2010年『メキシコ湾原油流出事故』のその後…【ディープ・ウォーター】

BP社管理下の油田で7年前に起きた事故。流出した原油はあっという間にメキシコ湾を覆いました。油田からメキシコ湾に流出した原油は、その後どんな影響を人々に残したのでしょうか。多額の賠償金を負ったBP社の事故後とともにまとめました。

2010年『メキシコ湾原油流出事故』のその後…【ディープ・ウォーター】のイメージ

目次

  1. 12010年メキシコ湾流出事故とは
  2. 2史上最悪レベルの原油流出事故
  3. 3その後、世界規模で対策に講じるも…止まらない油田の原油流出
  4. 4事故発生から3か月…ようやく油田の原油流出が止まる
  5. 5油田で行ったBPの対策は正しかったのか?
  6. 6BP社がイメージのため原油流出などの検索ワードを買収?
  7. 7現代を代表する人災! 事故原因は利益を優先するBP社の企業姿勢
  8. 8原油流出で、その後メキシコ湾に生じた被害は
  9. 9日本の企業にもこれだけの影響が
  10. 10原油流出事故から7年…メキシコ湾の現在は
  11. 11メキシコ湾油田近くで現在も多く見られる奇形腫の魚
  12. 12中和剤の影響?メキシコ湾の海流が弱くなっている
  13. 13長期的な被害は現在のところは不明とも
  14. 14莫大な被害額を賠償しながら活動を続けるBP社
  15. 15その後も世界中で発生する原油流出事故

2010年メキシコ湾流出事故とは

2010年4月20日、メキシコ湾油田でBP社の作業中に大爆発が発生。

この日、アメリカのルイジアナ州ベニス沖にある石油掘削リグ、ディープ・ウォーター・ホライズンの作業中に突如原油が噴出。原油は大爆発を引きおこし、11人の作業員の方が亡くなる大惨事となりました。

出典: http://www.huffingtonpost.jp

激しく炎上するディープ・ウォーター・ホライズン

原油に引火した火は激しく燃え広がり、施設の鎮火には事故発生から丸2日を要しました。

鎮火後も止まらない油田からの原油流出

出典: http://karapaia.com

一面に広がる原油

爆発事故も悲惨なものでしたが、原油の流出は私達の生活にそれ以上の影響を与えることになりました。

海上での消火活動は困難を極め、最終的に鎮火をしたのは2日後でした。

鎮火後、ディープ・ウォーター・ホライズンは沈没していきましたが、海底の油田には掘削作業のためのパイプが残り、その損傷部分から大量の原油が流れ出す事態となってしまいました。
そして、このことが後々まで大きな影響を残すことになるのです。

原油流出事故を起こしたディープ・ウォーター・ホライズンとは?

出典: http://logmi.jp

2010年に原油流出事故を起こす前のディープ・ウォーター・ホライズン

傷ついた前の掘削リグに代わり、活躍されることが期待されていたのですが…

自動位置制御システムを有する最新型の半潜水型石油掘削施設。
2010年に爆発事故を起こす前には、石油掘削の深度で世界記録を達成しており、その性能は折り紙付きでした。

原油流出事故のあったメキシコ湾では当時、別の掘削リグが稼働していましたが、ハリケーンによってダメージを受け、2010年の1月にディープ・ウォーター・ホライズンと交替することになりました。

史上最悪レベルの原油流出事故

事故後も止まらない油田からの原油の流出

ディープ・ウォーター・ホライズンの沈没後、BPは様々な対策を講じましたが、原油の流出は全くおさまる気配がなく、原油は海へとどんどん流れ出していきました。
その流出量は当初、一日あたり80万リットル程度と推定されていましたが、あとになりその4倍である320万リットルもの量が流出しているのではと指摘されるようになりました。

出典: http://www.bo-sai.co.jp

海面を漂う大量の原油

赤い渦となって原油が海に流出しています。

メキシコ湾の原油の流出事故は現代でも最大級のものに

出典: http://oka-jp.seesaa.net

原油まみれのペリカン

見ているだけで胸が苦しくなります。

出典: http://karapaia.com

夕日が流出した原油に反射する

海に沈む夕日は美しいはずなのに、毒々しい光景となってしまいました。

出典: http://www.bo-sai.co.jp

海面を漂流する油

一体どれくらいの時間をかければ、これらを回収することができるのでしょうか。

これまでの原油流出事故で最大級と言われていたのが1989年にアラスカで起きたエクソン・ヴァルディーズ号原油流出事故。この事故では4万キロリットルもの原油が海に流出しましたが、ディープ・ウォーター・ホライズンによる流出の被害はこれを遥かに上回るペースでした。
メキシコ湾の原油流出事故は、現代を代表する大事故となってしまったのです。

出典: http://undoub.ti-da.net

エクソンバルディーズ号

4万キロリットルの原油が流出、25億ドルの被害を出しました。
この事故を教訓に、安全対策を講じていれば結果は違ったのではないでしょうか。
現代は情報が溢れているにも関わらず、私たちは必要な情報から学ぶことができていないようです。

その後、世界規模で対策に講じるも…止まらない油田の原油流出

出典: http://xn--o9j0bk3036a906d.net

オバマ大統領も対策に乗り出す

アメリカ国内4州に緊急事態を発令し、自らも視察に乗り出して被害を最小限に留めるべく対策を練りました。
しかし、米政府自体にも原油の流出に有効な対策があるわけではなく、BPに推移を報告するように求めるのが精一杯でした。

この件に関してオバマ大統領は、現代史上もっとも優柔不断な大統領とのそしりも受けました。

事故発生から3か月…ようやく油田の原油流出が止まる

出典: http://kihara-in-us.blogspot.jp

原油流出への対策の数々

いずれも深海で行う作業となり、困難になることが予想されていました。

流出が止まるまでの経緯
対策1 2010年5月5日開始 
    原油の流出口にふたのものようなものをかぶせる→失敗

対策2 2010年5月26日開始 
    泥を大量に流し込み、原油を抑える→失敗

対策3 2010年7月12日開始
    流出口にキャップをかぶせて吸い上げる→成功

最初から正しい対策をとればここまでの流出に至らなかったのではという批判があります。
また気になるのがこの作戦の間に大量に中和剤を投入したこと。これによってどんな影響が現在出ているのかは後述します。

油田で行ったBPの対策は正しかったのか?

トップキル作戦とは?

出典: https://nappi10.wordpress.com

トップキル作戦の概要

この作戦が失敗したことで流出量が莫大な量になったといえます。

原油の流出口に泥を大量に流し込むトップキル作戦にすべてを託したBP社。
しかし、この工法は深海で行われたことはないため、成功する確率は決して高くないであろうといわれていました。
そしてこの作戦が失敗に終わったことでBP社にはこれ以上の対策がなくなり、この後数か月にかけて原油を垂れ流すこととなりました。
このことが、後述する環境破壊を招くこととなるのです。

BP社のトップは失言でさらに対応のまずさを露呈する

出典: http://higasinoko-tan2.seesaa.net

現代の失言王 トニー・ヘイワード

事故以降、あまりに無責任なヘイワード氏の発言が度々話題になりました。
一例をあげると…
・なぜ我々がこんな目にあうのだ!
・海は広い。流出した原油は大した量ではない。
・私も自分の生活を取り戻したい
・作業員が体調不良?食中毒では?

などなど、事故の当事者とは到底思えないひどい発言ばかりです。
現代のイギリスを代表する企業のトップが、このような発言をすることに驚かされます。

BP社がイメージのため原油流出などの検索ワードを買収?

さらに批判を浴びたのが、BP社による検索ワードの買収疑惑です。
BPは、原油 流出などの言葉で検索をした際に自社サイトが上位にくるように買収をしているとの憶測が流れました。

このこともまた人々の怒りに火を注ぐことになりました。

現代を代表する人災! 事故原因は利益を優先するBP社の企業姿勢

原油流出事故の可能性は指摘されていたが…対策を怠ったBP

今回の事故が起こる前から、いくつかの危険要因が指摘されていました。
それは
① 油田からのガス発生に耐えられる設計になっていない
② セメントを注入するのに必要な機材を使っていない
③ セメントの品質をテストしていない

これらの現場からの声をBP社は全て無視しました。
こういったBPの姿勢が事故の原因の一つとなったことは間違いないでしょう。

事故への対策よりも油田の掘削をBP社が急いだ結果…大きな被害が

実はメキシコ湾での掘削作業は、ディープ・ウォーター・ホライズンへの施設交代などもあり大幅に工期を過ぎていました。
そのため、安全性よりも早さを優先してしまったのです。

その結果、BPはあまりに大きなものを失うこととなりました。

原油流出で、その後メキシコ湾に生じた被害は

油田から流出した原油によって傷ついたメキシコ湾の海洋生物たち

出典: http://www.shikoku-np.co.jp

油の海を泳ぐイルカ

その後の調査で、現地のイルカの多くに肺障害が見つかりました。
障害の原因が原油とは確定していませんが、その可能性は非常に高いといえるでしょう。

事故以降、メキシコ湾沿岸にはイルカやウミガメの死骸が大量に漂着するようになりました。
また、珊瑚の多くが死滅したと報告されています。

メキシコ湾沖の漁業にも深刻な被害が

出典: http://natgeo.nikkeibp.co.jp

油まみれのカニ

当然ですが、食用には適しません。

メキシコ湾沿岸ではエビ、カニなどの漁業が盛んでしたが、事故の影響でこれらの漁業も大打撃を受けました。
事故の後しばらくは、網をひいてもオイルまみれになってしまい、とても漁ができる状況ではなかったようです。

しかしエビ、カニ類は生存環境を比較的選ばない生物で、その後は一定の漁が可能になっているようです。

日本の企業にもこれだけの影響が

ディープ・ウォーター・ホライズンの油田掘削は多国籍プロジェクトだった

出典: http://www.news-postseven.com

あの日本を代表する企業にも飛び火

三井物産も賠償金を支払うことに

日本企業にも賠償負担を求めるBP社

メキシコ湾から地球の反対にある日本まで、原油が漂着することはありませんでしたが、事故の影響は意外なところに飛び火しました。

実は事故を起こした油田の掘削プロジェクトには三井物産の子会社が10パーセント出資をしていたのです。


そのため、BPは三井側にも事故の賠償金負担を求め、その額は1800億にものぼっていました。
三井側は事故の原因究明まで待ちたかったようですが、どこまで大きくなるかわからない賠償金をこれ以上負担することを避けるため、BPとの示談に応じました。
結局、この件で三井物産が負担することになったのは870億円。この示談金をもって三井はBPと完全に手を切ることとなりました。

原油流出事故から7年…メキシコ湾の現在は

その後、なぜか日本ではほとんど報道がなくなった

事故発生から3か月、ようやく原油の噴出が止まりましたが、依然海底には大量の原油が沈み、また原油のなかを泳いだり油まみれの小魚を食べた大型魚がいるなど、むしろその後の方が気になるところです。
しかし、日本では噴出が止まったその後の報道がされることはほとんどありませんでした。
現在、メキシコ湾のその後を調べようとインターネットで検索をしても、日本語の情報は十分にありません。

原因としては、やはり震災が起きたり政局が変化したりと国内での大事件が相次いだことがあるでしょう。

しかし、福島での原発事故などのその後も気になる中、同じように環境汚染型の事故である今回の流出は、日本でこそ報道すべきであったのではないでしょうか?

現在も昔の生活に戻ることはできないメキシコ湾の海洋生物たち

出典: http://japanese.china.org.cn

海岸に打ち上げられたウミガメ

今なおウミガメの死骸は上がり続けています。海洋生物の被害は今なお続いているのです。

事故から5年が過ぎた2015年、メキシコ湾での生物たちについての報告書が出されましたが、その内容は以下の通り、とてもショッキングなものでした。

・事故後、900頭ものイルカが原油の流出域で死亡や座礁している。
この数値は事故前に比べて圧倒的に多い。

・生存しているイルカにも半数以上が何らかの疾患を抱えている。

・天然記念物であるウミガメの死骸は毎年500頭以上に上り、事故前に比べて死亡数が劇的に増加した。

・マグロなどの大型魚や鳥には、原油由来の有毒物質による体内汚染が見られる。

このように、生物たちにとって原油流出事故はあまりに過酷なものでした。

メキシコ湾油田近くで現在も多く見られる奇形腫の魚

メキシコ湾に大量にまかれたのは原油だけではありません。
油を除去するための強烈な薬が無尽蔵にばらまかれました。
その結果、これらが原因であると考えられる奇形種の魚が現在、多数見られるようになっています。

メキシコ湾油田周辺の奇形種の魚たち(閲覧注意!)

出典: http://natgeo.nikkeibp.co.jp

色素異常のある魚

本来は赤一色のレッドスナッパーという魚ですが、黒い模様が見られます。これは胆管のつまりとみられており、このつまりを起こしている原因は油が考えられるとのこと。

また、事故前はメキシコ湾海域では病斑をもつ魚は全体の0.1パーセントにも満たない量でしたが、事故後は20パーセント以上にも膨れ上がったそうです。

出典: http://karapaia.com

目の無いエビ

一見普通に見えるこのエビ、不気味なことによく見ると目がありません。

出典: http://karapaia.com

子供がついているエビ

頭部にエビの子供が付着しています。

メキシコ湾の海産物も食べられないなぁ(;_;)/~~~//奇形のエビ、病斑のある魚、目のないカニ... BP重油流出後に出た奇形水産物(動画あり) http://t.co/9UjlFLVc @gizmodojapan #gizjpさんから
— ひろっちゃん (@hirottiyan) 2012年5月7日

メキシコ湾油田海域で奇形種が増えた原因は原油と除去剤?

米政府やBP社は、これらの奇形種の増加と事故との因果関係を認めていません。

しかし、除去剤が奇形種を増やす原因となるであろうことは、当初から指摘されていました。
除去剤は、ゴムですら分解してしまうほどの強力な力を持つもの。
これは人間ですら、触れると嘔吐や腹痛、神経系の病気や血圧の上昇などをもたらし、小児や胎児には重大な影響が出るといわれています。

また、原油が海水に触れることで発生する有毒な化合物は、魚などの単純な構造を持つ生き物が接すると、遺伝情報にダメージを与えるといわれています。

これらのことから、油と除去剤が奇形種を増やした原因であることはほぼ間違いないといえるでしょう。

中和剤の影響?メキシコ湾の海流が弱くなっている

本来水と油は混ざらないもの

出典: https://ameblo.jp

水と油

比重の異なる水と油は通常混ざることはありません。

今回の事故では油田からの原油の噴出が止まるまでの間、大量の中和剤をまきました。
これが、海水と流出した原油を中和させ、いわばマヨネーズのような物質にしていったのです。
そしてこのマヨネーズのような重みをもった海水と原油の化合物が、メキシコ湾の海流減少の原因となっているのです。

ショック…現在、メキシコ湾の海流は減少している。

出典: http://www.y-asakawa.com

事故以前のメキシコ湾海流

赤は潮流の速いところを表しています。

出典: http://www.y-asakawa.com

現在のメキシコ湾海流

潮流の速いところが極端に減っています。暖流の勢いが弱くなっているようです。

海流が減少することによって心配されることはいくつもあります。
海流は風に大きな影響を与えます。これが減少したことにより、季節風も影響を受け、異常気象がますます増えるのではと危惧されます。

また暖流が減ることにより、地球の寒冷化が引き起こされる心配もあります。

長期的な被害は現在のところは不明とも

出典: http://commonpost.boo.jp

今も海底に残る原油

海面の油は除去剤によって一応分解されたように見えます。
しかし海底には今なお、大量の原油が沈んでおり、それらがいくつもの油たまりを形成しています。

原油が持つ毒性は、単純に生物の健康に被害を与えるだけでなく、遺伝情報にダメージを与えるものです。
これらの生物が長期的に食物連鎖を繰り返していったときに、生態系にどのような影響が出るのかはいまだ未知数です。

原油流出の影響は限定的、との姿勢を変えないBP

出典: https://lopezdoriga.com

解決済み、との姿勢を崩さず

BP社の従来の主張には変わりはありません。

海面の原油が除去完了し、地元の漁師にも保障が完了した現在、もう事件は解決済みとBPは主張しています。

しかし、長期的な影響に対してBPが責任を負わないのであれば、一体だれが責任を負うというのでしょうか。

莫大な被害額を賠償しながら活動を続けるBP社

出典: http://gigazine.net

BPに課された賠償金は莫大な額に

金銭で保障できることばかりではありませんが…

BP社の賠償額の確定は、事故から5年後の2015年

アメリカ政府がBPに課した罰金は、208億ドル。
これは一企業に課せられたものとしては現代史上最高の額となりました。

また、BPはこれに加えて、原油回収費用と被害者への補償として280億ドルを拠出することになりました。

更に、株価の下落によってBPは時価総額にして9兆円を失いました。

それでも生きながらえるBP社

そこらの企業であれば一瞬で倒産に追い込まれるほどの賠償金を抱えることとなったBP社。
しかし、現代イギリスを代表する企業であるBPは地力が他の企業とは違います。年15億ドルもの売上をもつBP。事故後しばらく、株主への利益の配当を止めていたものの、2017年には再開しました。

その後も世界中で発生する原油流出事故

出典: http://www.huffingtonpost.jp

原油に汚染された川

生活を破壊された現地の方の怒りはどれほどのものか。
現代社会は原油なしに成り立つことはできませんが、だからこそ、こうした事故の一つ一つをしっかりと記憶する必要があります。

メキシコ湾の魚から現代の我々は何を学ぶ?

2010年のディープ・ウォーター・ホライズンの事故発生から7年が過ぎた現在、私たちは何かをあの事故から学んだのでしょうか。
あの黒い原油の波は現代に何か教訓を残したのでしょうか。

残念ながら、その答えはNOのようです。
原因の究明も十分になされないまま、相変わらず現在も世界中で原油が掘削されています。
そして、繰り返される事故に世界各地で被害が生じています。

石油化学の技術とは切ってもきれない時代である現代であるからこそ、
ディープ・ウォーター・ホライズンが起こしたことや、事故のその後をしっかりと検証していく必要があるのではないでしょうか。

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