 〔現代語では,西日本を中心とする言い方で共通語としてはあまり用いられない〕
『ひもじい』が方言と考えられる理由って?
先ほど引用で説明した通り、「ひだるい」は現代では西日本を中心とする言葉だと認識されていることが多いです。それに伴い、「ひもじい」という言葉は、方言として扱われる場合もあります。では、なぜ方言だと認識されるのでしょうか。
前述した通り、「ひもじい」はそもそも高貴な女性だけが使用していた言葉でした。それが憧れとともに徐々に庶民にも広まり、浸透していくことになります。実際、明治時代には全国での共通用語として教科書にも記載があったも言われています。
しかしながら、現在では但馬地方の方言とも書かれており、関西地方、大阪弁、四国地方で使われることが多い言葉になっています。ただし、決して他の地域で絶対に伝わらない言葉というわけではないのでご安心ください。
『ひもじい』の類語を紹介!
「ひもじい」には類語はあるのでしょうか。二例紹介していくので、場面に応じて使い分けてみましょう。類語を覚えておくことで、ちょっとした時の表現の幅が広がりますよ。
顎が干上がる
『顎が干上がる(あごがひあがる)』という言葉は、「ひもじい」の類語の中でも特に有名なものですね。
意味としては、仕事がなくなって食べることが出来なくなったとき、お腹が空いている状態を意味します。お腹がとても減ると顎が自然と上がるので、その状態を表した言葉ですね。また「収入がなくなって生活ができない」という意味も持っています。金銭的に厳しい状況に陥っても、顎が干上がる前に対策を講じましょう。
飯の食い上げ
「顎が上がる」の他の類語は「飯の食い上げ」です。こちらも同じく、生活ができないくらいに経済的な余裕がないことを意味した言葉です。ご飯を食べる余裕がないことが伝わってくるような言葉ですね。お金がないことを強調したい時に「最近飯の食い上げで空腹がつらい!」のように使ってみても良いのではないでしょうか。
『ひもじい』の意味を知って正しく使いましょう!
たまに聞く「ひもじい」という言葉の歴史や意味を紐解いていくと、色々な情報を得ることができますね。聞き慣れない言葉かもしれませんが、必要に応じて正しく使ってみましょう。